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34歩目 音も光も遅すぎる

「きりっ…かえで君は他にいきたい屋台ある?」


 私たちは大判焼きを食べたその後、いくつかの屋台を巡り現在はイチゴ飴を舐めながら歩行者天国となった商店街をぶらりと歩いている。ある意味これも散歩かもしれない。

 そしてかえで君の腕を掴んでいた私だがそれではかえで君が動きづらいということで今は手首を握っている。手はちゃんと付き合えたとき用に残しておいた。決してビビったからというわけではない。


「呼び慣れないならいつもの呼び方にすればいいのに…」


「そのうち呼び慣れるからいいの!」


「はいはい…いきたい屋台ね。正直もう焼きそばにたこ焼き、かき氷も食べたからお腹いっぱいなんだよね。他にもいろいろ屋台あるけど食べ物系ばっかだし、もしかして夏祭りって割高の食べ物食べるだけのイベント?」


 言い方……。割高なのは雰囲気代込みでしょ。


「食べ物系以外にもいろいろあるよ。クジに射的、金魚すくいとか」


「ああいうのって大人になるとあんまりそそられないよね。クジはどうせろくなもの当たらないと認識しちゃってるから楽しめないし、金魚すくいは飼えもしない金魚すくってどうするのって感じだし」


「射的は?」


「射的ね……。俺はもう射的は二度とやらないって決めたんだ。そう…あの日から……」


 神妙な面持ちだ。またしてもかえで君に重たい過去があるのかと思い私は身構えた。


「い…一体何があったの……?」


 私がそう尋ねるとかえで君は語った。


「あれは小学校1年か2年のときだったかな。その日も俺はこうして夏祭りに参加していた。そして射的もやったんだ。弾は見事に景品に命中して景品は倒れた。それで喜んだのもつかの間、射的のおじさんが言ったんだ。『前に倒れた景品は無効だから』ってね。俺はもう二度と射的はやらないと決めた……」


「…………思ってたよりしょうもない理由だった…」


 マジで身構えて損した。


「しょうもなくないって!だって後出しで前に落ちたやつは無効って言われたんだよ!こんなにも大人って汚いんだって子どもながらに思ったよ。そのとき俺は初めて世界を呪った」


「そんなことで呪われる世界の身にもなったほうがいいよ」


 しかしかえで君は小学生のときから周りの子と比べ大人びて見えてたけど、こんな子どもっぽいエピソードもあったとは。しかもそれを未だに根に持ってるとかかわいいところあるね。


