第10話:対価
僕の言葉を聞いて、みんながまた顔を見合わせる。
自然に話したつもりだったけど、何か顔に出ちゃってたかな?
と、とりあえず話題を変えてごまかそう。えっと……あ、そういえば。
「そ、それより、今晩はどんな食事を作る予定なの? 食材を持ってきたようには見えなかったけど」
そう。玄関でみんなを見た時、何かを買い込んできてる様子はなかったんだよね。
もし買ってきてるなら、冷蔵庫に入れないといけない物もありそうだけど、そういう話も全然ないし。
「あー! そうそう。まずその話をしないとじゃーん!」
僕のそんな疑問を聞いて、突然沙和さんがこっちに顔を向けてきた。
「ね? ね? 優くんってー、嫌いな食べ物とかある?」
「え? 嫌いな食べ物?」
前のめりになり食い気味に質問してきた彼女の圧に、僕は一瞬言葉に詰まる。
えっと、嫌いっていうほどじゃないけと……。
「そうだなぁ。甘辛い煮付け係かはあんまり」
「他に苦手な物はございますか?」
「後は……柑橘系の果物とか、酢の物とかの酸っぱい系は苦手だけど、それくらいかも」
「ちなみに、好きな食べ物は何かしら?」
「え? えっと、実家でよく食べてたのだと、ハンバーグとか、シチューとか、カレーとか?」
沙和さんの言葉を皮切りに、一気にみんなからの質問が続く。
多分これ、今晩作る料理の参考にするたね聞かれてるのかな。
「普段学校では何を食ってるんだよ?」
え? 学校で?
えっと、お昼のことかな?
「お、お昼は、適当に学食でパンを買ってるけど」
「どんなパンだよ?」
「うーん……一番買ってるのは焼きそばパンだけど、売ってなかったらBLTサンドとか……」
……あれ?
喜世さんの質問に答えていた僕は、ふとあることに気づく。
僕の好き嫌いはなんとなくわかる。でも、学校でのお昼なんて、何か参考になるの?
「き、喜世さん」
「ん? どうしたんだよ?」
「えっと、その。学食の話って、聞く意味あるかな?」
「あるに決まってんだろ? お前の弁当も作るんだから」
「そ、そっか。僕のお弁当を──え?」
お、お弁当?
今日は家でご飯を作るって話だったよね?
急に外に出かける話に変わった? でも、そんな話聞いてないけど。
僕が首を傾げたのを見て、沙和さんが普段のにこにこ顔で話しかけてくる。
「実はねー。さっき玄関先で、平日も日替わりでお弁当作ってあげたらいいんじゃなーい? って話をしてたんだよねー」
「え!? そ、そんなの悪いよ。お弁当を作るお金だって馬鹿にならないし」
突拍子もなく飛び出してきた話題に、僕は慌てて両手を振り断りを入れる。
だけど、それを見た四人は首を縦に振ろうとはしなかった。
「気にすんなって。一人分増えたところでそんなに変わんねーし」
「そうですよ。それに私達みんなで日替わりで担当しますから、それぞれ週に一度だけ。残りの日は優汰君が自由にお昼を選んでお食べいただいて大丈夫ですから」
「もち! あーしも頑張るかんね!」
「あら。よく寝坊する貴女に大任が務まるのかしら?」
目にピースサインを重ねた沙和さんを見て、隣に座る瑠音さんが呆れた顔をすると、途端に沙和さんがむくれた。
「う、うっさいなー! あーしだって、愛を届ける時はちゃーんと頑張れるんだからね!」
両手を上げ、強い言葉で抗議する沙和さん。
……え? 何か今、凄いことを言わなかった?
「愛を、届ける?」
あ、愛って、どういうこと?
突然紛れ込んできた言葉を復唱した僕に、沙和さんがゲッという顔をする。
「そそそ、そうそう! 料理は愛情って言うじゃん? あーし、料理はそこまで得意じゃないけどー、そこは愛情でカバーするしー。そりゃー、愛の籠ったお弁当を届けるんだもん。早起きしてでも頑張るに決まってるじゃん! あはははっ」
沙和さんの慌てふためきように、他のみんなが彼女に白い目を向けているけど、もしかして、これって沙和さんなりの冗談だったのかな?
