第4話:TOP4のお願い
「あ、いえ! その、わ、私も優汰君と親密になりたいとは思っていますし、特別な方だとも思っていますよ? だ、だからこそ、手を繋いだり、腕を組んだりしたいと妄想もしまいますし──」
「も、妄想?」
「あ、そそそ、それは言葉の綾です! コ、コホン。と、とにかく。みんなが羨まし──い、いえ。みんながそういう事をするのは、ちゃ、ちゃんと場を弁え、優汰君の意見の聞いてからのほうがいいと思っただけです」
顔を真っ赤にし両手を振りおろおろしながら、千麻さんが少し早口で支離滅裂なことを口走る。
一応僕のことを気遣ってくれてそうな雰囲気はある。でも、混乱してるせいか。全然質問の答えが出てこない。
流石に僕で妄想なんて言葉は混乱したからこそ出たんだろうけど、親密になりたいっていうのは本当なのかな?
それが事実だとしたら、こういうことになるよね?
「つ、つまり、僕が問題なかったとしたら、千麻さんも二人みたいな事をしたいってことだよね?」
改めてそう確認すると、彼女は身を小さくし俯くし。
「そ、その……勿論、そういう事をできたら……嬉しくは、ありますが……」
囁くような声で、そう答えてくれた。
た、多分、ここまで恥ずかしそうな態度を見せてるし、流石に本音かな……。
僕なんかとスキンシップをとったところで、いいことがあると思えない。
だいたい、いくら特別な友達だからって、ここまでされたら恥ずかしいんじゃ──あれ?
「そういえば、みんなって他にも特別な友達っているの?」
「え?」
ふと口にした僕の質問に、四人が同時に声を上げ顔を見合わせる。
「え、えっとー。あーしは何人かいるかなー」
「と、当然そういう方もおりますわ。とはいえ、誰も彼もというわけではございませんけど」
「ま、まあ、友達以上って奴なんざ早々いねえけど。な? 千麻」
「は、はい。私は今まで、そういう方と出会っておりませんし……」
「そ、そっか」
みんなの反応には、ちょっと戸惑いが交じってる。
あまり踏み込んじゃいけない話題だったかな。だけど、気になって質問しちゃったし、ここまできたら聞けることは聞いておこう。
「沙和さん達って、普段から特別な友達相手にこんな感じで接してるの?」
僕が気になったのはそこだった。
普通の友達関係だってよくわかってないんだ。特別な友達相手に、こうやってより親密な関係を築くのが普通かなんて、僕にわかるはずもない。
でも、みんなに他の特別な友達がいるんだとしたら、どうしてるかがわかりそうだし。それを参考にした上で、僕がどうすべきかも考えたほうがいいかなって思ったんだ。
「え、えっと。あーしはーこれが普通だよ? やっ、みんなと仲良くやりたいしさー」
最初に答えた沙和さんが、少し恥ずかしそうに笑う。
ギャルだけあって積極性なら一番の彼女。今回のきっかけを作ってるだけあって、その答えには納得感がある。
「わ、私も、この程度のことは普通にしますわね。ただ、沙和の行動は流石に早すぎだと思ったからこそ、先程は声を上げはしたけれど」
瑠音さんは僕から顔を背け、目だけでこっちに向けながらそう口にする。
彼女もお嬢様だし、社交性は高そうだから納得かな。
ただ、それでも沙和さんの積極性に驚いてたってことは、本当はもう少し時間を掛けて仲良くなるタイプなのかもしれない。
「ま、まあ、俺も特別な友達とって話なら、こういう事をしなくはないぜ。その方が、その、すぐ仲良くなれるしよ」
そう言いながら目を逸らし、ちょっと恥ずかしそうな顔をしてる喜世さん。
個人的に、彼女には|千麻さんと並ぶ良識人っぽさがあるし、意外にこっちに気を遣ってはくれる気はする。
三人ともこういうことをするんだとすると、千麻さんはみんなのそんな姿を見て、今まで憧れてきたって事なのかな?
