第11話:優汰のお願い
「お願い? なんだよ?」
首を傾げた喜世さんを見ながら、僕は話を続けた。
「あの、みんなの体調が悪い日とかは、無理しないでほしいんだ。流石にそんな時まで頑張られたら、僕も申し訳なくなっちゃうし」
「確かに、それは気まずくなりそうね」
「おっけー! で、他にも何かある?」
「う、うん。もうひとつあるんだけど。その……たまには僕も、みんなにお返しとかしたいんだけど……」
「お返し、ですか?」
「う、うん」
みんながちょっと真剣な顔になったのを見て、ちょっと気後れしそうになる。
でも、これだけはちゃんと話さないと。
「その、お金が減っちゃったのは確かだけど、だからってお世話ばかりされてたら、僕も申し訳なさばかり感じてそれこそ距離を置いちゃいそうで。だから今回のお昼みたいに、少しでもいいから何か返したりしたいんだけど……駄目、かな?」
話しているうちに、みんなの厚意を無碍にしてないか不安になっちゃって、おずおずとそう尋ねてしまう。
こんな事言ったら、みんな嫌な気持ちにならないかな?
不安に思いながらみんなを見ていると。
「うん! あーしはいいよ!」
最初にそう答えてくれたのは沙和さんだった。
彼女らしい満面の笑み。それが本気でOKしてくれたように感じて、僕は少し安堵する。
「優汰君がそうしたいなら、私も構いませんよ」
「そうね。私も構いませんわよ。ただ……」
瑠音さんはそこまで言うと、隣に座る喜世さんを見た。
「一人だけ、目くじらを立てそうな人がいそうだけれど」
どこか棘のある言葉に、喜世さんがはっと驚いた顔をする。
「ば、馬鹿野郎! お、俺だって別に構わねーよ!」
「ほんとー? さっき優くんにあれだけ言っといてー?」
「だ、だから! あれは優汰のことを心配しただけだって!」
瑠音さんと沙和さんが白い目を向けると、喜世さんがあたふたしだしたけど……ま、また空気が悪くなっちゃった?
僕が言ったことがきっかけで気まずくなるのは……。
そう思った瞬間、まるでそれを見透かしたかのように、瑠音さんと沙和さんがふっと笑顔を見せた。
「だったらもう、優汰をあんな風に責めないでちょうだい」
「そーそー。優くんだけじゃなく、あーし達も気分悪いしー」
「あまりにきつく当たっていては、本気で優汰君に嫌われてしまうかもしれませんよ」
最後に割って入った千麻さんの言葉に、何故かぎくりとした喜世さんは、ちらりとこっちを見るとまた目を逸らし、バツが悪そうに頭を掻く。
「わ、わかってるって。だからもうその話は忘れろよ。ったく……」
喜世さんの反応に、みんながクスクス笑いだす。
えっと、一応丸く収まったってことかな?
でも、喜世さんはまだちょっと不満そうに見えるけど。
でも、僕はわかってるんだ。
ファンタジー・フォレストの時から、時に厳しい声を掛けてきたのはブレキオだった。
だからきっと、現実の喜世さんもまた、僕の為を思って厳しい言葉をかけてくれてるんだって。
みんなは気を遣ってくれてるけど、そういう面はそのままでいいんじゃないかな。
「大丈夫だよ。僕はあのくらいで喜世さんを嫌いにならないから。だから、何かあったら言ってもらってもいいから」
そう言って笑顔を向けると、喜世さんがはっとしてこっちを見た後、少し顔を赤くした。
珍しく見せてくれた恥じらい顔。
こういう顔をすると、喜世さんもやっぱりTOP4なだけあって可愛いって感じる……って、ここで変な反応をしたらまた怒られちゃうかも。
「ったく。やっぱお前、優しすぎだろ」
「そ、そんなことないよ。むしろ、みんなの方が優しいよ。勿論、喜世さんも」
「……へへっ。ま、そういうことにしとくか」
僕の言葉を聞いて、喜世さんがまんざらでもない顔をしてくれる。
でも、機嫌は直ってくれたかな?
「ま、あーしはずーっと優くんの味方だもん。何時だって優しくしちゃうかんね」
「当然ですわ。私も沙和同様、優汰の味方ですわ」
「はい。ずっとあなたの側にいますからね」
「うん。ありがとう」
他のみんなも笑顔になったのを見て、僕も自然と胸を撫で下ろす。
よかった。これでみんながまた喧嘩したら、どうしようって思ってたし。
「さて。ゆっくりしたいのは山々だけれど。一息吐いたららそろそろ出かけましょう」
「……え? 出かける?」
再び紅茶を口にした後、カップを置いた瑠音さんが口にした言葉に、僕は思わず首を傾げる。
「あ、そうだったな。みんなで食材の買い出しに行かねーと」
「うんうん! 優くんの好みも少しはわかったしねー」
あ、そっか。
好みを聞かれたのはそういう理由だったもんね。
「喜世。夜はハンバーグ。明日以降の日持ちする食事はシチューでいかがでしょう?」
「異論なし。優汰もそれでいいか?」
「あ、うん。任せるよ」
「よっしゃ!」
僕が素直に頷くと、喜世さんは改めてシャツの袖を腕まくりし、ソファから立ち上がった。
「千麻。とりあえず冷蔵庫の食材を確認しようぜ」
「そうですね。優汰君。冷蔵庫を覗かせていただいてもよろしいですか?」
「うん。いいよ」
「よしっ。瑠音。手配は任すからな」
「ええ」
さっきまでとは一変。俄然やる気を見せた喜世さんは、そのまま千麻さんを引き連れてキッチンに戻っていく。
でも、買い出しに手配ってなんだろ?
「えっと、向かうのは近所のスーパーだよね?」
「ぶっぶー。ざーんねん!」
僕がそう尋ねると、残っていた沙和さんが楽しそうに首を横に振る。
え? 残念って……。
「じゃあ、どこに行くの?」
「優汰は何も心配しなくてもいいわ。私に任せなさい」
瑠音さんも意味深な笑みを浮かべてるけど……。
「う、うん。わかった」
僕はもやもやとしながらも、そう返すことしかできなかった。