愛とか言われてちょっとドキッとしちゃたけど、流石に僕にそんな感情なんて持たないよね。勘違いには気をつけないと。
「でも、朝起きるの大変だよ? みんながそこまで無理しなくても──」
「無理じゃねーって。弟達の弁当も作ってるし、慣れたもんさ」
「私はお抱えのシェフに作ってもらうだけ。そのような気遣いなど無用ですわ」
「私も普段から早起きしておりますし、お弁当は自分で作っていますから」
「あ、あーしもさっき言った通り、頑張れるしー? 泥船に落ちた気持ちでいてよね!」
……泥船に落ちる?
僕と同じ気持ちだったのか。びしっと言い切った沙和さんに、三人のため息が重なる。
「おいおい。それを言うなら宝船だろ?」
「そこは大船ですわ。まったく二人して……」
「瑠音も間違ってはいませんが、正しくは大船に乗るですよ」
眼鏡を直し正しく訂正した千麻さんの冷静な言葉に、今度は瑠音さん達が気まずそうな顔をし、周囲が沈黙を包んだ。
……TOP4って凄いイメージしかなかったけど、みんなのこういうやり取りは見てて飽きないかも。
でも、本当にお弁当までお願いしてもいいのかな?
みんなだって学校に通うんだから、負担だってあるはず。それに……。
「みんなに学校でお弁当なんか手渡されたら、周りの人達が妬まないかな?」
やっぱりそんな不安は拭えない。
だからこそ、僕はそう口にしたんだけど。
「大丈夫ですよ」
僕を安心させるようにそう言ったのは、千麻さんだった。
「お互いの家がここまで近いんです。だから、朝こちらにお弁当を届けてから、別々に学校に行けば問題ありませんよね?」
「あ。確かにそれなら問題はなさそうかも……」
「でしょでしょー?」
「でも……」
これ以上断る言い訳が思いつかないのに、僕はまたそんな言葉を口にしてしまう。
と、それを聞いた瑠音さんが、紅茶を一度口にすると、落ち着き払った顔でこっちを見た。
「優汰。貴方が私達の行為で申し訳ない気持ちになるというのなら、交換条件を出すわ」
「交換条件?」
「ええ」
「は? おい。何をさせる気──」
「お黙りなさい。喜世」
驚く喜世さんを言葉で制すと、彼女はそのまま話を続ける。
「交換条件といったけれど、どちらかといえば、貴方が私達に対価を払うだけのこと」
「対価……」
「ええ」
迷いなく頷く瑠音さん。
他のみんなは固唾を飲んで見守っている。
「私達が望む対価は至って単純よ。これからも学校以外の場所で、私達と逢ってくれればいいわ」
「え? みんなと会う?」
「そう。シャインズ・ゲートでも、こうやってリアルでも。どこか出かけるもよし。こうやって部屋でのんびりするもよし。そんな機会を設けてもらえればいいわ。それでどうかしら?」
それでどうって……。
「えっと……それって友達として、少しでも一緒にいればいいってことだよね?」
「ま、そういうことね」
「それって対価になるの? 友達として過ごすのって、普通な事に聞こえるけど」
「そんな事わかってますわ」
僕の疑問に、瑠音さんが当たり前でしょと言わんばかりの顔をする。
「だけれど、今回の話のきっかけは貴方の事を思いやる私達のわがままなのよ。本来そこに対価など求めはしないけれど、それで優汰の気持ちが楽になるというのなら、そのほうがいいと思っただけですわ」
みんなのわがまま……違う。これは瑠音さんが言う通り、みんなの思いやりだ。
友達だからこそ、みんなはちゃんとここまで考えてくれてるんだよね。
「るとっちの言う通り! だけどー、優くんがどーしても嫌なら止めとくけど……」
「ま、嫌々受けて、申し訳なさそうに飯を食われても嬉しくねーしな」
「そうですね。優汰君。いかが致しますか?」
千麻さんの問いかけに、僕は少し頭を整理すると、ゆっくりとこう返したんだ。
「えっと、わかったけど、僕からもお願いがあるんだ」




