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7歩目 風が強い!!!

 博物館へ行くことを無事約束できてほっと一安心。だけど今日の目的は橋まで歩いて行くことだ。歩き慣れた小学校までの道はすでに終わり、ここからはあまり歩いたことのない道だ。あたりに建物は少なく周囲には畑が広がっている。育てているのはレタスだろうか。収穫作業をしているであろう農家の姿が遠くで小さく見える。そんな田舎の原風景とは裏腹に道路はきちんと整備されている。


「俺、この道好きなんだよね。人の気配が少なくて。でも道はきれいで歩きやすい。裏道だからか車通りも多くないし。なんていうか考えることが少なくて楽だ」


 桐木君は遠くを見つめながらそう語った。

 普段はあまり自分を見せてこない彼だが今の言葉はきっと本心なのだろうとなぜか理解できた。本心を見せてくれたのは少しは私に心を許してくれているからなのだろうか。そうであるなら私は嬉しい。


「私も好きだな~。のんびりしていて時間を忘れさせる感じが」


 そう言いながら私は両腕を上げ、伸びをした。桐木君はまだ遠くを眺めている。君は今なにを考えているのだろうか。


◇ ◇ ◇ ◇


「さあ、小山ちゃん。この坂を過ぎたら大通りと合流していよいよ橋は目前になるけど足の調子は大丈夫?」


「元気ピンピンよ!私も日々成長しているということだね!」


 公園のときの筋肉痛なんてすでに過去の出来事だ。


「そういえばここにコンビニあるけど小山ちゃん寄りたい?」


「私は特に寄らなくても問題ないけど桐木君は?」


「俺も。じゃあ行こうか」


 信号を渡り歩き出す。橋はすでに見えている。


「到っ着!広いね~この橋!なんて名前の橋だっけ?」


「俺も覚えてないな」


「じゃあわからん橋に到着ということで」


 橋のそばには水門があり川も流れている。しかしそんなものよりも目立っているのはあたり一面に広がる田んぼだ。地平線近くまで広がっている田んぼを橋の上から眺めることができる。遮るものはなにもなく、そこにはただ広い、広い空間だけが存在していた。


「うしゃ~~!!良い景色だ。車の中からじゃよくわからなかったけどめちゃくちゃ広いね!」


「そうだね。なんていうか空って思いのほか大きかったんだなって」


 そう言いながら桐木君は空を見上げる。私もつられて空を見上げた。雲一つない晴天だ。まるで真っ白なキャンバスを水色の絵具一本だけで塗りつぶしたかのようなそんな青空に感じた──

 そんな青空に小さな影が一つ。


「あっ!あれタカじゃない!?」


「どうだろ。多分トンビだと思うけどな」


 なんだ。タカじゃないのか。まあでも同じ猛禽類だし大体一緒だよね。タカがトンビを生むとも言うし。あれ?トンビがタカを生むだっけ?


「そんなことよりもさ。桐木君」


「小山ちゃんの言いたいことならわかるよ…」


  そうか。流石に桐木君も感じていたか。


「じゃあ、せーので言おう」


「わかった」


 私は大きく息を吸い込んだ。


「せーのっっ!」


「「風が強い!!!」」


 そう。風が強い。いや強すぎるのだ。遮るものが何もない良い景色、それはすなわち風を遮るものが何もないということだ。

 反対車線の歩道で自転車を押して歩いている人がいたけどそりゃあそうだ。これだけ風が強いと漕ぐより押して歩いたほうが楽だろう。


「小山ちゃん。髪すごいことになってるよ」


「桐木君もね」


「ふふっ…」


「ははっ…」


「「あははははははっ!!!」」


 指を差し合い笑いあう。なんてことないこの日常。でもこれが私は堪らなく愛おしくて…こんな日々がずっと続けばいいのに。気づけば私はそう願っていた。


「そろそろ帰ろうか小山ちゃん」


「これ以上いたら風で飛ばされちゃいそうだしね」


 私たちは手櫛で髪を整えながら踵を返す。


「次はどこ散歩しようか」


 自分でも驚くくらい自然と言葉がこぼれていた。


「そうだなぁ。次は──」


 空は快晴。風は強風。だけど心は穏やかだ。君とならどこへ行っても楽しめる。だから叶うなら明日も明後日もそのずっと先だって、


 君の隣を歩いていたい──



    第7話 風が強い!!!


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