第1話:動き出す優汰
うーん……これでうまくいくのかな?
みんながTOP4だって知った翌日の夜。僕は昨日と変わらないパジャマ姿のまま、パソコンを前にひとり四苦八苦していた。
パソコンデスクの脇に金属製のアームを取り付け、その先にセットしたのは今日買ってきたデジタルカメラ。
パソコンにカメラを認識させたくて、説明書を見ながらそれらをケーブルで繋いだんだけど、最初はうまくいかなかった。
色々ネットで調べたりしながら、少しずつデジタルカメラやパソコンの設定を変えつつ、画面にデジカメの画像が映るか確認を始めて丸一時間。
なんとか画面は映せたんだけど、次にシャインズ・ゲートでカメラを認識させようとしたらこっちもうまくいかなくって、ここで数時間手間取ってる。
椅子に座ったまま、ちらっとパソコンの時計を見ると夜の十一時。もうこんな時間になっちゃったのか。
折角高いカメラを買ったんだし、何とかフェイストラッキングができるようにしたいんだけど……。
そう思いながら、シャインズ・ゲートのフェイストラッキングについてパソコンで調べつつ、必死に解決するための設定を調べては、入れたソフトウェアの設定を変えていった。
お店の人に、シャインズ・ゲートのフェイストラッキングができるカメラが欲しいって尋ねて買った、このデジタルカメラ。
店員にそこまで言われなかったんだけど、実はただ繋ぐだけじゃ駄目みたいで、何か色々別のソフトウェアを入れないといけないのはわかった。
同じ症状に出会した人の記事だと、ドライバーを少し古いのに戻して、ここの設定を変えてデバイスを切り替えたらできるようになったって書いてたけど……。
ソフトウェアの設定を変更した後、僕は期待と不安を胸にシャインズ・ゲートを立ち上げると、そっちの設定も調べたページに書かれていたのと同じに変更する。
これでいけますように……。僕は祈るような気持ちで、そのままゲーム内のフェイストラッキングの設定画面に移った。
セーブデータからユウタを選んで……あ! できた!
瞬間、僕の喜びを映し出すように、画面に映る僕の顔がぱぁっと笑顔になった。
え、えっと。右を見て、左を見て……うん。僕の顔の動きに合わせて顔が向きを変える。
ほぼタイムラグなく動く僕の分身。
「あーえーいーうーえーおーあーおー」
声を出してみると、ちゃんと同じく滑らかに口が動いてくれる。
へー。フェイストラッキングってこんなに凄いんだ。髪の毛は動くのかな?
試しに前髪を上げて自分の顔を見てようとしたけど、前髪がそれに合わせて動いたりはしなかった。
名前の通り、顔の表情だけ認識してるのか。それでも凄い技術だなぁ。
そういえば、みんなたまに顔を赤くしてたけど、あれはエモートなのかな?
試しに大きく息を吸った後、口を閉じ息を止めた。
ゲーム内の自分も頬を膨らませたまま口を閉じ数秒。息が苦しくなるのに合わせて、少しずつ画面に映るキャラの顔色が赤くなっていく。
こんな所までトラッキングしてるなんて、最近の技術って凄いなぁ。
って、流石にちょっと苦しくなってきた。
「ぷはーっ」
僕は一気に息を吐き出した後、大きく深呼吸をする。
ふぅ。やっと落ち着いた。
ちゃんと顔色まで拾ってくれるってことは、あれはエモートじゃなかったのか。
つまり、昨日のキスの時に顔が赤かったのは、みんなも恥ずかしかったってこと、かな……。
勝手に昨日みんなが見せてくれた恥じらう顔を想像しちゃって、ゲーム内の僕がさっきより真っ赤になって、恥ずかしそうな顔をする。
あ、そうか。こういう表情も拾っちゃうんだった。
あんまり変な顔をしたら、みんなに変に思われちゃうかもしれないし、気をつけないと……。
僕は必死に顔を振ると、火照りを冷まそうとまた大きく深呼吸を始めた。
ちなみに、僕がフェイストラッキングをしてみようって思ったのは、今朝起きてから。
ゲーム内であまりにみんなが自然な表情をしてたけど、よくよく思い返すと広場で見てた人の中には、全然表情の動かないキャラも多かった。
それで、みんなが何か特殊なことをしてるのかなって思って調べたら、フェイストラッキングの話が出てきたんだ。
もしかして、みんながこのゲームを転生先に選んだのって、この機能があったからかな?
