第2話:驚きの連鎖
『優汰:返事が遅れてごめん。もう少ししたら入ろうと思うけど、みんなはまだゲームしてる?』
慣れないスマホでの文字入力を済ませチャットルームに送信すると、僕は立ち上がってパソコンの椅子に腰を下ろした。
と、ほぼ同時にスマホが何度か振動する。
『沙和:マ!? もち! 一緒に遊べるよ?』
『喜世:随分反応遅かったじゃねーか。無理はしてねーよな?』
武氏さんと荒井さんらしいメッセージ。
名前が出てるけど、なくても四人が誰かわかると思う。それくらい、みんなには個性があるよね。
『優汰:うん。大丈夫』
とりあえず一旦そこまで返信すると、僕はスマホをデスクの脇に置き、パソコン側のイズコを起動した。
『千麻:それならよいですが。もし辛い時には無理しないでくださいね』
『瑠音:貴方が一緒に遊びたいのであれば止めはしないけれど。無理して辛くなるのを見れば、私達も気まずくなるのだから』
長月さんや麗杜さんも荒井さんの気遣いの言葉。昨日のこともあって、チャットの文章が脳内で彼女達の声で再生される。
またみんなの声を聞くことになるんだよね。
この先を想像して、ちょっと気恥ずかしさを覚えながらも、
『優汰:うん。疲れたり、調子が悪くなった時とかはちゃんと言うよ』
僕は素直にキーボードでそう入力した。
『沙和:ね? ありうっちってー、昨日ログアウトしてからまだゲームしてない感じ?』
『優汰:うん』
『千麻:そうですか。では、昨日の高台で落ち合いましょうか』
『優汰:あ、でもみんなが狩り場とか行ってるなら、無理しなくてもいいよ?』
『瑠音:あら。貴方は私達と遊びたいとは思いませんの?』
麗杜さんからのメッセージが、ちょっときつく感じるのは気のせいかな?
普段見てる彼女のイメージからそう感じるのかもだけど。えっと……。
『優汰:そうじゃなくって。レベル上げがいい所だったら申し訳ないかなって』
『沙和:ぜーんぜん! あーし達も色々仕込んでただけだしー』
え?
『優汰:仕込んでた?』
それって何だろう? 狩りのコツか何かかな?
疑問をそのまま短く打ち込むと、少しの間みんなからの反応が途切れたんだけど。
『喜世:それはログインしたらわかるから、今は気にすんな。いいな?』
荒井さんが書いたメッセージにどこか強い圧を感じちゃって、咄嗟に『わかった』って返しちゃってた。
な、なんか怒られるような事言っちゃったかな?
『千麻:私達は既に高台に着きましたので。お待ちしてますね』
『沙和:ログインしたら、ボイチャも繋いでねー!』
『優汰:うん』
短く返事をした僕は、再びログイン前のキャラ選択画面で自分の表情を確認する。
さっきの麗杜さんや荒井さんの反応の事もあったけど、それ以前にみんながTOP4だって知って二度目のログイン。緊張するなっていうのは土台無理な話。
とりあえずは普段通り……うん。普段通りでいこう。今までだって、友達だったんだから。
ふっと息を吐いて気合いを入れた僕は、意を決してゲームとボイスチャットの世界に飛び込んだ。
白い画面から、少しずつ広がっていく世界。
見えてきた高台から見えた神聖都市ゼクセイド夜景。今はちょうど夜なのか。
満天の星空の下に広がる街並みは、ランプや光る水晶のような街灯によって淡く色づいている。
「うわぁ……」
昼間も綺麗だったけど、夜景もほんと綺麗だなぁ。
思わず高台の前まで出て、柵に手をかけながら景色を眺めていると。
『まったく。何故貴方は私達そっちのけで、夜景を見ているのかしら』
そんな麗杜さんの呆れ声が耳に届いた。
あ。そうだった。みんなは既に来てるって言ってたもんね。
「ご、ごめん」
僕はそのままくるりと振り返ると──思わず動きを止めた。
え? これってみんな……だよね……。
間違いなくTOP4がそこにいるって理解しているのに、僕の脳内はそれを素直に受け入れられない。それくらい、彼女達が魅力的に映ったから。
