9歩目 女子会は踊る。そして...
◇ ◇ ◇ ◇
「──というのが今の状況だよ」
「なるほどねぇ…」
かほちゃんはアイスコーヒーに入っている氷をストローでくるくると回す。
「脈ありじゃん。両想い確定です。あとはグッといってガッとやったらゴールよ」
強引なことを言いやがる。
「それができたら苦労しないんだって」
「なんでよ。なにがそんなに不安なのよ」
不安にもなるに決まっている。私はかつての出来事を思い出した。
「実は私ね。中学の卒業式で桐木君に告白しようとしたの」
「ほう。それで結果は」
「告白できなかった。いや正確には告白させてもらえなかった」
「どゆこと?」
かほちゃんは不思議そうな目でこちらを見つめる。
「桐木君となかなか二人きりになれなくてね。なんとか話しかけようとしても話しかける前にすっとどこかに消えちゃって。気づいたら学校にはもういなくて帰ってたみたい。そこから最近までずっと疎遠だったんだよ」
戦うことすら許されなかった。あれはきっと告白を先送りにし続けた私への罰だったのだろう。
「でもめぐめぐ。今は桐木君とそのデートもとい散歩は出来てるんでしょ。だったらあれよ。中学のときは恋愛対象に見られてなかったけど、久しぶりに会ったら『あれ?俺の幼馴染こんなに可愛かったっけ?』ってなったパターンだよ」
「そうかなぁ。今はあくまで友達として仲良くできてるだけであって、桐木君からの恋愛オーラは1mmも見えてこないけど。というか桐木君なに考えてるかあんまわからないんだよね」
「へえ。じゃあ少し話変わるけどいい?気になったんだけど桐木君って今なにやってるの?どこかの大学に通ってるの?」
「…わかんない……」
そう。わからない。そりゃあ私だって気になるけど、なぜだか触れられたくなさそうに見えて、だから私も訊かないようにしていた。
「そっか。でもわからないなら訊けばいいだけの話よ」
「訊くってどうやって」
「今電話して訊けばいい」
は?え?今?いくらなんでもいきなりすぎないか。
「だって今じゃなかったらめぐめぐ先延ばしにし続けるでしょ」
うっ…!私の先延ばし癖を見抜かれてる…
「いやでもいきなりすぎて…それに電話ってなんか照れるし…」
「今必要なのは照れじゃなくてTELだよ。そうすればきっと勝てる。」
さてはそれ言いたかっただけなのでは?
「ほら。ニャイン開いて通話ボタンぽちっと押すだけだから」
「あーーもうわかったよ!!電話すればいいんでしょ!!やってやんよ!!私やってやんよ!!」
「よっ!それでこそ男だ」
「女だよ!!」
よし!かけるぞ!
あ、でも待って一回深呼吸しとこう。
スゥーー……フーー…
もう一回くらいしてもいいかもしれない。
スゥーー……フーー…
やっぱりもういっk…
「いつまでやってんのよ!この部屋の酸素全部二酸化炭素に変えるつもりか!」
「もう押す…押すから…」
私は意を決して通話ボタンを押した。
呼び出し音が鳴るこの時間が無限に感じた。
2コール目が過ぎ、3コール目が鳴っていた途中だっただろうか、呼び出し音は途切れ代わりに彼の声が聞こえてきた。
『もしもし小山ちゃん。どうしたの?』
「もしもし桐木君、急にごめんね?あの…えっとね…」
『うん』
桐木君はやさしく相槌を打つ。
『あのね…その…』
あれ?どう話を切り出せばいいんだ?いきなり訊くのも変だよね?まずは小粋なトークで場を温めてから…いや、できるわけないだろ!温めるどころか南極もびっくりするくらい冷え切るのが目に見えてるよ!でも本当にどうしよう…
「もう単刀直入に訊いちゃえって」
そばで私の痴態を眺めていた彼女が助け舟でも出すかのように囁いた。
『あれ?もしかしてそばに誰かいる?』
「ああ…うん、近くに大学の友達がいてね…」
「ありゃ。聴こえてたか。邪魔するつもりはなかったんだけどね。」
そう言うと彼女は私のスマホに近づいた。
「どうも同じ大学でめぐめぐと仲良くさせてもらってます清水かほです」
『めぐめぐ…?ああ、小山ちゃんのことか。どうも小山ちゃんとは…中学が一緒だった桐木かえでです』
「お二人の話は聞きましたよ。それでですね、私気になったんですよ」
彼女は私に視線をちらりと向けた。
「桐木さんって今なにをされているのかを…」
不甲斐ない私の代わりに彼女が訊いてくれた。本当は自分で訊かなければいけなかったことのはずなのに。
『今って…ああ、なるほど。そういうことですか。……少なくとも初対面の人には話せないかな…』
「そうですか。でもだったらめぐめぐには…」
『──小山ちゃんにだったら話せる』
桐木君ははっきりとそう断言した。
「だってさめぐめぐ。じゃあ私少し席外すね。桐木さんもいきなり失礼しました」
『ああ、いや別に…』
その言葉を聞くや否や彼女は席を立った。別れ際に彼女は口パクで私になにかを伝えてきた。
多分「がんばれよ」なんだろうなぁ…
私は人に恵まれている。本当に彼女は私にはもったいないくらいの友人だ。
「ごめんね桐木君。でも本当は私も気になってて…」
『そうだよね。本当はもっと早く伝えるべきだった』
『でも話すと長くなるから今度直接会ったときでいい?』
「うん。大丈夫。じゃあ次の散歩で」
『うん。またね』
そうして電話は途切れた。
昔から自分のことをなかなか話さない桐木君が私にだったら話せると言ってくれた。これほど嬉しいことはない。でもなんだろう。この嫌な感じは…
このときの私は知る由もなかった。彼が心の奥底に隠しこんでいたモノを引きずり出して触れてしまったということに。
だけどもう止まることはできない。歩き出すと決めたのは私自身なのだから──
第9話 女子会は踊る。そして...




