40歩目 ホントに余裕だった?
「おお~」
石の企画展内部は全体的にほの暗く、洞窟のような印象を思わせる。しかしアクリル越しに展示されている様々な原石には温かみを感じる光でライトアップされており、ひときわ輝いて見える。
「鉄にルビー、サファイアにエメラルド、そしてダイヤか」
かえで君は展示されている鉱石の名前を羅列し始めた。
いまかえで君が言った鉱石以外にもここにはたくさんの石が展示されている。よく聞く名前のものから聞いたこともないマイナーなものまで。それらは加工のされていない原石であるがそれゆえの「自然」を感じさせ加工品にはない魅力を持っている。
「かえで君はどの石が好き?」
ふと気になり尋ねた。
「やっぱり鉄かな」
鉄!?なんか意外な答えが返ってきたな。
「序盤から手に入れられるってのは大きいよね。いろんなアイテムに加工できる汎用性もあってそこそこの耐久性を持たせられるのを俺は評価したい」
うーん、これは……
「マイクラの話してる?」
「してないよ」
平然と嘘を吐くな。
「あっ、ラピスラズリもあるじゃん。エンチャントもお任せあれってか」
「してるよね」
「してるかも」
認めたか。というか最初から隠す気なかったな。
「あのね、かえで君。こういうのはどれが綺麗だと思うかで決めるものなんだよ」
「綺麗、ね。正直どれも綺麗に見えるからなかなかに難しい質問だ。そういうめぐみちゃんはどれが好きなの?」
む、逆に聞かれてしまったか。私も考えてなかったから少し困る。
私は改めて展示されている鉱石たちを眺めた。
「うーん、ルビーかな。なんか赤くて綺麗だし」
「見事なまでに小学生並の感想」
仕方ないだろ。こういうのは理屈じゃなくて直感なのだから。
「いいでしょ別に!それでかえで君は決まったの?!」
「めぐみちゃんはルビーを選んだか……」
そう言うとかえで君は私を見た。
「じゃあ俺はサファイアで」
サファイアは言わずと知れた青い宝石だ。それ自体を選ぶのは不思議なことではないけれど……
「じゃあってどういう意味?」
「めぐみちゃんも鈍感だねぇ」
失礼だな。でもこれはちゃんとした意味があるということか。少し考えてみよう。
……うーん、考えてはみたもののまるで意図がわからない。もう素直に聞くか。
「ねぇ、どういう意味なの?」
「綺麗だと思ったものを選ぶって話でしょ?最近赤と青の綺麗なもの見たなって」
??? そう言われてもさっぱりわからないが。
「はっきり言ってよぉー!」
「これ以上ないくらいはっきり言ったつもりなんだけどな……」
◇ ◇ ◇ ◇
結局これ以上追求してもかえで君は答えてくれなかった。諦めて次の展示へと進むと今度は明るい部屋となっており、そこには大きな石がいくつか展示されていた。先ほどと違ってこれは直接触ってもよいみたいだ。
「なんだろこの石」
私は私の膝丈以上の高さのある白い物体を見て呟いた。
「岩塩だって」
私の疑問に答える形でかえで君は声を返す。
「あー、なるほど。塩も鉱石か」
「なんか普段料理で石使ってるって考えると変な気分だ」
「ね」
かえで君に同調し岩塩をペタペタと触ってみた。思いのほかザラついている。匂いはどうかと思い触った指を鼻に近づけた。
うーん、無臭…かな?まあ少し触ったくらいじゃ匂いは付かないか。
「舐めちゃダメだよ」
「舐めないってば」
小学生じゃないんだからとツッコんだ。そんなやり取りをしつつ次の展示を見に行く。
お次の石はなにやら黒くてゴツゴツとしている。メタリックな感じもあり大きさはバスケットボールよりもやや大きいといったところだ。
説明文を読んでみると……
「これ隕石だって!かえで君!」
「おお、こんな如何にもな見た目してるんだ」
確かに隕石も石だ。とはいえこの大きさの隕石を展示するとはなかなかに思い切ったことをする。
「これ持ち上げてもいいみたいだよ。かえで君持ち上げられる?」
土台に乗せられている隕石は鉄の柵に覆われており持ち去られないようになっている。まあそれがなくても簡単には持ち去られないだろう。だってめちゃくちゃ重そうだし。
「よゆー。よゆー」
なんかデジャヴ。そういえば米運ぶの手伝ってもらったときも余裕だって言ってたな。あの時は30kgの米はギリギリ持ち運べるって感じだったけど今回はどうかな。正直比にならない重さしてそうだけど。
「指挟まないようにね」
かえで君は「わかってる」と返事をし隕石を持ち上げにかかった。しかし隕石はうんともすんともしない。
持つ位置を変更し再度持ち上げようとするが結果は変わらずだ。かえで君は隕石から手を離すとそれをじっと見つめた。
「かえで君……?」
かえで君はすうっと息を吸い込む。
「じゃあ次のコーナーにいこうか。時間は有限だよ」
さっきのは諦めを決意するための時間だったのか。
「持ち上げられなかったね」
出来心で少し意地悪なことを言ってみた。
「そう見えた?ホントは少し持ち上げてたからね。でもあんまり余裕に持ち上げると、この人隕石盗むんじゃないかって警備員さんに思われるかもしれないからやめておいたんだよ」
舌が回る回る。でも無理のある言い訳だ。
「そっか。余裕だったんだ」
「そうなんだよ。余裕すぎたね」
どこまでも見栄を張りたいようだ。
「でも腕ふるえてたよ」
「!?」
第40話 ホントに余裕だった?




