第9話:一難去って……
沙和さんがテーブルに置いた物を、僕達はみんなで覗き込む。
「え? これは……」
「はぁっ!? 王様ゲームカードぉっ!?」
「あ、貴女。本気ですの!?」
「もちっ! 本気だよっ!」
王様ゲームカード?
また知らないゲームの話題が出てきたけど、それを見た喜世さん達三人は、急に顔を真っ赤にする。
え? もしかしてこれ、恥ずかしくなるようなゲームなの?
さっきまでのことがあったせいか。勝手にそう思っちゃった僕をよそに、会話は進んでいく。
「ルールは単純。最初に目的地に着いた人が王様になってー、王様ゲームをするだけ。ね? 簡単っしょ?」
「か、簡単は簡単かもしれないですが……」
ローテーブルを挟んで向かい側にいる千麻さんが、真っ赤な顔のままおずおずとこっちを見る。
釣られて集まったみんなの視線。瑠音さんと喜世さんも様子を伺ってくる中、唯一沙和さんだけが僕ににこにこと笑顔を振り撒く。
「まー。先に目的地に着けば問題ないしー、ダメでも命令される確率は二分の一じゃん? 色々気になるかもしれないけどー、イケるっしょ。ね? 優くーん」
「え、えっと……」
否定されてないって事は、多分このゲームは恥ずかしくなること──例えば、さっきのスキンシップみたいなのが交じってるって事だよね……。
さっきまでので慣れたかといったら、絶対にそんな事はない。
でも、さっき特別な友達としてより親しくなりたいって言われたばかり。何よりうちに遊ぶ物がないって話したからこそ、沙和さんが一生懸命考えて用意してくれたんだ。それを無駄になんてできないもんね。
ここで根掘り葉掘り聞いてもいいけど、それも空気を悪くしそう。
不安もなくはないけど、沙和さんの話を聞く限り、何かさせられる確率もそこまで高くなさそうだし。
ここは素直にOKしても大丈夫かな。
「王様ゲームも金太郎電鉄もよくわかってないけど。折角だし遊んでみるよ」
「やったっ! じゃー、遊び方はゲームしながら教えるねー」
「うん」
「お、おい優汰。本当に大丈夫かよ? ルールも聞いてねえのに」
「私達に合わせようと、無理をしていませんか?」
僕が平然と答えたのが意外だったのか。喜世さんと千麻さんが心配そうに声を掛けてくる。
二人がこうやって気遣ってくれるのは本当に嬉しい。だからこそ、ちゃんと安心させないと。
「うん。昨日の今日なのに、瑠音さんはゲーム機を用意してくれて、沙和さんも今日のためにみんなで遊べる物を一生懸命考えてくれたんでしょ? だったら、楽しまないと勿体ないし」
「流石は優汰。私が友達として認めただけのことはあるわね」
「そんな。褒めても何も出ないよ」
まだ顔の赤みは残ってるけど、それでも澄まし顔で褒めてくれる瑠音さんの言葉に、ちょっとくすぐったい気持ちになる。
でも、こういう言葉をかけてもらえるのが、さっきの二人の気遣いと同じくらい嬉しく思ってる自分はちょっと浮かれ過ぎかも。
「じゃ、ちゃちゃっと準備して始めるねー」
こうして、沙和さんが色々と開始までの準備をしてくれて、僕達は金太郎電鉄を始めることになったんだ。
◆ ◇ ◆
金太郎電鉄のルールは、確かに意外にシンプルだった。
日本全国を模したマップ上に広がる鉄道路線をサイコロを振って進んでいき、目的地になった駅を目指すのが第一目標。
その合間に色々なイベントなどでお金が増減するから、物件を買ったりゲームを有利にする券を手に入れたりして資産を増やして、三年目の三月を終えた時点で総資産が多かった人が勝利なんだって。
これなら初めての僕でも遊びながら慣れていけそうってことで、そのままゲームを開始したんだけど……。
「あ」
東京駅から最初の目的地、青森駅を目指してたった四ヶ月。僕は一度に三個のサイコロを振れる特急周遊券を使った時の目がかなりよくって、いともあっさり目的地に到着した。
豪華なファンファーレと共に入ってきた、僕の操作する青い電車。同時にゲーム内で表示された『ゆうた社長、目的地の青森駅に一番乗りです!』というメッセージ。
「うっそーっ!?」
「流石に出目が良すぎですわ!」
「ほんと。追いつく暇すらなかったじゃねーか」
「見事過ぎましたね……」
「た、たまたまだよ。ビギナーズラックじゃないかな」
感嘆と嘆息の入り交じるみんなを見ながら、僕は困りながら苦笑した。
こんな結果、正直僕が一番驚いてるんだけど。
まだ最初の目的地とはいえ、空気読めないとか思われてないかな……。
僕が状況を窺っていると、喜世さんが心底残念そうに肩を落とすとこう言った。
「しゃーねー。やろうぜ。王様ゲーム」
「そーだーねー。ま、優くんに王様ゲームの説明もできるしー」
あ。そういえばそんなルールだったっけ。
王様ゲームかぁ。どんな感じなんだろう?
