第10話:優汰のこれから
『え? 何となく?』
「う、うん」
武氏さんの言葉に頷くと、四人が意外と言わんばかりに驚いた顔をする。
あ、あれ? 今のってそんなに驚くことかな?
『私達がゲーム内とはいえ、友達相手にここまでのことをしたのよ?』
『まさか、今のを軽い気持ちでやってると思ってんのかよ!?』
あ、しまった。
僕の言葉が悪かったから、そういう意味にとられちゃったのか。
声を荒げた麗杜さんと荒井さんの態度で誤解を招いた事に気づいた僕は、思わずディスプレイに向け両手を振って否定した。
「ご、ごめん。そういう意味じゃないんだ」
『では、どういう意味なのですか?』
未だ顔が赤いけど、唯一落ち着いた態度の長月さんが静かに問いかけてくる。
その言葉が、少しだけ僕に心の余裕をくれた。
「え、えっと。僕が自分の気持ちが重いって言ったけど、みんなは僕に『そんなことないよ』って伝えるため、敢えて頑張ってくれたのかなって。だから重いっていうより、嬉しいなって」
まだ頭が回ってないけど、うまく伝えられてるかな?
内心不安になりながら、画面の向こうのみんなの顔色を伺っていると。
『ほんと。相変わらずお人好しですわね』
『ま、有内らしくていいんじゃねーか? 悪い。変に勘ぐってよ』
「ううん。大丈夫。こっちこそ、気を遣わせちゃってごめんね」
『そんなの気にしない気にしなーい!』
『ええ。お互い様ですから』
麗杜さんが苦笑すると、みんなも釣られて笑顔になってくれた。
良かった。誤解が解け……あれ……?
『で、この後はどうするのかしら?』
『やっぱー、まずは操作に慣れないとじゃん?』
『それより、メインクエストとか確認したほうがいいんじゃねーか?』
『有内君もいるんですから。まずは都市を見て回るのも──』
遠ざかるみんなの声。目の前が霞み、意識がぼんやりとする。
あ。これ、もしかして……。
ぼんやりと頭に理由が浮かんだ瞬間。
『おい! 有内!?』
荒井さんの大きな声が耳に届いた。
はっとした僕の前に、四人が心配そうに顔を近づけてる。
『ありうっち。大丈夫!?』
「え、えっと。何が?」
『それはこっちの台詞ですわ。急に呼吸が荒くして。何かあったの?』
きつい言葉とは裏腹な心配そうな顔。
ちょっと心配をかけちゃったのかな。
「ご、ごめん。ちょっと、目眩がしただけだから」
『まさか、体調が悪かったのですか?』
「ううん。さっきまでは大丈夫だったんだけど……」
みんなが不安そうな顔をしてる中、本当のことをいうのは気が引ける。
だけど、ちゃんと言わないと心配をかけちゃうもんね。
「その、さっきのキスのせいで、頭がクラクラしちゃって。多分、そのせい」
正直にそう伝えると、武氏さんがしょんぼりとする。
『ごめーん。やっぱ、あーしのせいだよね?』
「ち、違うよ。ただ、TOP4にこんな事されるなんて、思ってなかったから。ほら。さっき話したでしょ? みんな魅力的だって」
こういう時、慌てるエモートくらい出したほうがいいよね? えっと、頭を下げるエモートは……あ。
僕が誤って出したのは、さっきからよく出していた笑顔のエモート。
みんなはそれを見た瞬間、ほぼ同時に顔を赤くし、目を泳がせた。
『あ、ありうっちー。ここでそんな顔しながらそれ言うー?』
『まったく。心配したこっちの身にもなれよ』
『ほ、本当ですわ。まったく……』
武氏さん達三人はまた不貞腐れた顔をする。
みんながここまで不満そうな顔をするなんて。やらかしちゃったかな……。
「ご、ごめん」
『べ、別に謝る事はありませんよ。私達も、そう思ってもらえるのは嬉しいですから』
眼鏡を直しながらそう口にする長月さんも、こっちをじっと見てはくれない。
本当は嫌じゃないのかな……そんな気持ちが心を過る。でも、それを確認する勇気なんてないし……。
「あ、あの。ごめん。僕、今日はここまででもいいかな?」