元々ファンタジー・フォレストでもエモートを完全に使いこなしていた四人。それだけでも十分みんなの感情が伝わってきたけど、表情をここまで再現できてたら感情表現の幅も広がるし、より生き生きとするもんね。
ふぅ。無事動くようになったのは良かったけど、流石にちょっと疲れたかも。
僕は一旦ベッドの端に座ると、そのまま上半身を倒し仰向けになる。
でも、まずは無事に設定できて良かった。
あとはみんなくらいエモートをスムーズに出せたら、僕も色々伝えられるかな。
ゲームが変わって操作も随分違うから、この辺は後で練習して早く慣れておかないと。
ぼんやりそんな事を考えていると、ふと目に止まったのはベッドの上に置きっぱなしにしていたスマホ。
あ。そういえば、みんなは今頃楽しんでるのかな?
気になってスマホを手にして画面を見ると、ロック画面には、昨日と同じようにイズコの通知が幾つか残っていた。
昨日は長月さんだけだったけど、今日は違う。荒井さんや麗杜さん、武氏さんのメッセージもある。
『沙和:やっほー。今日ってまだ調子良くない感じ?』
『喜世:体調が悪いなら無理すんなよ』
『瑠音:私達はしばらく遊んでいますわ。もしログインするなら、チャットルームで声をかけなさい』
『千麻:次に遊べるのを楽しみにしていますね』
二時間前くらい前に書き込まれた、テキストチャットの数々。
普段家じゃほとんどスマホを見てないのもあるけど、今日はカメラの設置に夢中で夕方からスマホを見てなかったから、全然気づかなかった。
でも……なんか不思議だな。
僕はロック画面に映る文字をぼんやり見ながら、ふとそんな事を思う。
ここ数年、こうやってメッセージをくれたのなんて両親くらい。
みんなとファンタジー・フォレストをしてた時だって、連絡先なんて聞いてなかったから、たまたまお互いのログインが被って、暇だったら一緒に旅に出たり景色を見る。そんな、どこか距離のある関係だった。
今朝起きた時に最初に思ったのは、あれは夢だったんじゃないかってこと。
みんなに新しいゲームに誘われて、お互いの素性がわかっても、これからも友達でいたいと言ってもらえたのは凄く嬉しかった。
でも、相手は学校のTOP4美少女。社交辞令だったって可能性も否定できなかったわけだし。
彼女達相手にそんな事を考えたことに少し後ろめたさを覚えたけど、そう思いながらも結局デジタルカメラを買ってフェイストラッキングをしようとした時点で、それでもどこか信じたい気持ちがあったのも事実。
こうやってメッセージが残っていたのを見た今、自分の不安は少し和らぎ、嬉しさがじんわりとこみ上げてくる。
みんなが人気者になれる理由はきっと、外見だけじゃなくこういう優しいところにもあるんだよね。
……まだ、みんなはゲームをしてるのかな?
僕は体を起こすと、スマホのロックを解除しイズコのアプリを立ち上げ、チャットルームの一覧を見てみる。
ボイスチャットのルームにあった四人の名前。
ということは、多分まだゲームをしてるかもしれない。
少し疲労感はあるけど、体調が悪いかといえばそんなことはない。
まだゴールデンウィーク中だし、明日も用事はないから夜更かししても大丈夫。
昨日、元気だったら一緒に遊ぼうって言われたんだし、まだ遊んでるなら少しログインしてみようかな。
そう思った僕は、スマホでみんなにメッセージを返すことにしたんだ。