命令って言葉も出てたし、先にゴールした人が命令するのかな──って、あれ? それって、僕がみんなに何か命令するってこと?
そんなこと考えてもみなかったし、何も浮かんでこないんだけど!?
内心どうすればいいのかドキドキしていると、沙和さんがさっきのカードゲームの箱から、トランプ位の大きさのカードを取り出した。
「面倒だから、番号はきよっちから見て時計回りにしよ?」
「ああ。俺が一番で千麻が二番。三番が沙和で四番が瑠音か」
「そうですわね」
「喜世が王様の時は、私が一番で、優汰君は五番になります」
「そーそー。でー、まずこれが順番カードでしょー。今日は四枚でOKかなー。王様カードはなしでー」
カード内容を確認しながら、沙和さんが順番カードと言っていた四枚のカードをシャッフルすると、僕の側に並べてくれる。
「さて。あとは命令カードだけどー、内容を見てからどれを入れるか決めよっか?」
「は、はい。そうしましょう」
「そ、そうだな。優汰が困るやつがあるかもしれねーし」
「ま、まあ、私はすべてでも構いませんけども」
「まーまー。まずは見てみよ?」
みんなが急にぎこちなくなったけど、顔を赤くしたってことは、やっぱりここからが本題だよね。でも、カードに命令の内容があって選ぶだけなら、僕でもどうにかやれそうかな。
「じゃ、並べてくねー」
沙和さんがちょっと照れ笑いをしながら、一枚ずつ表向きに並べていった命令カードを、僕達四人は覗き込んだ。
どれどれ………。
えっと、○番が○番に、から始まるのは一緒かな。
恋人繋ぎをしろ……って、多分これは手のつなぎ方かな?
ポッキーゲームをしろ? これもちょっとわからない。
優しく頭を撫でろ……みんなが嫌じゃなかったら、まだやりやすそうかな。
肩を揉め……一応これくらいは親にしてあげたことあるけど、TOP4相手には流石に緊張するかも。
で、次は──。
そのまま次のカードに目をやった瞬間、僕は思わず固まった。
……へ?
十秒間抱きしめろ!?
手の甲にキスしろ!?
頰にキスする寸前で十秒止まれ!?
顔を近づけ十秒間見つめあえ!?
頰と頰をくっつけろ!?
お姫様抱っこをしろ!?
計十枚のカードの後半には、僕にとって刺激が強い内容ばかりが並んでる。
お、王様ゲームってこんなことするゲームだったの!?
っていうか、みんなはこれ、抵抗ないの!?
思わず四人を見ると──。
「へー。中々の内容じゃねえか」
「そりゃーねー。ゲームだしー。これくらいしないと」
「そうですわね。このくらいの罰ゲームがあるほうが燃えますわ」
「ええ。頑張りましょう」
緊張を感じなくもないけど、どちらかというと俄然やる気を出したように見える四人。
会話を聞く限り、嫌がってる感じはないけど……ここで自分だけ断ったら、やっぱりよくないのかな?
ただ、さっきの二人のお願いより刺激が強そうなものが幾つか混じってるけど……。
「優くーん」
「な、何?」
「えっとー、この罰ゲームの中でー、流石にこれは嫌だなーってのはある?」
「え? あ、ええっと……」
全部とは言わないけど、僕にとって恥ずかし過ぎるものは幾つかある。
でも、それを全部外してとは言いにくいよね。だったらせめて……。
「その……頰と頰をくっつけるやつと、頰にキスする寸前ってやつは、できれば避けたいんだけど……」
僕なりの妥協点として、駄目な物ををふたつもあげちゃったけど、受け入れてもらえるかな……。
内心不安になりながらおずおずとそう伝えると、
「おっけー。みんなもいいっしょ?」
「はい。構いませんよ」
「俺も別にいいぜ」
「優汰がそれで満足なら、別に構いませんわよ」
笑顔の沙和さんの問いかけに、みんなも同調してくれる。
ほっ。良かった。
それを聞いて僕はほっとしたんだけど、そんな気持ちがすぐに吹き飛ぶなんて、思ってもいなかったんだ。