でも……。
「千麻さんは、こういう経験ってないんだよね?」
「は、はい……」
相変わらず真っ赤な顔で、消え去りそうな声を出した千麻さんは、指先でくるくると肩に掛かった黒い髪の先を弄っている。
ま、まあ、恥ずかしくなる気持ちはわからなくもない。
今も両腕に感じる沙和さんと瑠音さんの感触とか、そのせいでより近くにある二人の顔を見るのだって、やっぱり恥ずかしいし。
正直、そこまでしなくても仲良くなれるんじゃないかなって気持ちはやっぱりあるし。
「えっと……恥ずかしくても、そこまでして、仲良くなりたいの?」
「……そ、その……も、勿論、優汰君と、もっと親密になりたいと、思ってますよ? はい」
恥ずかしそうに上目遣いでこっちを見ていた千麻さんが、コクリと小さく頷く。
懇願するような目を向けてきてる時点で、彼女の中では覚悟が決まってそうな感じがする。
沙和さん達三人にとって、こういうのは当たり前で、千麻さんもみんなと同じくスキンシップをしたい。
だとしたら、僕が恥ずかしいのを我慢すれば丸く収まるのかな……。
でも、TOP4相手にこんなことをしていいのかな?
僕がみんなとこうやって触れ合うようになったなんて知られたら、命が幾つあっても足りなそうだけど……。
「優くんってー、こういうのは苦手?」
沙和さんにおずおずとそう尋ねられたけど、僕の経験って話じゃそれ以前の問題。
「苦手っていうか、女の子と腕を組んだり手を繋ぐなんて経験がなかったから。恥ずかしいし緊張もするっていうか──」
「えっ!? ってことはもしかしてー、優くんと腕を組んだ初めての女子って、あーし!?」
僕の言葉を遮り、沙和さんが右腕を絡めたまま、左手で口を覆い目を丸くする。
あ、言われてみれば。
「そうなるかな」
でも、だからって別に何かあるわけでも──。
「はあっ!? マジかよ!?」
「本当に? 本当にそうなのですか!?」
「う、うん」
「ぐ、ぐぬぬぬ……」
って、なんで喜世さんと千麻さんまでそんなに驚いたの?
瑠音さんなんて、苦虫を噛み潰したかのような顔をしてるけど。
「で、でも、そういうのを言い出したらキリがないよね? 膝枕だって喜世さんが初めてだったし、家に女子を呼んだのだって、みんなが初めてなわけだし」
「ひ、膝枕はあれが初めて、だったのかよ……」
「え? う、うん。そ、そうだけど……」
驚きから一転。喜世さんが急に夢見心地な顔をする。
っていうか、リアルでキスするとかになれば流石に気にはするけど、初めて腕を組んだり膝枕するって、そこまで大事なものなの?
そういう行動をすること自体は緊張するし恥ずかしくもなるけど、僕との初めてにそこまで喜ぶ要素ってない気がするんだけど……。
どうにもしっくりこないでいると。
「……優汰。私や千麻にも、ちゃんと貴方にとって初めての経験をさせなさい」
より強く腕をぎゅっと絡ませた瑠音さんが、妙に低い凄みの聞いた声でそう口にした。
表情はこっちが少し怖くなるくらい真剣そのもの。腕に感じる感触が強くなった恥ずかしさより、彼女からの圧のほうが妙に気になる。
「ゆ、優汰君。私からもお願いします。腕を繋いでいただくでも、抱きしめていただくでも、何でも構いませんから」
目を潤ませ懇願するような顔をしてる千麻さんの圧もまた、瑠音さんに負けてない。
だ、だけど、腕を繋ぐ? 抱きしめる? 僕が? 二人に?
「あーあー。二人共スイッチ入っちゃったかー」
「ま、こればかりは仕方ねえか」
沙和さんと喜世さんは、どこか苦笑いを浮かべてるけど、瑠音さん達を止めるような雰囲気はない。
え、えっと、これって、どうすればいいんだろう?
状況がさっぱり理解できない僕が困惑していると。
「優くーん。すぐじゃなくてもいいしー、恥ずかしくて嫌なら一回だけでもいいから、二人のお願い聞いてあげてくんない? やっぱー、あーし達四人も仲良くしたいしー、スタートラインは同じほうがいいし」
なんて、沙和さんが笑顔でお願いしてきた。
えっと、頭が追いついてないけど、つまり僕がそういう初めてのことをしてあげれば、四人の仲は保たれるってことだよね。スタートラインの意味はよくわからないけど。
しょ、正直気恥ずかしさが勝ってる。でも、僕だって彼女達を特別な友達だと思ってる以上、みんなに合わせたほうがいいのかも。
仲良くなれるかは別だけど、みんなの機嫌が悪くならないなら、そのほうがいいのかな。
結局、友達同士の常識なんて知らない僕に、正解は未だわからない。
ただ、友達が望むことをしてあげて、友達として嫌がられないならそれが一番。そう思っちゃって。
「わ、わかったよ」
僕は彼女達の思いに流され、そう答えることしかできなかった。