高台にある街灯に照らし出され、立っている四人。
昨日の彼女達もまた、異世界っぽさを感じさせる服装だった。
だけど、今ここにいる四人は既に、昨日の服装からすっかり様変わりしていた。
普段と同じ褐色の肌をした、ダークエルフの武氏さん。
彼女は学校で着ているブレザーっぽい紺色のジャケットと少し胸元を開けた白いシャツを着て、足の付根くらいまでしかない短いミニスカートと、素足を隠すロングソックスを履いている。
いつもと変わらない金髪のポニーテールを止める髪留めは、白い羽をあしらったデザイン。左腕に装備している綺麗な装飾の刻まれた小型の盾や、腰にも細身の剣を装備している姿は、とても幻想的な雰囲気を醸し出している。
荒井さんはどこかチャイナドレスを彷彿とする、ボディラインがはっきりと見える赤を基調とした動きやすそうな服。
全体に竜のシルエットがあしらわれていて格好いいし、高身長な彼女に本当に似合っている。
でも、ただ強そうってだけじゃなくて、猫型のビスターらしい赤い短髪から生えた猫耳の隣に付けてる花飾りとか、ちょっと恥ずかしそうにしている所はやっぱり女の子らしくって、普段の頼りがいがある印象とは別の可愛さを感じる。
麗杜さんの格好はどちらかといえば武氏さんに近いけど、よりファンタジー色が濃い。
綺羅びやかな装飾が施された、白銀色の胸当てや肩当て。その下には膝上くらいまで裾のある薄水色のワンピースのような服を着ているけど、そこにも金糸で草紋が縫われていて、より華やかさを添えている。
ピンク色の髪の上には宝飾が施されたティアラも相成って、全体的に高貴さを感じさせる姿は彼女らしさがよく出てると思う。
そして、長月さんは白を基調とした聖職者のようなゆったりとした服装。
藍色の髪の上には少し縦に長い司祭のような帽子。身長くらいある装飾の施された長杖なんかもまた、魔法を使う職業って感じがする。
他の三人よりは全体的に落ち着いているけど、それは眼鏡を掛けた普段の彼女らしい知的さと凄く合ってる。
『へへー。どーよ? あーし達』
武氏さんが上半身を少し前に倒し、顎に手を当てたエモートと共ににまっと笑う。
どうかって言われたら……。
「うん。その、凄く素敵だと、思う」
僕は少し緊張しながらそう答えた。
緊張した理由のひとつは、言葉の通りみんなが凄く魅力的だったから。
でもそれ以外に、今の言葉でちゃんと褒めた事になってるかな? なんて不安もあったからなんだけど。
『えっ!?』
僕の言葉を聞いた瞬間、みんなは驚いた顔をすると、互いに顔を見合わせた。
や、やっぱりこんなんじゃ褒めたりない、微妙な答えだったのかも……。
「ご、ごめん。今の答え、微妙だった?」
おずおずとそう口にしながら様子を窺っていると、はっとしたみんながまたこっちを見た。
『わ、悪い。そうじゃなくって』
『貴方。今、口を動かしましたわよね?』
「え?」
あ、そっちで驚いたのかな?
「う、うん。多分」
ログイン後に自分自身をみられないからこそ、そんな曖昧な答えを返す。
『もしかして、有内君もフェイストラッキングを始めたのですか?』
「う、うん」
『うっそーっ!? もうカメラとかセッティングしちゃった感じ!?』
「え、えっと、そうだけど……」
『マジかー。はぁ……』
僕の話を聞いて、武氏さんが大きなため息を漏らし肩を落とす。
他の三人もどこか残念そうな顔をしてて、それが僕の不安を掻き立てた。
「も、もしかして、その……やっぱり、僕の顔が動くのを見るの、嫌だったかな?」
みんなに合わせたつもりだったけど、別に催促されたわけじゃない。
本当は、こういうのを見たくなかったんじゃ……。
喜んでもらえなかったことに、内心がっかりしそうになった瞬間。
『ち、違うに決まってんだろ!』
その言葉を強く否定したのは荒井さんだった。




