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33歩目 呼び方論争

「俺 屋台見ると祭りよりあっち思い出すんだよね」


 私たちは現在二人で屋台を見て回っている。


「あっちって?」


「運動会」


「あ~確かに」


「でも運動会で屋台出してる地域ってかなり限られてるらしいよ」


「えっ!?ほんとに!?あれ全国共通じゃないの!?」


 私たちの通っていた小中学校では運動会のときには毎回出店が出店されていた。昼休憩になると小銭を握りしめた生徒たちが出店に並ぶのはもはや見慣れた光景となっていた。

 私も毎年昼ごはん食べたあとはかき氷食べて頭痛くしてたな。懐かしいぜ。


「そう。だから都会の人にうっかり『運動会のときにあった出店が~』なんて話をしたら田舎者扱いされてボコボコにされるから気を付けた方がいいよ」


「都会ってそんなに田舎者に風当たり強いんだ……」


 今の桐木君の話が本当ならかほちゃんは運動会の出店の存在知らないかもな。今度聞いてみよっと。


「地域で差があるものと言えばあれもあるよね」


 そう言って桐木君はとある屋台を指さした。


「ああ、大判焼きね」


 出た。小麦粉で作った生地にあんこ入れて円型に焼き上げた和菓子をなんて言うか問題。この地域では基本的に大判焼きで通っている。今川焼きなんて呼んだ者はきっとその場で処されるだろう。


「買ってく?」


「うん」


 私たちは大判焼きの屋台の列に並び話を続けた。


「桐木君も大判焼き派だよね」


「まぁね。でもそんな呼び方にこだわりはないかな。正直今川焼きって書いてあったら今川焼きって呼ぶし、ベイクドモチョチョって書いてあったらベイクドモチョチョって呼ぶ」


 おい、いまこの場にいる祭りの参加者全員敵に回したぞ。


「節操ないね…」


「博愛主義と言ってくれ」


 そんなこんなで列は進み無事大判焼きを買えた。ちなみに私が選んだのはカスタードで桐木君がチョコだった。


「まさか二人ともあんこを選ばないとはね」


 桐木君が大判焼きを見て呟いた。

 私たちは路肩に寄って大判焼きを食べている。もう空は完全に暗くなった。


「和菓子屋の娘だからってあんこ選ぶと思った?残念!カスタードでした!」


「なにが残念なのかは1ミリもわからないけど意外ではあったね」


「別にあんこを食べ飽きたってわけじゃないけどたまには違う甘味も食べたいからね。そういう桐木君はなんでチョコにしたの?」


「単純に今日はチョコの気分だったってだけだよ」


 そう言って桐木君は大判焼きを食べ進めた。


「でも俺は和菓子も洋菓子もどっちも好きだよ。甘いものなら何でもござれ」


 出た。桐木君の甘党発言。しかしチョコか。チョコといえば避けては通れない話題があるな。


「チョコといえばさ。桐木君はバレンタインでチョコ貰ったことある…?」


「あるよ」


 驚くほどあっさりと桐木君は答えた。それを聞いた狼狽えた私は大判焼きを食べる手が止まった。


「なに驚いてるの。小山ちゃんも知ってるでしょ 中学で女子たちが先生に隠れてこそこそチョコ配ってたの。ていうか俺、小山ちゃんからも貰った記憶あるんですけど。もしかして忘れてた?」


「あ…あー!そうだったね!もちろん覚えてるよ!」


 まあ完全に忘れていたわけだが。

いやでもそれも仕方のないことなんだって。だって本当は手作りチョコ渡そうと思ったけど最終的にチキって市販のチョコを渡したという苦い思い出なのだから。今の今まで完全に記憶の彼方に置き去っていたよ。

 そんな苦い思い出は置いといて聞きたいことが他にある。私は大判焼きの最後の一口を食べてから聞いた。


「それよりも高校…!高校ではどうだったの…!!」


「高校の話はいいでしょ。そんなことより食べ終わったなら次はどの屋台行く?」


 完全に話逸らそうとしているな。逃がさないからな。

 私は移動しようとしている桐木君の腕を両手で掴み引き留めた。


「ね~!貰ったの?貰ったんでしょ?いっぱい貰ったの?」


「『いっぱい』の定義にもよるね。『いっぱい』には具体的な数が示されてないし人によって感覚も違ってくるからその質問には俺は答えられません」


 桐木君は答えづらいことがあるとそれっぽいことをごちゃごちゃと言って誤魔化そうとする。でも今回ばかりは逃がさないからな。


「その言い方だと少なからず貰ったってことになるけどね!」


 私の言葉を聞いた桐木君は観念したのか嫌そうな顔をしつつも答えた。


「はぁ…まぁ確かに貰ったけど全部義理だったよ…多分…」


「義理ですって言って渡されたの?」


「そういうわけでもないけど俺は惚れられるようなことしてないからね」


 本気で言ってるのか?だとしたら大崎君が言ってた人の好意に鈍感という話は本当だったっぽいな。

 これは私もはっきりと好意を伝えないと伝わらない可能性がある。気を引き締めなければ。


「じゃあ…もし本当はその中に本命があったらどうしてた?付き合ってた…?」


「…ありもしない仮定言われてもね……。でもまぁ…付き合わなかったかな」


「なんで?」


「そのときは誰かと付き合うとかいう余裕なかったしあと単純に好きな人いなかったから。好きでもないのに付き合うのは違うからね」


「なるほど。それは同感」


 やっぱり付き合ってから好きかどうか確かめればいいって言ってたかほちゃんと大崎君の方がおかしいよね。


「納得したならこの話はもう終わりでいいよね。そろそろ腕離してくれるかな」


「……やだ」


「…なんで?」


「だってこの人混みだとはぐれるかもしれないでしょ?」


 桐木君に意識してもらうにははっきりと行動する必要がある。


 だから私は──


「確かに…じゃあまぁいいか……」


「ありがとっ!かえで君!」


 攻めを緩めない──


「……!?なんでいきなり名前で?!」


「呼び方にこだわりはないんじゃなかった?」


「それ大判焼きの話だから!それにこれは呼び方じゃなくて呼ばれ方でしょ!?」


 桐木君は突然の私の猛攻に狼狽えてる様子だ。


「じゃあ私のことめぐみちゃんって呼んでもいいよ?あ、呼び捨てでも可です」


「なんのじゃあかわからないし呼ばないからね!?」


「え~、前は呼んでくれたのに~?」


「……覚えてないね」


「絶対覚えてるよね かえで君」


「だから覚えてないって……!」



    第33話 呼び方論争



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