5歩目 好き×受け取る
「あ~!明日は筋肉痛確定だな~」
独り言をつぶやきながら風呂上りの私はベッドへと倒れこんだ。
それにしても今日は疲れたな。なんとか帰り道も歩ききれたけど、桐木君に体力のなさを指摘されてしまったし。いやでも桐木君のほうがおかしいと思うんだよね。帰り道もずっと余裕そうな様子だったし、家まで送ってもらったけど別れ際にまだ歩き足りないからもう少し歩いてくるとか言ってたし。体力底なしかよ。
「まあ、久しぶりに桐木君に会えてよかったけど…」
スマホの写真フォルダを開いて今日の出来事を思い出す。
2ショットは流石にやりすぎだったかな。でも幼馴染だったらこのくらい普通、だよね?別に他意はない。他意なんかない。
そう自分に言い聞かせながら枕を抱きかかえ、ベッドの上で足をジタバタとさせる。足に疲れが感じ始めたところでふと我に返る。
「そうだ、写真。桐木君に送ってあげないと」
メッセージアプリのニャインを開くため写真フォルダを閉じた矢先、自らが重大な失態を犯したことに気が付いた。
ニャイン交換し忘れた……。なにやってるんだよ!?なに2ショット撮って満足してるんだよ。あのときニャイン聞けばよかったじゃん!?
──いや、しかし待てよ。私は中学のときからニャインのアカウントを変えてない。そして中学のときに私は桐木君とニャインの交換はしている。だったら桐木君がニャインのアカウントを変えてさえいなければまだ連絡先が残っているはずだ。クレバーな私はそう結論づけた。
私ってあったま良い~!
早速ニャインのフレンド一覧を開き、桐木君の名前を探した。
「え~っと、桐木、桐木と。あった!」
確かにそこには【桐木かえで】と表示されているアカウントが存在していた。
「いや、でも……」
確かに存在していたがアカウントのほとんどが初期設定だ。アイコンだけは変更してあるが、これは水色?いや、よく見たら雲が見切れている。青空をアイコンにしているのか。なんというか無味無臭といったアカウントだ。
「正直今も使ってるかどうか怪しいけど送るだけ送ってみるか」
とは言ってもなんと送ればよいものか。同じ画面を見続けながらうんうんと唸りを上げる。
季節の挨拶から始めるべき?いや、流石に固すぎるか。じゃあ逆にフランクにいくか?
『小山ちゃんだよ♪元気してた???今日はめちゃくちゃ楽しかったよ!!!また遊ぼーね!!!』
いや、ないわー。流石に初手でこれはない。自分のセンスのなさに辟易する。
似たような文章を書いては消し、書いては消しを繰り返し気づけば時計の長針は180°回転していた。
『小山です。今日は楽しかったです。』
シンプルすぎる気がするけど、もう…これでいいか…
意を決して送信ボタンを押す。
これは先に写真を送るべきなのかそれとも相手のレスポンスを待つべきなのだろうか。そう悩んでいると画面に既読の文字がついた。良かった今もこのアカウントを使っていたのかと安堵する。
◇ ◇ ◇ ◇
既読がついてから5分ほど経った。まだ返信はない。
「もしかして無視…されてる…?」
いやいやいや、流石に5分返信が返ってこないだけで無視判定は心が狭すぎるだろ。そう心の中で自分にツッコミながら画面を見つめる。部屋には普段は気にならない秒針の音だけが鳴り響いている。
ニャーイン♪
ニャインの通知音だ。桐木君からの返信がついにきた。私は急いでメッセージ内容を確認する。
『桐木です。俺も楽しかったです。今日撮った写真を送ります』
そう書かれた文章に続いて両手を上げてる私とティラノサウルスが映っている写真が送られてきた。私が写真を送ろうとしてメッセージをしたのに先を越されてしまったみたいだ。
私も負けじと写真を2枚送る。1枚目は桐木君とティラノサウルスの写真。2枚目は桐木君と私の写真だ。
『よく撮れてるでしょ!』
少し間が空いてから桐木君から一つのスタンプが送られてきた。
「猫だ…」
そう猫のスタンプが送られてきた。それ自体は何もおかしなことはないが、なんだこの絶妙な表情をした猫は。喜怒哀楽のどれかを表しているのか、それとも驚いているのか。
わからない...!この猫からはっ…!感情が読み解けないっ…!
いくら見てもわからない…もう直接訊くかとメッセージを送る。
『どういう感情???』
『好きに受け取ってください』
なんだそれ。自分の感情を他人に委ねるなよ。でも──
『本当に好きに受け取っていいんだね!?』
『いいよ』
本当に、本当にいいんだね。君が好き「に」受け取れと言うのなら、私は──
好き「を」受け取る──
第5話 好き×受け取る
ちなみに小山ちゃんのアイコンは桜餅です。




