39歩目 昔と違う
「博物館とうちゃ~く!楽しみだねかえで君!」
かえで君がウチで働き始めて数日後──私たちは博物館に来た──
現在は博物館の駐車場から入口までの道を歩いている。ちなみに運転したのは私だ。歩いても行ける距離にあるが、博物館もなかなか広くそれなりに歩くことになりそうなので体力を温存するため車で来ることにした。
「楽しみと言いつつ約束は忘れてたみたいだけどね」
かえで君は冷ややかな目で私を見る。
「うっ……ごめんって……」
でも言い訳をさせてほしい。その約束をしたのは数か月前だしその数か月間で本当にいろいろなことがあった。かえで君のカミングアウトに誕生日会、直近では夏祭りととんでもイベントの目白押しだった。これは約束を忘れるのも致し方なしなのではないだろうか。
……うーん、無理があるか。そもそも私から約束したやつだったしね。ごめんねかえで君。
「冗談だって、結局二人で来れたんだしかまわないよ。さ、行こうか」
笑いながらそう言うとかえで君は私に手を差し出してきた。
これは──
「うん!!」
私は迷わずその手を握った──
◇ ◇ ◇ ◇
入場口を抜けるとすぐそこに昔と変わらない「あの子」がいた。
「うわ~!やっぱり大きいねこのマンモス」
「あの子」とはこのマンモスのことだ。ここには実寸大のマンモスの骨格化石模型がある。展示説明によるとその大きさは5m以上あるようだ。
私はそのマンモスを思わず見上げる。
「なんかこの子見るたびに大きくなってない?」
「そんな親戚の子と会ったときみたいな感想抱かないでよめぐみちゃん」
「へへっ」
冷静にツッコまれてしまったがやはりすごい迫力だ。こんなのが大昔は闊歩していたのかと思いを馳せながらマンモスの展示を後にした。
「──ってもっとでっかいのいるし」
少し進んで階段を昇ったところに今度は大きな首長竜の化石模型が展示されていた。1階から2階への吹き抜けを利用して展示されている「それ」は先ほどのマンモスとは比にならない大きさをしている。
「こいつも昔からいたよね」
「たしかにいたかも。なんかマンモスの方が印象に残ってた。インパクトでいえばこっちのほうが大きいのにね」
「やっぱ最初に展示されてるものって印象に残りやすいんじゃない?あとマンモスは博物館の看板に描いてあるけど、この…首長はいないし」
「なるほど~」
でもこんだけ立派ならもっと記憶に残っててもいいのに。この…なんちゃらザウルス。
「……なんて名前だっけこの子」
「……なんだっけな。あそこに展示説明あるから見に行こうか」
どうやらかえで君も覚えていなかったようだ。私たちは名前を確認するため展示パネルへと近づいた。
「えーっと、ヌオエロサウルスか……」
「なんていうかあれだね……」
私たちは声を合わせた。
「「覚えづらい」」
なるほど名前が覚えづらいからあまり印象に残ってなかったのか。……いやかえで君はこの子の存在自体は覚えてたみたいだから単に私の記憶力が悪かっただけか。ごめんね勝手に名前のせいにして。
「でもこの子もすごいね。9.75mもあるって」
「そうだね。10mってサバ読んでもいいところを素直に小数点第2位まで申告してるところに好感が持てるよ」
「大きさよりもそこに注目するんだね。そこに誠実さ感じてる人初めて見たよ」
「誠実さは美徳だよ。人も恐竜も」
人はともかく恐竜もか。なんかかえで君ってまともな人のふりしてるけどたまに変なこと言うんだよな。でもそれ言っても否定されそうだし黙っとこっと。
しばらくヌオ…なんとかザウルスを眺めた私たちはその場を後にした。
「いやー、不思議なもんで。忘れてたと思っててもしばらく見てたら昔のこと思い出したよ」
「遠足とかで来てしょっちゅう見てたからね」
「やっぱり変わらないものってのはいいね。安心感があるよ」
「わかるよ。でも今日の目的忘れたの?」
かえで君はとある看板を指差した。
「企画展見に来たんでしょ」
この博物館では定期的に企画展が開催される。そしてその内容は毎回違う。今回は『世界のいろんな石展』という企画をやるらしい。当然私たちは見たことない企画だ。
「変わらないものの良さもあるけど新しいものの良さもきっとあるよ」
世の中には変わるもの変わらないもの色々ある。しかしどっちのほうがよいとかそういう話ではない。人によって、時代によって、価値観も変わるのだから無理に優劣をつける必要なんてないんだ。
でも「これ」は変わってよかったな──
繋いだ手を見てそう思った。
「うんっ!そうだね!」
第39話 昔と違う




