43歩目 「デートだよ」
「やーっと解放してくれたよ」
「かえで君の往生際が悪いからでしょ」
「すいませんね こういうのには慣れてないもんでして」
かえで君は若干キレながら文句を言ってくる。しかし文句は言っているがなんだかんだ「あーん」は受け入れてくれた。かえで君は私に甘い。
でもそっか。慣れてないのか。それはなんか嬉しい。
「なに笑ってんの」
「ふふっ、いや別に」
ご飯を食べ終わった私たちは食後の運動がてらあたりを歩いている。現在は花畑と木が並んで生えてあるエリアにいる。
「あっ!カエデの木生えてる!」
秋にはまだ少し遠い。当然紅葉もまだで、葉は青く見ごろとは言えない。
「かえで君!花言葉覚えてる?」
「絶対聞くと思った…」
かえで君はめんどくさそうに言葉を返した。
「それで覚えてるの?」
「……『大切な思い出』…」
「ねっ!」
相槌を打ち肩をぶつける。
「『ねっ』ってどういうこと…」
「ピッタリだねってことだよ」
「まぁ、そうかもね」
「秋になったらまた来よう。そうすればきっと──」
『大切な思い出』がもっと増える──
◇ ◇ ◇ ◇
さらに進み今度は噴水広場付近に来た。冷夏といっても歩いていれば多少は暑くなってくる。しかしこの場所は涼し気でちょうどいい。私たちは噴水から出た水を利用して作られた人工的な川のような「流れ」に沿って歩いている。
「そういえばさ、気になってたことあるんだけど聞いていい?かえで君」
「いいけど急だね」
「ふと思い出してね。夏祭りの時私が告白したの覚えてる?」
「…ほんとに急だね。忘れるわけないでしょ……」
目を逸らしながら答えた。
そう言ってくれるのは嬉しいが本題はこれからだ。
「あのとき大崎君とかほちゃんが尾行してたでしょ?」
「ああ…そうだったね。困ったもんだよあのふたりは」
ちなみにかえで君は夏祭りの終わり際にはもうかほちゃんの扱いはだいぶ雑になっていた。多分大崎君と同じ枠に入れたのだろう。
「それでそのふたりがどうかしたの?」
「かえで君、ほんとにあの尾行に気づいてなかったのかなって。普段ならああいうのすぐ気づくでしょ?」
かえで君は人の視線にすぐ気づく。実際以前散歩中にかほちゃんに尾行されたことがあったがその時は速攻で気づいていたらしいし。まあ夏祭りは人が多いから気づきにくいと言われればそれまでだか私の中でこのことは少し引っかかっていた。
「なるほどね。まあいつもならもっと早く気づいてたと思うよ」
「やっぱり人が多かったから気づかなかったの?」
「多分そういうわけでもないかな。会場離れてからは人通りも少なくなってたし」
たしかに。最終的に公園で花火見たけどそこには私たち以外の人はいなかった。じゃあますますあのふたりの存在に気づかなかったのが謎だな。
私が頭を傾かせて考えていると…
「めぐみちゃん、自分で言ったことも覚えてないの?」
えっ?私?私なんか変なこと言ったっけ?
「『私だけ見てればいい』だったかな?そのせいで気づくのが遅れたんだよ…」
たしかに言った。え…!?もしかしてその言葉を律儀に守っててくれてたからなの!?
「このこの~!私のこと大好きかよ~!」
肘をぐいぐいと当てる。
「そうだよ。なに当たり前のことを」
「なっ…!」
歯の浮くような言葉をそうやって平然と…!
