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37歩目 再会、あるいは再開

「ふわぁ~~~~~」


 目覚ましの音と共に目を覚まし伸びをする。

 昨日は本当にいろいろあった。浴衣を褒めてもらったり、逆ナンから助けたり、名前呼びしたり、そんな中私はかえで君に告白してそれがほぼ成功した。ほぼというのはかえで君がまだ付き合えないと言ったからだ。しかし両想いだと判明した今、そんなものは些細な問題だ。なんなら私は気分的には既に付き合ってる。


 ……あれ?なんだかこうして考えると上手くいきすぎてるような気もする。


 流石にないとは思うが昨日の出来事が夢ではないことを確認するため写真フォルダを開いた。

 そこにはかほちゃんから貰ったかえで君との夏祭りでの2ショット写真がしっかりと存在している。


 少しにやける。


 おっと、こんなことをしている場合ではない。今日は朝からバイトなのだった。

 私はスマホで現在の時刻を確認すると身支度をするため急いで洗面台へと向かった。


◇ ◇ ◇ ◇


 身支度を終えた私はまだ眠い眼をこすり裏手から店に入る。まだ開店前だ。


「おつかれーい」


 直後私の眠気は吹き飛ぶことになる。


「おはよう先輩。まだ眠そうだね」


 その姿、その声、私が見間違うはずがない。


「かっ、かかかか…かえで君!?」


 そこにはかえで君がいた──


 ウチの仕事着を着たかえで君は私のお母さんとなにやら話している。


「それで前にも説明したけど開店前にやる作業は──」


「なるほど。わかりました ちさとさん」


 驚いている私をよそにお母さんとかえで君は業務内容の確認をしていた。


「なっ、なな…なんでここに……?」


「うるさいわねー。なにそんなよく一緒に散歩している幼馴染が急に仕事先に現れたような驚き方して」


 一言一句同じことが起こってんだよお母さん。わかってて言ってるだろ。というか仕事先に現れたどころの話じゃない。これは……


「かえで君ウチで働くの……?」


「そうだよ。言ったでしょ、そう時間は掛けないって」


 確かに言ってたけどさ~~~~!


「え……?もしかして昨日帰ったあとウチに面接にきた…?」


 それなら一応理屈は通る。……通るか?いや通ることにしよう。


「そんなわけないでしょ」


「いてっ」


 否定の言葉と共にお母さんにバインダーで叩かれた。

 やっぱり通らなかったかー。


「普通に前から勧誘してたのよ。ウチで働かないかって」


 なるほど確かにそれなら納得だ。だが言いたいことが一つある。


「お母さんなんでそんな大事なこと黙ってたの!?」


「あんた守秘義務って言葉知らないの?バイトのあんたには教えられないことたくさんあるのよ」


 お母さんはじとっとした目で私を見てきた。

 正論だけど半分くらいは私のこと驚かすのが目的だったろ。


「かえで君はなんで言わなかったの」


「……聞かれなかったから?」


 こっちから聞くわけないだろ。あとなんで疑問形なんだよ。


「まあいいじゃない。とにかく先輩バイトであるめぐみはかえで君にちゃんと仕事教えるのよ。あと……」


 お母さんは私の首に腕をまわし、かえで君に背を向け耳打ちしてきた。


「絶対に逃がすんじゃないわよ」


 ……ああ、これはあわよくばかえで君にウチ継がせようとしているな。しかしこれに関しては利害が一致している。


「まかせて」


 私は小声で返した。

 

 話が終わり振り返ると首をかしげて不思議そうな目でこちらを見ているかえで君がいた。


「それじゃめぐみ、あとは任せたわよ」


 そう言ってお母さんは私の背中をドンと押し店の奥へと入っていった。

 背中を押された私はかえで君と目があう。そのままお互い動かずしばしの沈黙。


「……それで俺はなにをすればいいんですか先輩?」


 先に沈黙を破ったのはかえで君であった。

 先輩。先輩ねぇ……。


「…………」


「どうしたんですか先輩」


「名前……」


「え?」


「先輩じゃなくて名前で呼んでよ!昨日みたいに!!あと敬語もやめて!」


 あんなに頑張って関係を進めたのにこれじゃただの仕事仲間みたいになってしまうじゃないか。


「公私混同はよくないですよ先輩」


「ウチはゆるーくやってるからいいの!」


「いやでも…」


 その後もかえで君は私が何を言っても渋り続けた。一体何がそんなに不満なんだか。


「なんでそんなに嫌がるの?」


「嫌ってわけじゃないけど……」


 かえで君は恥ずかしそうに言葉を続けた。


「こうでもしないと仕事に集中できなくなりそうで……。あんなこと言われたの昨日の今日だし……」


 愛おしすぎる。正直今すぐ抱きしめたい。それを踏みとどまらせたのは厨房にいるお母さんとお父さんの存在だった。


「理由はわかったけど敬語は流石に他人行儀すぎるって。ウチは文字通りアットホームな職場だよ?」


「なんかアットホームな職場って聞くとブラックな感じするのなんでだろうね」


 言わないでよ。私も自分で言い終わったあとに思ったんだから。


「まぁ敬語のほうはわかったよ。でもせめて名前呼びじゃなくて『小山ちゃん』って呼ばせてください」


 かえで君が手を合わせて頼んできた。


「……いいでしょう!」


 よく考えたら私も仕事中にかえで君から名前呼びされたら集中できなくなりそうだしね。お母さんとお父さんも『小山』ではあるんだけど流石に自分が『ちゃん』づけで呼ばれるとは思わないだろうから支障はないだろうし。それにしても……


「ふふっ……!」


「どうしたの小山ちゃん」


「春、かえで君と久しぶりに話したことを思い出して。あの時も最初は敬語だったよね」


 あの日勇気を出さなければ今の状況はきっとない。


「いらんこと思い出さないでよ……」


 浮かない顔をしていた君はもういない。退屈だと感じていた私ももういない。あの日の再会が私たちを変えたんだ。


「あんたたちいつまで話してんのよ。そろそろ働きなさい」


 厨房からお母さんが顔を出してきた。


「「はーい」」


 私たちは仲良く返事をする。

 お母さんが再び厨房に戻るとかえで君は私を見た。


「とにかくこれは俺の社会復帰第一歩目ということで、よろしくね、小山ちゃん」



    第37話 再会、あるいは再開


もう少しだけ続きます

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