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6歩目 デートじゃない

「ああ~~~っ!!!!」


 私は先日の桐木君とのニャインの一件を思い出し、顔を覆った。

 なにが好きを受け取るだよ!!我ながら随分クサいことを考えたな!?とち狂って桐木君に伝えなくて本当によかったよ!

 桐木君とのニャインは照れた私が誤魔化すようにスタンプを連打したことで無理矢理終わらせていた。

 ふぅ、そんなことより今日は午後の講義が休講したから一日暇なんだよね。この時間帯ならそろそろ──


「あ、きたきた、おーい。桐木君!」


 私は桐木君に向かって右手をぶんぶんと振る。桐木君はこちらに気づいたようで控えめに右手を上げた。


「桐木君、今日も散歩?」


「そうだよ。ていうかなに?もしかして小山ちゃん俺のこと待ってた?」


 その通りだが真正面から言われると照れるな…

 私は照れを隠すように自分の髪をひとしきりいじったあと、人差し指と親指を突き立てそれを桐木君に向けた。


「べ、別にあんたのことなんか待ってないんだからね!?」


「お、ツンデレだ」


 テンプレツンデレ仕草をすることで無事誤魔化すことに成功した。


「そんなことより今日はどこ歩く予定?」


「特に決めてないからまた公園でも行こうかな」


「また公園?別のところにしよーよ!」


「別にいいけど、小山ちゃんがついてくることは確定なんだ」


「いいでしょ?」


「いいけど」


 断られたらどうしようかと内心ひやひやしていたがどうにか一緒に散歩をすることができそうだ。


「うーん。じゃあ今日は橋のほうでも行こうかな?」


「橋ってどの橋?」


「あっちのほうの橋」


 そう言いながら桐木君はこの前歩いた公園とは真逆の方向に指をさした。

 随分と大雑把な伝え方だな。でもどの橋かはわかった。


「隣町に続いてる橋、だね」


「そう、あそこならこの前行った公園より近いし小山ちゃんでも歩けるでしょ」


「公園のときも余裕でしたけど」


 フッと苦笑しながら桐木君はぶっきらぼうに話す。


「ま、いいけどさ。準備ができたら早速いこうか」


「準備なら万端だよ!」


 そう、準備は万端だ。今日はすでにスニーカーを履いてるし、500mlペットボトルの天然水も持っている。


「じゃあ行こうか」


 桐木君がそう言うと私たちは歩き出した。


◇ ◇ ◇ ◇


「この道は私も歩き慣れてるよ。小学生のときの登下校路だった」


「知ってる。小山ちゃんとは登下校班違ったけど俺もこの道が登下校路だったし。ていうか小山ちゃんたまに自分の班抜け出してこっちの班に混ざりに来てたよね?」


「へへ、覚えてたか」


「そりゃね」


 桐木君も覚えてたのか。嬉しいやら恥ずかしいやらだな。


「なんか懐かしいね」


「そうだね」


 なんだこれ!?アオハルじゃん!?勢いあまって告白しちゃいそうだよ!?


「小山ちゃん、前から自転車来てるから端に寄って止まってようか」


「ああ、うん、わかった」


 確かに前から自転車が来ている。自転車はすれ違いざま軽く会釈をしてきた。この町では基本的に自転車は歩道を走っている。本当は車道を走らないといけないけど車道は自転車が通るには少し狭いし、歩道はほとんど誰も歩いてないから合理的といえば合理的な判断だ。

 たまに車道走ってる自転車の人いるけどそれで車が渋滞してることあるんだよなぁ。もちろんその人が悪いってわけではないんだけどね。


「手慣れてるね。桐木君」


「この道もよく通るからね。どの時間帯に自転車が通るかも大体わかってきた」


「流石散歩博士」


「散歩博士言うな」


 私たちは引き続き思い出話に花を咲かせながら歩いた。そうしてしばらく歩いていると大きな看板が一つ現れた。そこには自然博物館まで約1kmと書かれている。


「懐かしいね。自然博物館」


「そうだね。小学生のころは校外学習なんかでよく来てたけど」


 自然博物館は私たちが通っていた小学校と近いということもあり、よく校外学習の場として利用されていた。博物館には野外施設があり、そこは原っぱや池、森なんかも存在し自然博物館の名に恥じないほど自然豊かな場所である。

 あ~、植物の観察とか野鳥の観察とかやらされてたな。昔はめんどくさって思ってたけど改めて振り返ると結構楽しんでたかも。


「桐木君は最後に自然博物館に行ったのいつ?」


「うーん、多分小学生のころに行ったのが最後かな。中学のときに行った記憶はないし」


「私も似たようなもんだよ。そうだ!今度二人で博物館行かない?」


 あれ!?勢いでしゃべっちゃったけどこれデートの誘いみたいになってないか!?今からでもやっぱ今のなしって言ったほうがいいかな!?でも逆に意識してるみたいでおかしいか!?

 今更取り消すことも出来ずあたふたしていると。


「まあ、機会が合ったらね」


 普通なら社交辞令の極みみたいな返事だが私は知っている。桐木君は「行けたら行く」と言ったら大体来るタイプの人間だということを。きっとこれも言葉通りの意味なんだろう。

 ──いや、これが希望的観測だっていうのはわかってる。ただ私がそうだったらいいなって。それだけの話だ。


「絶対、絶対行こうね!!」


「ははっ、わかったってば。でも今日行くのは橋だからね?」


 風が吹き草木が揺れて、花の香りが鼻をくすぐる。

 大丈夫。これはデートじゃない。

 私たちはただ散歩をするだけだ──



    第6話 デートじゃない


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