35歩目 響く音。消える声。
「かえで君あのね………」
「ちょっと待って」
かえで君が私の言葉を静止させた。
「なに話すかわからないけど一旦ちゃんと立ってもらってからでもいい?」
かえで君は転びそうになった私の正面に回り込んで受けとめてくれている状態だ。私は現在体重の大部分をかえで君に預けている。確かにこの状況で言うことではないかもしれない。少々気持ちが昂りすぎていたみたいだ。
「ご…ごめん……!」
「ふっ……」
かえで君から離れ自分の足で立つとかえで君は笑った。
「どうしたの?」
「なんか昔を思い出すなって」
何かを思い出すかのようにかえで君は少し上を向いた。
「昔はよく転んでたよね」
「そうだね。私は昔はよく転ぶ子ですぐ泣いてた。でもかえで君がいつも手を差し伸べてくれた」
「あれは俺じゃなくても助けるでしょ」
そうかもしれない。かえで君が手を差し伸べなくてもきっと誰かが代わりに助けてくれたかもしれない。でも──
「でも一番最初に気づいてくれるのは毎回かえで君だったんだよ。私はそれが嬉しかった」
思えば私の恋が始まったのはそこからだったのかもしれない。
「転んだら立ち上がらせてくれて、保健室に連れて行ってくれて、絆創膏を貼ってくれたこともあった」
「本当によく転ぶから小山ちゃん見てたら『あっ、転ぶな』ってタイミングわかるようになって転ぶ前に受け止められるようになったよ」
「そんなに私のこと見てたんだ」
私はからかうように言った。
「危なっかしい人はよく目につくんだよ。小山ちゃんに限らず」
かえで君は照れたのか私から視線を逸らす。
「でも中学になってからはあまり転ばなくなったよね」
「人は成長するんだよ」
本当は高学年になったあたりからあまり転ばなくなっていた。だけどかえで君にかまってほしくてわざと転ぶフリを続けていた。中学生になってからはそれも少し気恥ずかしくなりやめるようにした。もう少し素直になれていたら今の関係も変わっていたのだろうかと考えても仕方のないことを考えてしまう。
「今も結構危なっかしいとは思ってるけどね」
今度はかえで君がからかうように言った。でも私はそれが無性に嬉しかった。だってそれは今も私のことを見ていてくれているということだからだ。
「ふふっ、そうだね。久しぶりにあった『あの日』も飛び出してきた車から私を守ってくれた」
私は昔からかえで君が好きだった。だけど思えば今もその想いが変わっていないと気づいたのはその出来事があったからだ。
そのことを思い出した瞬間、私の想いは自然と言葉になっていた。
「私はね、その時思い出したんだよ。ああ、やっぱり私は君のことが──」
空なんか見なくてもわかってる。今日はきっと満月だ。今はただただこの想いを口にしたい。
「好きだって──」
私の想いと共に空には轟音が鳴り響いた。反射的に音の方向に目を向けると盛大に花火が打ち上っている。祝福の花火と思いたいところだが今回ばかりは違う。
無常にも私の声は花火にかき消されていた──
第35話 響く音。消える声。
◇ ◇ ◇ ◇
失敗した。失敗した。失敗した。素直に花火を見終わった後に告白すればよかった。そんなどうしようもないことを考えながら私はただ呆然と花火を眺めていた。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
ふと我に返り、かえで君はどうしているのだろうと振り向き話しかけた。
「かえで君…!さっきのは……!」
そこには狐のお面を被ったかえで君がいた。
何故かと問う前にかえで君の口が開き──
「……言い直さなくてもいいよ」
花火の音の隙間から少し顔を俯かせたかえで君は確かに言った。
「聞こえてたから…」
第35話 響く音。消える声。それでも届く。