「かえで君はあれだね!女誑しだね!一体そうやって何人の女を落としてきたんだか!」
「心外だな…」
その言葉と共に私の顔を覗き込む。
「ひとりだよ」
表情を変えずそう言った。
「だっ…だから!そーゆうとこだよ!」
私はかえで君に肩をドンと当てる。
「すぐタックルするのやめてよぉ…」
◇ ◇ ◇ ◇
ところ変わって今度は沼地周辺。ここらへんは本当に自然豊かで冬になると白鳥も来るほどだ。私たちはそんな沼地に架かっている橋を渡っている。この橋を渡り切った先には博物館とはまた違った施設がある。
「あっサギだ」
私は沼にいた長い首、長い脚、そして白くて大きいという特徴を持っている鳥、「サギ」を見つけて指差した。
「あいつ渡り鳥ですみたいな雰囲気だしてるけど一年中見かけるんだよな」
ここらへんにいるサギは夏は田んぼなんかでよく見かけ、冬は池や川なんかによくいる。
「それだけ居心地がいいってことじゃないの?」
「こんななんもない田舎にねぇ。上京とか考えたことないのかな」
「鳥相手になに言ってるのかえで君」
なんてことを話しつつ引き続き橋を渡る。この橋は白い木材で作られていて景観とマッチしている。
「この橋も懐かしいね。小学生の時野鳥観察の授業で通ったよね」
「そうだね。でも多分この橋新しくなったんじゃない?前よりも綺麗になってる気がする」
「ああ~、たしかに」
私は改めて橋を眺めた。確かに記憶より綺麗に見える。あの頃の橋とは違うはずなのに懐かしく感じるのは何故だろうか。
「そういえば野鳥の生態調べて新聞みたいなの書かされたよね。めぐみちゃんはなに書いたか覚えてる?」
「『野鳥新聞』ね。私はカワセミだったかな?かえで君は?」
簡単だ。それでも思い出は残ってるからだ。
「俺はカラスにしてたよ」
「…やっぱり斜に構えてる」
こんな自然豊かなところでいろんな鳥を観察してそのうえでカラスを選ぶとはかえで君もなかなかの筋金入りだ。
「いやめちゃくちゃ王道でしょ。全身真っ黒ってちょっとかっこよすぎるし。それに八咫烏って知ってる?カラスって神話にも登場するくらい昔から信仰の対象にされてるんだよ。むしろカラスについて調べないのが失礼まである」
最近わかったことがある。かえで君は少しだけ中二病だ。これが昔大人びて見えてた理由の一つだろう。小学生にとって中二はじゅうぶん大人に見える。しかしいま見たらそれは子どもっぽい。子どもっぽいとは思うがそんなところもかわいくて私は大好きだ。
「…なに笑ってんの」
じとっとした目で私を見た。
「かわいいなって」
「だからカラスはかわいいんじゃなくてかっこいいんだって」
「かわいくてかっこいいよ」
「…なんで俺の顔見て言ったの……」
かえで君は目を逸らした。
「言わないとわかんない?」
「わかんないけど言わなくていいよ」
「なんでかって言うとねー、」
「だから言わなくていいって!」
◇ ◇ ◇ ◇
そんなこんなで橋を渡り切った。しかしそろそろ閉館時間。この先は探索せずに引き返す。夏ということもあり日はまだ傾いていない。
「いやー、なかなか歩いたね」
スマホで歩数計を確認し、かえで君に語り掛ける。
「そうだね。これなら年パスとって新しく散歩コースに加えるのもアリかもな」
「あっいいね!だったら私も年パスとる!」
「ふっ」
かえで君は笑うと遠くを見つめた。
「付き合ってもすることが結局散歩とは。俺たちも変わんないね」
「いやいやわかってないねぇ、かえで君」
私は呆れたように声を返す。
確かにやることは変わらないかもしれない。でも──
「これからは散歩じゃなくて──」
第43話 「デートだよ」
切りのいいところまで書けたので一旦最終話とさせていただきます。最後までお読みいただきありがとうございました。しかしまだまだこの二人の話は書けそうなので需要がありそうなら続き書きます。桐木君が小山ちゃんの大学の学園祭に遊びに行く話とか二人が中学の同窓会行く話とか書けたらおもしろそうだなとは思ってます。読みたいという方がいたら何らかの反応をしてもらえると助かります。
話が変わりますが毎話タイトル結構頑張って考えてたので気に入ってるものがあれば教えてくれると嬉しい気持ちになります。ちなみに筆者は14話目の「雨のち曇天のち未定」と34話目の「音も光も遅すぎる」が特に好きです。




