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36歩目 幾望

「…………え?」


「だから…聞こえてたって」


 かえで君は先ほどよりもやや大きな声で言った。

 別に聞き取れなかったわけではない。ちゃんと聞こえていた。だからこそ耳を疑っている。


「じゃあなんて言ったかあててよ…」


 私がぼーっと花火を眺めている間に花火の第一陣が終わったのか今は比較的静かにポツポツと花火があがっていて現在は会話をするのに支障はない。


「好きだって話だよね」


 驚くほどあっさりと答えた。


「……その『好き』は恋愛的な意味で好きってわかって言ってる?」


 私は恥ずかしさを堪え念を押した。ここまできて友達として好き、幼馴染として好き、なんて捉えられてたとしたらたまったものではない。

 この告白をするのにあたって私は何度も考えた。今の関係性を崩していいのか。この告白はかえで君にとって迷惑になってしまうのではないか。何度も何度も考えて最終的に私は自分の気持ちを優先することにしたんだ。


「わかってるって俺はそんなに鈍感じゃないよ」


 逆ナンに気づかなかった男がよく言う。しかし告白されたことがわかっているというのにやけに淡々と答えるな。

 ……これは意識されていないということなのだろうか……。


「それで返事は……いやごめんちょっと待って、やっぱりそのお面を先に指摘させて」


 私はかえで君が被っている狐のお面を指さした。


「これ?せっかく買ったんならつけないと損じゃん」


 言ってることはもっともだ。だけど…


「このタイミングでつけるのは絶対におかしいって!!」


 私はお面を剥がしにかかる。


「ちょっ…やめっ……」


 お面を剥がしたかえで君の顔は──


「──なんだよ。意識してるじゃん」


 真っ赤だった──


「はぁあ!?全然意識してないが?ていうか意識してるって言うほうが意識してるし!」


 なんか小学生みたいなこと言い出したな。今日はかえで君のいろんな顔が見れてなんかおもしろい。


「そうだよ。私はかえで君のことものすごーく意識してるよ。ずっと前から君に夢中」


 私は既に完全に開き直っている。あとは攻めあるのみだ。


「…………っ!?」


「それで改めて聞くけど返事は?」


 かえで君は落ち着かない様子で頭を上げたり下げたりしているが少しすると顔を下に向けている状態で動きが止まり、顔半分を左手で覆った。


 開き直ってるとは言ったが私も緊張していないわけではない。こんなに心臓の音が聞こえるのは初めてだ。なんて言葉が出てくるのか……


 観念したのだろうか、かえで君は私のことをやや上目で見て控えめに口を動かし始めた。


「……俺も好きだよ…めぐみちゃん…」


「~~~~~~~っ!!!!」


 気づけば私はかえで君に抱き着きにいっていた。


「ちょっ、ちょっと待って…!」


 しかし頭を手で抑えられ止められてしまう。


「なんで!?両想いなんだから抱き着くくらい別にいいじゃん!」


 私は強引に抱き着きにいくため頭に力を入れてぐぐっと押し込みにいった。


「いや…好きだとは言ったけどまだ付き合うとは言ってないから……!」


 直後、私の動きは止まった──


 はえ…?


 恋愛って両想いだということが判明したら自動的に付き合うシステムじゃないのか。義務教育でそんなことをならった気がしたけど気のせいだったか?

 ……なんかそれは気のせいな気がしてきたな……。

 しかし解せないのも事実だ。


 予想外の言葉を聞きしばらくフリーズしていると、私の疑問に答えるかのようにかえで君が話した。


「ほら、俺っていま言葉を選ばず言うとニートでしょ?そんな状態で付き合うのは流石に申し訳ないというか」


 なんだ。そんなことか。この言い分だと私と付き合いたくないというわけではなさそうだ。その理由で付き合えないというのであれば私に考えがある。

 私は抑えられていた頭を上げ、かえで君の手を払いのけた。


「働なくたっていいよ!私が一生養ってあげるから!」


「え?俺いまプロポーズされてるの?」


 かえで君が働けていない現状に負い目を感じていることはなんとなく気づいていた。だからこれは前から考えていたことだ。私にとってかえで君と一緒にいられることはそれだけの価値がある。


