第3話:TOP4
ちょ、ちょっと待って。これがみんななの!?
こっちを見つめる四人の女子キャラを見て、僕は思わず目を疑った。
他に僕の方を見てるキャラはいないし、人数も丁度四人。多分、彼女達がビルフ達なんだと思う。
だけど……彼女達はどう見ても、僕が知っているTOP4に見える。
ま、まさか。流石に本人ってことはないよね……。
TOP4っていうのは、僕が通う西葛橋高校で人気の女子四人のこと。
去年の文化祭。僕等がまだ一年の時に行われた人気投票の結果、彼女達が殆どの男子票を独占したことからそんな呼び名が付いたんだ。
金髪のポニーテールと健康的な小麦色の肌。僕と真逆の積極性の塊みたいな元気なギャル、武氏沙和さん。
誰にでも愛想が良くって、誰とでも仲良くしている彼女。
学校でも男女問わず人気で、武氏さんの周囲に人の輪ができてないところを見たことがない。
百六十センチの僕より背の高い、真っ赤な短髪にボーイッシュさを感じる荒井喜世さんは、運動神経が抜群で、部活に入っていないけど色々な所から勧誘だったり助っ人を頼まれる人気者。
男勝りな所はあるけれどみんなの面倒見がいいみたいで、そのギャップに惚れ込んだ男子だけじゃなく、なにげに女子からも人気が高いらしいって聞いた。
所々カールの入った、ウェイビーで長いピンクの髪が特徴の麗杜瑠音さんは、財閥のお嬢様。
気高い雰囲気とお嬢様らしい立ち振舞がに憧れる男女に広く人気みたいなんだけど。常識ない行動などをすると冷たくあしらわれることから、罵倒されたりするのに憧れる変わった男子にも密かに人気があるなんて噂もある。
そして、綺麗な長い濃紺の髪に眼鏡を掛けた、長月千麻さん。
物静かで穏やかな、文学少女という言葉が似合う彼女は、その雰囲気から大人しめの男子に凄く人気があるらしい。
ちなみに長月さんは図書委員をしているんだけど、彼女が当番の日は貸出、返却に行列ができるくらいだ。
そんな彼女達そっくりのキャラが目の前にいる。
あの日約束した通り、みんなもリアルな自分を再現したんだとしたら、彼等がTOP4に間違いないってことになるけど──。
『ちょ、マ!? みんな、ミュート解除! かーいじょ!』
僕の思考を遮るように、耳にしたヘッドホンに届いたのは、聞き覚えのある焦った女子の声。
これ……間違いなく武氏さんだ。イズコの名前からすると、ビルフは彼女。
『おいおいおいおい。まさか、本気であいつなのか!?』
ちょっとハスキーなこの声は間違いなく荒井さん。彼女がブレキオだったんだ。
『確かにこの顔。間違いようがありませんわね』
凛々しい騎士らしさのあったラルトとは真逆の、どこか冷ややかさを感じるお嬢様口調。彼女がきっと麗杜さん。
『まさかと思いましたが。世間は狭いですね』
そして、ナガツ同様に穏やかな口調で話す彼女は、きっと長月さん。
やっぱりTOP4の四人ってことだよね……って、あれ? 今の会話、何か変じゃない?
『ね? ね? もしかしてもしかしなくても、君は有内優汰?』
ダークエルフらしい武氏さんのキャラが、僕のキャラを覗き込むように見てくる。
あまりに綺麗すぎるグラフィックもあって、まるで本物の彼女が覗き込んできてるみたいで、胸のドキドキが一気に増す。
『実はー、人違いだった?』
「え、あ、あの。た、確かに僕、有内だけど……」
『………反応がないわね』
『どうしたんでしょう?』
『……おい。アユ。まだマイクミュートじゃねーか』
少し怒ったようにも聞こえる荒井さんの声に、僕はびくっとする。
し、しまった! 確かにミュートしたままだ!
「ご、ごめん!」
僕が慌ててミュートを解除し謝ると。
『……この声。確かに、有内君に間違いありませんね』
唯一同じクラスの長月さんが納得したような声を出すと、画面にいる魔術師っぽい彼女のキャラも、うんうんって頷いてる。
『マジで有内かよ……』
『まさか、こんな偶然があるとは思いませんでしたわね』
武氏さんの隣に立った長身で猫耳の付いた荒井さんのキャラがガシガシと頭を掻き、挟むように反対に立った軽装の鎧を着た麗杜さんのキャラが、肩に掛かった髪を払うと両腕を組み呆れ顔をした。
と。そんな中。突然目の前の武氏さんのキャラが、びしっと僕を指差す。
『ありうっち! ここであったが鶴亀千年!』
『ばーか。それを言うなら鶴亀万年だろ』
『何を仰ってますの? そこは鶴は千年、亀は万年ですわ』
『いいえ。ここであったが百年目です』
……しーん……。
眼鏡を直し、冷静に正解を答えた長月さんの言葉に、残り三人の動きが固まり、チャットルームが沈黙に包まれる。
え、えっと、ここって笑う所かな? でも、三人が本気で答えてたら、気分悪くしちゃうよね。どうしよう……。
答えを外した三人はさっきのポーズのままだけど、少し気まずいのか動かないし、長月さんもじっとこっちを見てるだけ。
えっと、これって僕が何か話さないといけないのかな?