鬱々した気持ちをこれ以上隠せそうになくって、僕が思わずそんな逃げ腰な言葉を口にすると、四人はまた心配そうな顔でこっちに視線を向けてくる。
『まあ、熱っぽいなら仕方ねーだろ。みんな、いいよな?』
『はい。私は賛成です』
『ええ。構いませんわ』
荒井さんの提案に、長月さんと麗杜さんは迷わず頷く。
唯一そこで返事をしなかった武氏さんは、胸の前で指をもじもじと合わせながら、こんな事を言ってきた。
『あ、あのさー。もし明日元気になってたらでいいんだけどー。また、一緒に遊んでくれる?』
「うん」
心配はかけたくない。
だからこそ迷わず返事をすると、武氏さんが心底ホッとした顔をする。
『良かったー。ありうっちが嫌だって言ったら、どうしよっかなーって思っちゃった』
「大丈夫だよ。僕はみんなと友達でいたいから」
僕は、不安をごまかしながらそう本音を伝えると、再びみんなに笑顔を向けたんだ。
◆ ◇ ◆
『ログインする時はイズコで教えろよな!』
「うん」
『今日はゆっくりなさいね』
「ありがとう。それじゃ、おやすみなさい」
『おやすみなさい』
『また明日ねー!』
みんなが手を振ってくれるのを見ながら、僕はゲームをログアウトし、イズコの通話を終了した。
終わった……。
そう思った瞬間、安心感と一緒にどっと襲ってきた疲労感。
正直、現実そっくりの彼女達に途中からずっとドキドキしっぱなしだったし、色々やらかしたって不安もあって気が休まらなかったから、本当に疲れた。
僕はそのままパソコンを落とすと、ふらふらと席を立ち、そのままベッドに倒れ込んだ。
ちなみに別れ間際、みんなにはファンタジー・フォレストの時みたいに、お互い自由にレベル上げとかをして過ごしてねって伝えておいた。
こっちに気を遣って足並み揃えたりされるのも、なんか申し訳ないし。
でも、TOP4のみんなが友達、か……。
ベッドに埋もれたまま、僕はぼんやりと今日を振り返る。
頑張って友達でいたいって伝えられたし、みんなもOKしてくれた。
それにはほっとしたけれど、今日だけで色々と失敗して迷惑を掛けちゃったし、この先リアルでみんなと接していくのだって不安もある。
中学以降、学校で友達のいなかった僕が、この先みんなとうまくやっていけるんだろうか?
未だに男子とすらどう接するか、よくわかってないのに……。
それに、ゲーム内ですらあんなにドキドキしたんだ。現実でみんなと側にいたら、今日みたいに恥ずかしすぎて、それこそ倒れたりしないかな……。
学校内で最も人気のTOP4。
僕なんかと接点なんてない。そう思っていたはずの相手。
四人とも可愛かったり綺麗だったり。友達でいるにしても、僕にはあまりにも不釣り合いだよね。
TOP4として人気があるのは、外見もそうだけど今日みたいにみんな気遣いもできるからだと思う。
実際これまでの僕も、なんなら今日の僕だって、間違いなく彼女達の優しさに助けられてなんとか関係を維持できただけ。
こんな自分のままじゃ、今まで以上に気を遣わせちゃうに違いない。
でも……ちゃんと友達でいたいって伝えたんだ。
大変かもしれないけど、みんなの気持ちに少しでも応えて、友達としてもう少し自然でいられるようになったほうがいいよね。
僕にできるかな……ううん。できるようにならないと。
目を閉じると、瞼の裏に浮かんだのは四人がキスしてきた時の顔。
あの時の事を思い出しちゃったせいで、また僕の顔が熱くなる。
ゲーム内とはいえ、あんなことをされたのはすっごく恥ずかしかった。
実際、本当にみんな可愛くて目を奪われたし、耳に届く声にも凄くドキドキさせられて。そのせいで、夢心地な気分になったのも確か。
本当に、いいのかな?
みんなの友達として、側にいても……ふわぁ……。
ふわふわとした思考が、眠気のせいで少しずつ霧散するように消えていき……気づいたら、僕は部屋の電気を消すのも忘れ、そのまま眠りに落ちていたんだ。