「そうだよ!今はジェンダーレスの時代だよ?かえで君が専業主夫になれば全て解決だよ!」


「それは嬉しい申し出だね」


「じゃあ…!」


「でも……」


 かえで君は私の目を真っ直ぐと見つめた。


「やっぱり付き合えないかな」


「……なんで?」


「過去の清算をしたいからかな。過去としっかり向き合って前を向いてからじゃないとめぐみちゃんの隣に立てない気がする」


「でもぉ……」


 なかなか引き下がらない私にかえで君は今度は優しく私の頭に手を乗せる。


「大丈夫、そう時間は掛けないつもりだから」


 そう言ってかえで君は私に笑いかけた。


「わかったよ……。でも無理しちゃダメだからね?やっぱ無理ってなったら素直に私に言うんだよ?」


「わかったってば」


「絶対だからね!」


「はいはい。……ところで話変わるんだけどさ、めぐみちゃん」


「なぁに?かえで君」


「あれ気づいてた?」


 そう言って後方の木に指をさす。

 そこには二つの人影が存在していた。


「びっっっっくりしたぁ……っ!!…でもあれって……」


「そうだよね。俺もさっき気づいたんだけど完全にあの二人だよね」


 二人して見つめているとバレたかと言わんばかりにその影は姿を現した。

 当然出てきたのはかほちゃんと大崎君で、私たちの前に現れてきて開口一番に聞いてきたことは……


「「それで付き合ったの?!」」


 本当に仲いいなコイツら……。


「いや付き合ってないけど」


 かえで君がはっきりと答えた。

 それを聞いた二人は絶句している。隠れて見ていたといってもどうやら会話の内容までは聞き取れていなかったようだ。


「は?え?おまっ…あの雰囲気で断ったのか?!」


 大崎君がかえで君に詰め寄っている。


「どんだけ酷い告白したらあそこから断られるのめぐめぐ……」


 こっちはこっちで随分な言いぐさだ。


 何故だ何故だと詰められていたかえで君はめんどくさそうに何があったのかを説明した。私もそれに合わせてここで何を話したのかを補足する。

 二人にはいろいろと相談に乗ってもらったり協力してもらったりしたからこのくらいは話しておこう。


◇ ◇ ◇ ◇


「なるほどな……なんというかその……」


「重いわね二人とも」


 大崎君が言葉を選ぼうとしていた矢先にかほちゃんがバッサリと切り捨ててきた。


「めぐめぐは付き合う前から一生養う覚悟があるなんて言うのはシンプルに重すぎるし、桐木君は桐木君で過去と向き合いたいっていうのはご立派だと思うし応援もするけど、それをしてからじゃないと付き合えないってのは重いよ」


「かほちゃん。オブラートに包むってことを知らないの?」


「あんな柔紙に包んでもすぐ破けるでしょ」


 言いたい放題だなコイツ。


「ちゅーしてるところ見たかったから今日は来たのに…」


 小声で言ったけど聞こえてたからな。

 なんだよ祭りに行くのに男女比2:1だとバランス悪いから私も参加して男女比2:2にしたほうがいいって言ってたのは建前だったのかよ。


「まぁまぁ、とにかく仲たがいしてるわけじゃないみたいでよかったよ。しみずん 俺たちはそろそろ移動しようぜ。まだ花火はあがるんだし」


 大崎君が仲裁と提案をしてくれた。この二人は似た者同士だと思ってたけどこういうところはどうやら大崎君のほうが気を遣えるらしい。


「別に移動しなくていいよ。折角だし4人で見よう」


 そんな大崎君の提案をかえで君は引き留めた。


「はぁ?お前バカか?折角って話ならそれこそ二人で見たほうが…」


「二人きりで見るのは来年以降でもできるから……」


 少し照れくさそうにかえで君は言った。

 その言葉を聞いて私は目を爛々と輝かせ抱き着きに行く構えをとる。当然かえで君は先ほどと同じように止めようとするが……


「させねぇぞ桐木」


 大崎君が右腕を抑え


「めぐめぐ今のうち!」


 かほちゃんが左腕を抑えた。


「おいっ!!3対1は卑怯だろ!」


 そんな言葉は無視して私はかえで君に思いっきり抱き着いた。


「大好きっ!!かえで君!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 そんなこんなで残りの時間は4人で花火を見て過ごした。そろそろ帰るかということになり私たちは公園をあとにしようとする。

 そこで私は立ち止まってふと空を眺めた。


「どうしたのめぐみちゃん」


「ああ…うん、ちょっとね」


 先ほどまでは花火に目がいってて注視していなかった月を見ていた。よく見たら満月かと思われた月は少しだけ欠けている。


「少しだけ早かったかな」


「どういうこと?」


「ふふ、なんでもない!」


 今日の月はまだ満月一歩手前だ。あの状態の月をなんて言ったっけ?


 確か──



    第36話 幾望(きぼう)


幾望とはあと1日や2日で満月となる月を指す言葉。「望」が満月を意味し、「幾」はほとんどを意味する。

「ほとんど」(幾)「満月」(望)で『幾望』

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