「昔のリベンジはしたくないの?」


「説得されてもやらないからね。俺は嫌なものはちゃんとNOと言える日本人なので」


「そうかな?私の知ってるかえで君は面倒なこともしっかりやって、なんなら他人のも手伝っちゃう人間だけどね」


 まあ、それがかえで君にとって良いことかは置いといて。


「そんなことないよ。買い被りだね」


 そう言ってかえで君は頭をポロポリとかく。


「でも小山ちゃんがやるところを横で見る分には別にいいよ」


「めぐみちゃんね」


「…………」


 かえで君は何か言いたげな目でこちらを見てきた。


「まぁ私も射的には興味ないんだけどね」


「今のやり取り全部無駄だった…」


 引き続き歩いていると一つの屋台が目に入ってくる。


「かえで君!お面売ってる!一緒に買おうよ!」


「いいよ。小山ちゃんはどれにするの?」


 私から誘っといてなんだが意外な返事が返ってきた。てっきりこういうのは嫌がるかと思ってたけど。


「めぐみちゃんね。私はそうだなぁ…、あっニャオハのお面ある!私これにする!」


 ニャオハは御三家で草タイプのスーパーベリーベリーキュートキャットだ。


「きりっ…かえで君は?」


 やはりまだ完全には言い慣れないなと思いつつかえで君に尋ねた。


「俺はこれにする」


 かえで君が手に取ったのは至って普通の狐のお面だった。確かにお面の中で一番ポピュラーとも言えるものだがわざわざ選んだのには理由があるのだろうか。


「なんでそれにしたの?」


 かえで君はこちらを向くと言い放った。


「だって狐面が一番かっけーから」


「……フッ…」


「…なんか変なこと言った?」


「大丈夫言ってないよ。そうだねかっこいいよ」


 なんだよ私が知らなかっただけで子どもっぽいとこいっぱいあるじゃん。


◇ ◇ ◇ ◇


 そんなこんなで私たちはお面を頭に斜めにかけた状態で歩いている。すると会場からあるアナウンスが流れてきた。それは花火に関するもので30分後に花火が上がり始める予定とのことだった。近くの河川から花火があがるらしく祭りの参加者はより見やすい場所を求め移動する人が増えてきている。


 私は今日、この花火をかえで君と一緒に見た後、告白する──


「へえ、花火あがるんだ」


「…えっ?知らなかったの?」


「……そういえばこの時期になると花火の音鳴ってた気がするな」


 早速私の計画が破綻しようとしている。二人きりで祭りを回ることができた時点で花火を見る流れになるのは確定事項だと思っていた。しかしかえで君は今この瞬間まで花火があがることを知らなかった。もしかしたらこれは……


「かえで君…花火興味ない……?」


「うーん、どうだろ。少なくとも今日誘われなかったら見ることはなかったからそういう意味では興味ないことになるかも」


 かえで君は私の顔を見て言葉を続けた。


「──でも今は見たいと思ってるからやっぱり興味ある、かな?」


「よ…よかったぁ……」


 私は安堵の息を漏らした。これで興味がなく見たくもないと言われたら心が折れていたかもしれない。しかしこれなら心置きなく告白できる。


「小山ちゃんも見たいんでしょ?だったらあっち行こう。あっちに人流れてるってことはあっちに見やすい場所があると思うから」


「いや…もっといい場所知ってるよ。だから私についてきて!」


 私はかえで君の腕を掴み人混みとは逆の方向に引っ張った。


「あと──めぐみちゃんね!」


◇ ◇ ◇ ◇


 人混みを抜け小道に入り緩やかな坂をのぼった所に小さな公園がある。私たちはそこに来ていた。ここは地元でも知ってる人が少ない花火が見やすいスポットだと大崎君が教えてくれた。実際周りに私たち以外の人は見当たらない。この町を一望、とまではいかないが確かに見やすそうな場所だ。


「こんなところに公園があったとは」


「かえで君も知らない場所あるんだ」


 この町のほとんどを歩きつくしていたと思っていたからもしかしたらこの場所も知ってるかもと考えたがどうやら違うらしい。


「流石に全ての道歩いてるわけじゃないからね」


 かえで君は私の心を見透かしたかのような返事をしたあとスマホを確認した。


「花火は…もう少しであがるみたいだね」


 どうやらスマホで時間を確認していたらしい。しかしもうすぐあがるとなればこうしてはいられない。


「じゃああっち行こう!あっちの方が見やすそうだよ!」


 私は指で差し示し駆け出す。


「うわっ……!」


 1歩、2歩、3歩進んだところで足がよろめいた。私は失念していたのだ。いま履いているのは履き慣れたスニーカーではなく下駄だということに。これはもう地面との衝突は避けられないと覚悟をし、目を瞑った。


 しかしいつまで経っても衝突の衝撃は感じなく、代わりに感じたものは──


「あーあー、やると思ったよ。大丈夫?足捻ってない?」


 かえで君の腕だった──


「…………」


「本当に大丈夫?どこか痛いとこでも…」


「だ、大丈夫……。痛いところは…ない……」


 いつにもなく距離が近い。胸の高鳴りが止まらない。呼吸が浅くなってきたことを自分でも感じる。


 本当は一緒に花火を見てから告白しようと思っていた。だけど既に私の気持ちはあふれ出ようとしている。もうこの想いは止められない──


「かえで君あのね………」


 まだ空に花は咲いていない──



    第34話 音も光も遅すぎる


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