でも、何を言えば……そ、そうだ!
「え、えっと。TOP4のみんなが、なんで僕なんかを知ってるの?」
緊張を隠せない震えた声で、僕は何とかそう問いかけた。
この質問こそ、さっき覚えた疑問。
四人が僕のキャラを見た時、あからさまに知っているような事を口走ってたけど、僕と彼女達の接点なんて、今までにまったくって言うほどなかった。
そりゃ学校でも人気の女子四人と、友達の少なくって陰キャな僕が会話する機会なんてあるはずないし。一年の時から同じクラスだった長月さんですら、事務的な会話を一言二言しただけだと思う。
でも長月さんはともかく、荒井さんや麗杜さん、武氏さんが僕の顔なんて知っているとは思えない。
それなのに、さっき知っているかのような反応を見せたのが妙に気になっちゃったんだ。
こっちの質問を聞き、目の前の武氏さんのキャラがぽんっと手を打つ。
『勿論知ってるよー。だってー、去年あーし達に投票しなかったっしょ?』
『え? あ、う、うん?』
あれ? 確かに文化祭の人気投票で、僕は誰にも投票しなかった。
でも、何でみんなはそんな事知ってるんだろ? あれって無記名投票だったよね?
『私達に投票しなかった、唯一の男子は貴方だけ。あれは流石にプライドが許しませんでしたもの。忘れようにも忘れられませんわ』
『ま、俺は別にそこまで気にしてねーけど。瑠音と沙和がその事に妙に拘ってて、そのせいで覚えただけだしよ』
『あれー? きよっちー。そんな事言っていいわけー? あの時ともう状況が変わってるんだけどー』
『う、うっせー!』
武氏さんが意味深な顔で荒井さんを覗き込むと、荒井さんがふんっと不貞腐れ顔でそっぽを向く。
荒井さんの反応は気になったけど、それ以上に気になったのは、僕の投票結果を知っている事。
「あ、あの。僕が投票しなかったって、何でわかったの?」
『そんなもの。私に掛かれば造作もありませんわ』
麗杜さんがふっと笑うと、片手を立て指をふる。
『貴方。アンケートの後、誰かに投票内容を尋ねられませんでしたこと?』
「投票内容を?」
そんなことあったかな?
うーん……。
「……あ」
『心当たりがおありかしら?』
「う、うん」
そういえば、そんな事があった。
文化祭の数日後。クラスの男子の中で誰に入れたか話題になって、僕も聞かれて答えたんだ。誰にも入れてないって言ったら、みんな驚いてたっけ。
まさかあれ、麗杜さんが調査のためにお願いしてたのか……。
で、でも、この後どうしよう……。
現実を知った僕は、ディスプレイを見ながら顔面蒼白になっていた。
だ、だって、みんなは僕がクラスメイトだって思ってなかっただけでしょ?
それに、僕が投票しなかった事だって、気分が悪くて調べたりしたんだよね?
だとしたら、今も凄く気分悪いんじゃないかな……。
『さーって。じゃ、ここで改めて聞いちゃおっか?』
僕がそんな不安を抱いていると、武氏さんが突然楽しげな声でそう言ってきた。
え? 改めてって?
オドオドする僕を他所に、彼女のキャラがまたにんまり笑う。
『ありうっちって、ここにいる四人のうち、誰が一番好き?』
「……え?」
こ、これって、この間と同じ質問だよね?
あの時ちゃんと答えたはずだけど……。
「そ、その。やっぱり選べないよ」
『えーっ。なんでー? あーし達が女子ってわかったしー。人気投票から半年以上経ったわけじゃん? この間と状況と違うっしょ?』
「そ、それはそうだけど。や、やっぱり、選べないよ」
『……理由は?』
ゔ……。
ちょっと圧のある荒井さんの言葉に、僕はびくっとしてしまう。
画面上の彼女のキャラは、半身のまま様子を窺うべくこっちを見ているだけ。怒っている印象はないけど、声を聞くとそうは思えない。
う、嘘を吐いてでも誰かを選んで、ご機嫌を取ったほうが良かったのかな?
で、でも、それはなんか嫌だな……。
目が回りそうなくらい、頭の中で色々な思いがぐるぐる回る。
そんな中、魔が差したかのようにある思いが浮かんだ。
……そうか。
リアルの僕を知ってるなら、きっとみんなはもう僕と遊びたいだなんて思わないはず。
誰が好きって言葉だって、きっと文化祭の時にはっきりしなかった僕をからかいたいだけ。だったら、嫌われてもいいから正直に言おう。
「えっと……その……僕なんかが誰かを好きになるなんて、考えたこともないし」
『え? まさかとは思うけれど、貴方は今まで異性に憧れた事もないと言うの?』
「多分、ないと思う」
答えを聞いて、長月さん以外のキャラが驚いた顔をする。
そして、そこから僕への質問攻めが始まった。




