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42歩目 「勘弁してあげない!」

「はぁ…はぁ…大人げないよ かえで君…!本気で走るなんて……!」


「ハァ…どの口が…!合図もなしに勝手に走り出したクセに…!」


 しばらく芝生で寝転んでいた私たちだが隙を見て私が一人で橋へと走り出した。しかしかえで君にすぐに追いつかれ追い越され今に至る。


「ふぅ…それでそんなに話したくないことなの?」


 息を整えながら話す。


「いや別にそんなことないけど。ただ負けるのが癪だっただけで」


 かえで君は結構な負けず嫌いだ。


「それじゃあ教えてよ」


「いま話してもいいけどそろそろお昼の時間じゃない?どうする?一応ここレストランもあるけど」


 なんか話逸らされた気がする。でもお昼か……。あのことを言わなければ……


「あ…あのね…かえで君…!お昼なんだけど……」


「そういえばめぐみちゃん、コインロッカーに何か入れてたよね」


 私がもじもじと話している途中でかえで君が言葉を差し込んできた。


 バレてるなこれ……


「……実は私お弁当作ってきたの」


「わあビックリ。わざわざ作ってきてくれてたなんて驚いたよ。ありがとね」


「しらじらしいよ、かえで君。いつから気づいてたの」


「今日会ったときから。いややっぱり一昨日からかな?仕事終わりに急に好きな食べ物聞いてきて察したよね」


 あのときからかー。すごく自然に聞けたと思ったんだけどなー。


「でも嬉しいと思ったのは本当だよ」


 そう言って微笑む。


「そ、そか…。でもあんまり期待されてもプレッシャーというか…」


「いやー、楽しみ、楽しみ」


「いじわる…!」


◇ ◇ ◇ ◇


 二人でコインロッカーから弁当を回収し現在は野外施設の池近くにある東屋にいる。公園によくある屋根付きの簡易的な休憩スペースのようなところと言えばわかるだろうか。私たちはそこにあるテーブルに弁当を置き対面した状態で座っている。


「じゃ…じゃあ、どぞ…!」


 私は弁当箱の蓋を開けた。


「おお~、からあげに卵焼きにハンバーグ」


 かえで君に好きな食べ物聞いたら子どもが好きそうなモノは大体好きとかいう曖昧な答えが返ってきたからだいぶ弁当の中身が肉肉しくなってしまったがどうだ……?


「どう…?」


「めぐみちゃん、天才」


「よ、よかった~~っ!」


 私は安堵の息を漏らす。


「い、一応ね、バランス考えてサラダも持ってきたんだけど大丈夫だよね?」


 私は別の容器に入れていたサラダを取り出した。


「お~、天才」


 その天才って褒め方なんなの?


「じゃあ早速いただきます」


 そう言ってかえで君は手を合わせた。


「いただかれます」


 これは礼儀だ。


 まずかえで君が選んだのはからあげだ。普段から料理をしている人に料理をふるまうというのは緊張する。ましてや好きな人相手だから余計にだ。


「うまい…!このからあげ美味しいよめぐみちゃん」


「ほ、ほんとっ!?」


「ほんと、ほんと、今すぐ店開いたほうがいいレベル。そうすれば金賞取れるから」


「それ全部のからあげ屋が取れるやつでしょ」


「でも本当に嬉しいよ。俺、普段はめんどくさくて揚げ物は一切作らないからさ」


 へへ、喜んでもらえるのは素直に嬉しい。


「めぐみちゃんも食べなよ。そう見られてると食べづらい」


「そうだね。いただきます」


 私は卵焼きに箸を伸ばした。


「そういえばこの卵焼き、しょっぱい系なんだけど大丈夫?」


「大丈夫だよ。俺も卵焼き作るときは基本しょっぱいのにしてるし。でも甘いのも好きだよ。砂糖入れすぎると焦げやすくなるからあんまりやらないだけで」


 そうだったのか。どっちにしようか散々迷った結果しょっぱいほうに賭けたけどどっちを選んでも正解だったとは。

 そんなこんなで私たちは弁当を食べ進めていった。他のおかずも美味しそうに食べてくれて私としても満足だ。しかし途中でかえで君の箸が止まった。やっぱり量多すぎたかなと思い、別に残しても構わないという旨を伝えようとするとかえで君の口が動く。


「…そういえばめぐみちゃん、俺が何か言いかけてたの気になってたよね」


 そういえばそうだった。お弁当のことで頭がいっぱいになり忘れていた。


「う、うん…」


「俺が言おうとしてたことは──」


 かえで君は箸を置いた。


「好きです。付き合ってください──」


 ……………へ?


「あ、ごめんやっぱなし…。絶対このタイミングじゃなかった…」


「いやいやいや!!絶対取り消させないからね!!」


 私はテーブルに手を置き身を乗り出す。


「でもなんか固まってたじゃん」


「それは単純にびっくりしたからというか…!なんか気分的にはもう付き合ってたしこう改めて言われるとは……!」


「ええ…じゃあ返事急かしてきたのはなんだったの…?」


 かえで君は困惑したかのように聞いてくる。


「その時とはもう状況が違うじゃん!だって今日私たちがしてたことって完全に……」


「完全に?」


 言葉に詰まった。


「と…とにかく!びっくりしたってだけっ!だから取り消さないで!!」


「わかったよ。…あの…ところで返事は……」


 おずおずとした様子で聞いてきた。


「『はい』一択に決まってる!!そもそも最初はこっちから告白したんだから!」


「よかった…」


 かえで君は安心したかのように言葉を吐き出した。


「断られるとか思ってたの?そんなわけないじゃん」


「流石に緊張したというか…。めぐみちゃんはすごいね。これを俺の心がわからない時にしたんだから。だからこそ俺も自分から改めて告白しないとと思ったんだけど」


 なるほど。だから告白の返事ではなく告白そのものをしてきたということか。


「あの…ところで私たちもう正式に付き合ってるということでいいんだよね…?」


「まぁ…そういうことになるのかな?」


「じゃあ…」


 私は席を立ち、かえで君が座っているほうの椅子に座った。


「もう抱き着いたりしてもいいってこと?」


 かえで君の肩に頭をこてんと乗せる。


「…人の目がつきそうなところでは勘弁してよ」


 そう言って引きはがされてしまった。

 たしかにここは今こそ周りに人がいないものの、いつ誰かが通りかかってもおかしくない場所だ。


「人の目がつかなかったらいいの?」


「…………」


 目を逸らした。


「沈黙は肯定と受け取るよ」


「ほんとに勘弁してって…!」


 この程度では終わらせない。


「じゃあ代わりに『あーん』してあげるよ」


 箸で卵焼きを持ち上げかえで君の口元に近づける。


「なんのじゃあかわかんないって……!」


「ふふっ…!」


 何年物の恋だと思ってる。これくらいじゃあ私の気持ちは止められない。


 だからまだまだ──



    第42話 「勘弁してあげない!」


次回最終回です(いったん)

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