第3話:勘違いだらけ
『悪い。変なことを聞くけどよ。お前ってパソコンにも詳しくなかったし、機械音痴じゃないかって思ってたんだけど。違うか?』
機械音痴。そう言われたらそうかも。
パソコンもデジタルカメラも店員さんに言われるがまま買ってたし、スマホだって未だに音楽を聴いたりスケジュールを入れたりする以外、ほとんど使いこなせてないし。
「多分、そうだと思う」
『だろ? しかも昨日はフェイストラッキングについて、まったく触れもしなかったじゃねーか。だから驚いただけだって』
「でも、さっき武氏さんはがっかりして──」
『あれは忘れなさい。喜世が勝手に落ち込んだだけだもの』
『う、うるさーい! だいたい最初にカメラを設置しに行くって言い出したの、きよっちじゃーん!』
「え? カメラを設置?」
顔を真っ赤にしながらぷんぷんと怒ってる武氏さんの反応に首を傾げると、麗杜さんも急に顔を真っ赤にし、バツが悪そうな顔で目を泳がせる。
『い、いえ。折角だし、貴方にもフェイストラッキングを試してもらおうかと思っていたのよ。だけれど、きっと一人では設置や設定に手間取るでしょう?』
「多分。今日も設置に半日くらい掛かっちゃったし」
『だ、だろ? で、そこに目を付けたこいつが、有内の家に押しかけて、執事に設定させるとか言ってたんだよ』
「え? 麗杜さん、そこまで気に掛けてくれてたの?」
『え? え、ええ』
腕を組みながら、少し気まずそうな表情をする麗杜さん。
もしかしたら、リアルまで勝手に気を回そうとしたのを後ろめたく思ってるのかもしれない。
麗杜さんも変わらないな。
彼女を見ながら、僕は自然と笑みを浮かべた。
ファンタジー・フォレストで遊んでいた時も、いつも僕の装備や持ち物を気にして、色々率先して工面してくれてたのはラルト。
何時も気を遣ってもらってたのは申し訳なくもあったけど、あの時と変わらず接してくれているのが、本当に嬉しかったんだ。
「いつも気を遣わせちゃってごめんね。ありがとう」
素直に感謝を伝えると、麗杜さんは一瞬固まった後、ピンク色の髪を靡かせくるりと背を向けた。
『き、気にしなくていいわよ』
あれ? 声がうわずってる?
しかも急に後ろを向いちゃったし……あ、もしかして……。
「ご、ごめん。僕の笑顔、キモかったとか──」
『ないないないない! 絶対なーい!』
え?
僕の言葉を強く否定したのは麗杜さんじゃなく武氏さん。
強く声を上げた彼女は、顔を真っ赤にしながら僕をびしっと指差す。
『いーい? あーし達の中で、ありうっちの笑顔を見てー嫌だーって思ってる子、だーれもいないかんね!』
『沙和の言う通りだぜ。さっきも言ったろ? お前の顔が動くのは、嫌でもなんでもないからな!』
援護するように、顔を真っ赤にしながら荒井さんも声を荒げる。
だけど……。
「じゃ、じゃあ、なんで麗杜さんは背を向けたの?」
その理由が知りたくて素直にそう尋ねると、無言のままの麗杜さんに代わり、少し気恥ずかしそうな顔をした長月さんが、眼鏡を直しながらこう口にした。
『多分、有内君の笑顔が、その……素敵だったからでしょうね』
「……え?」
素敵? 僕の笑顔が?
長月さんの予想外の言葉は、僕をさらに困惑させた。
本当にそう思ってくれてるのかな?
それとも、友達だからこその社交辞令?
今までで笑顔を褒めてくれたのなんて両親くらいしかなかったから、どうにもしっくりこない。
周囲を虜にするTOP4の笑顔なら、きっとそんな褒め言葉が似合うと思うけど……。
腑に落ちない顔をしていると、麗杜さんが肩越しにちらりとこっちを見ると、また顔を背ける。
『私も同感ですわ。ですから、間違ってもフェイストラッキングを止めるなどと言わないでちょうだい。よろしいですわね?』
……本当にいいのかな? そんな不安は拭えなかった。
でも、友達がそう言ってくれたんだ。信じないとだよね。
「うん。わかったよ」
僕がそう返すと、麗杜さん以外の三人が心底ほっとした顔をする。
未だ背中を向けている麗杜さんの表情はわからないけど、さっきの感じならきっと大丈夫かそうかな。
『それより、ここでじっとしてても何も始まらねーし。歩きながら話さねえか?』
『そうですわね』
『ちょっと待ったー!』
荒井さんと麗杜さんの会話に割って入ったのは、元気な声をあげた武氏さん。
『その前にー、友達としてひとつ、提案がありまーす!』
「提案? 何を?」
さっきまでの表情から一変。にこにこした彼女は、またも僕にびしっと指を向けた。
『ありうっち! 今日からお互い名前呼びしよ?』
「え? 名前呼び? 何で?」
突然の提案に、僕は思わず首を傾げる。
別に今までの呼び方でも、何ら問題ないと思うんだけど。
そんな事を思っていると、彼女はちょっと顔を赤らめながら、にんまりと笑うとこう続ける。
『も、もち! ゲームだったらー、キャラ名で呼び合うからに決まってるっしょ!』
キャラ名……あ。そういえば。
僕はコントローラーを操作し、オプションからキャラ名を表示する設定に変えてみた。
みんなの頭上に浮かんだ名前。
武氏さんはサワ。
荒井さんはキヨ。
麗杜さんはルト。
長月さんはチアサ。
昨日確認し忘れてたけど、確かにみんなもちゃんと名前を本名にしてる。
ゲームならキャラ名で呼び合うのは自然だし、武氏さんが言うことももっともかな。
「そっか。それはいいけど──」
『え!? いいの!?』
僕が答えた瞬間、口に手を当てはっきりと驚いた武氏さん。
あれ? 言い出した相手が何で驚いてるんだろう?
また首を傾げてしまった僕に、麗杜さんがくるりとこっちに向き直った。
あれ? 彼女も顔を真っ赤にしてる。なんでだろう……。
『あ、有内君。男に二言はございませんわよね?』
「二言? と、特にないけど」
『マ、マジでいいのかよ!?』
「え? う、うん」
『そうですか。有内君本人が問題ないのでしたら、その……良いと思いますよ。はい』
目を丸くしている荒井さんも、恥じらい俯いている長月さんも、やっぱり顔は真っ赤。
正直TOP4のみんななら、名前で呼ばれる機会なんて沢山ありそうだけど、それでも恥ずかしいのかな?
あ。それとも……。
「えっと。もしかしてみんな、無理して名前呼びしようとしてる?」
不安になってそう聞いてみると。
『わ、私が嫌がるはずありませんわ。リアルでも友達になったのだし、お互い親しく感じられて良いのではありませんこと?』
『だ、だよな! ち、ちなみに俺も、嫌じゃねえからな!』
『わ。私も名前で呼んでいただけたら、とても嬉しいですよ』
『さ、流石に学校じゃ無理だろうけどー。なんなら私生活でも名前で呼んでくれたら、ちょーアガっちゃうかも!』
恥じらいながらはにかむみんなは、やっぱり可愛いし綺麗で華がある。
よくよく考えたら、そんな学校の人気者に名前で呼ばれるんだよね。
そう考えたら、こっちの方が緊張してきたかも……。
少し胸がドキドキしてきたのを感じて、胸に手を当て落ち着ける。
「そ、そっか。でも、流石に呼び捨ては悪いし、さん付けでもいいかな?」
『そ、そこはお任せー! いいよね?』
『え、ええ。構いませんわ』
『お、俺は呼び捨てでもいいけどよ。言いにくいなら、別に』
『はい。有内君がお好きな方で良いですよ』
『その代わりー、あーし達も自由に呼んでもいい?』
「う、うん。わかった」
『やった!』
未だ恥ずかしそうなみんなだったけど、唯一武氏さんは、僕の返事を聞いた瞬間、眩しいくらいの笑顔を見せた。




