32歩目 視線独占大一番
「はい!着付け終了!うん、似合ってるわよ」
「ありがとお母さん。それじゃあいってくるね」
「気を付けるのよ」
夏祭り当日。一世一代の大一番が始まる。
「お、小山さん出てきた」
「あ~!!めぐめぐ浴衣かわいい!!」
既に大崎君は私の家の敷地内に車を止めて待っていてくれた。そしてそこにはかほちゃんと……
桐木君もいる──
「おい桐木。お前もなんか言うことあるだろ」
そう言って大崎君は桐木君を肘で小突いた。
「え?俺も?大丈夫?セクハラで訴えたりしない?時代に合わせた繊細なコメントが求められるんじゃないの?」
「大丈夫だって。ね?めぐめぐ」
「う…うん……」
正直心の準備はできていない。流石にけなされるなんてことは思ってないが一体なんて言われるのか…
「それ朝顔?」
「うん…」
今日私が着てる浴衣はベースの生地が白でそこに赤と青の朝顔が描かれている。
「似合ってる」
そう言って桐木君は微笑んだ。
拍子抜けするほど普通の感想。それでも私は──
「ふへへ!ありがとっ!!」
たまらなく嬉しい。
「今のは逃げのコメントじゃないすかね清水さん」
「そうね。でも不思議と様になってた」
「やっぱり顔かぁ」
「顔だね」
なんか二人がごちゃごちゃと言い出した。
「なんでこの二人はこんな仲いいの…?」
「さぁ…?私もわかんない…」
ほんとなんでだろうね……
「まぁいいか。大崎そろそろ移動したほうがいいじゃないの?渋滞するだろ」
「そうだな。そろそろ行くか」
そう言って大崎君は運転席へと向かう。そして続くように桐木君は助手席側に向かって歩いた。
「ちょいちょいちょい桐木君」
「え?なんすか清水さん」
歩き出した桐木君をかほちゃんが肩を掴んで止めた。
「助手席は私が座る!だから後ろでめぐめぐと座って!」
「え?いやまあいいけど」
ありがたいけど露骨すぎるって!!あとその下手くそなウインクやめて!!
「全員シートベルトしたな?それじゃ出発といきますか」
大崎君はシフトレバーをパーキングからドライブに変更し車を発進させた。
「事故るなよ」
「舐めてもらっちゃ困るな。俺は教習所をストレートで卒業した男だぞ」
「威張るほどのことじゃないだろ」
「だね」
その後私たちは会場近くまで走らせている車の中で教習所の話をして盛り上がった。ただ一人を除いて。
「縦列駐車って結局教習所内でしかやったことないよね」
「「わかる」」
桐木君と大崎君の賛同の声が重なった。そして次の瞬間……
「私その話混ざれないんですけど!!」
かほちゃんが私たちの方を向き、叫んだ──
「ああ、そっかかほちゃん免許持ってないんだもんね」
「そうだよ!だからついてけないって」
「縦列駐車の練習で何本目のポールが見えたらハンドル切ってって教わったけどそれ実践でどう活用するの?って話もわかんない?」
「わからんわからんわからん」
おお、大崎君いい教習所あるある言うね。
「じゃあ清水さんあれは?たまに助手席で居眠りする教官いるけどこのまま事故ったら俺のせいになるんですかって思うことは?」
「わからんわからんわからん」
ついで桐木君もあるあるを言ってきた。いたなー助手席で寝る教官。まだ免許取り終わってない人の隣で寝るんだから神経ずぶとすぎるよね。
「ね~めぐめぐ助けて~。この人たち知らないあるあるで攻めてくるんですけど~」
たまらずかほちゃんは私に助けを求めてきた。
「かほちゃん初めて講習で高速乗るときめっちゃ怖いってことは?」
「わからんけどめっちゃ浅いあるあるっぽそう」
コイツ…ふざけるなよ……
◇ ◇ ◇ ◇
そんなこんなで大崎君の家についた。祭り会場へは恐らくここから歩いて5分もかからないだろう。既に祭囃子が聴こえている。私たちは会場へ向かって歩き出した。
「小山ちゃん。下駄、大丈夫?」
「ちょっと歩きづらいけどそこまで歩くわけじゃないしよゆーよゆー!」
「そういえばしみずんは浴衣じゃないんだな」
かほちゃんをしみずんと呼ぶのは大崎君だ。
「私は途中まで電車で来たからね。一人電車で浴衣で過ごすってのは流石にきついと判断した」
かほちゃんは電車で最寄りの駅まで来てそこから大崎君の車で私の家まで来たとのことだった。
「なるほどねぇ。お、歩いてる人増えてきたな」
「普段は散歩してても誰ともすれ違わないこともあるんだけどな」
やっぱり桐木君人混み苦手そうだな。それにしても確かに人が多い。この町にはこんなに人がいたのかと思うほどだ。
そうこうしてる間に歩行者天国となってる地点まで到着した。ここからが夏祭り本番だ。
「さて着いたわけだけど夏祭りってなにするのが正解なの。俺、夏祭り久しぶりだからよくわかってないんだけど」
そう言って桐木君は辺りをきょろきょろと見渡した。
「って既に二人いないんですけど…」
確かに頃合いを見て二人きりにさせてもらえるって話だったけど早すぎるって。あの二人頃合いの意味知らないだろ。
「めんどくさいけどニャインするか……」
「い、いいんじゃない…?二人も子どもじゃないんだし無理に合流しなくても…」
私はスマホを取り出した桐木君の手を掴んで連絡を入れさせるのを止めた。
「そうは言ってもねぇ…」
納得のいかなそうな桐木君は再び辺りを見渡す。
「あっ」
桐木君はなにか見つけたようで声を出した。
「えっ、もう見つけたの?」
「そういうわけではないけど…少し待ってて」
そう言うと桐木君は小走りで私から離れて地面に落ちていた何かを拾った。そして近くにいた若い女性二人組に近寄り……
「すいません。財布落としてましたよ」
落とし物を渡した。
「わっ…!ほんとだ。ありがとうございます!」
二人組の一人はバッグをあさりそれが自分のものであると確認すると桐木君に感謝を伝える。
ふふん。どうだ。桐木君は昔から落とし物によく気づくんだ。すごいだろう、もっと感謝するといい。
私が勝手に桐木君の代わりにドヤっていると落とし物を渡された女性はもじもじとしだした。
「あ、あの今日は一人で来てるんですか…?だったらもし良かったら私たちと…」
完全に逆ナンされてる……。
大崎君が桐木君はモテると言っていたが実際にその現場を目の当たりとし、私は動揺した。
「えっ…あの今日は……俺、その……」
ついでに桐木君も動揺していた。
困り果てたのか桐木君は私の方を向き助けを欲しそうにしている。
フッ…まったく仕方ないね──
「ごめんなさい!私の連れなので!!」
私は桐木君に駆け寄って腕を組みにいき半ば強引に引っ張って二人組の女性から離れた。
「いやぁ助かったよ小山ちゃん」
「まったくちょっと私から離れたら逆ナンされるとはね」
「え?あれナンパだったの?」
嘘だろ気づいてなかったのか……
「俺はあれから怪しい壺か何か買わされるのかと思ったよ」
「そんなわけないでしょ……」
照れ隠しで言ってるのか本当にそう思ってたのかわからないな。
「ところで小山ちゃん」
「なぁに?桐木君」
「いつまで腕組んでるの」
桐木君は私の顔を見た。
「え…あっごめん…!」
無意識に腕組みを続けていた私は桐木君に指摘されたことで動揺し、とっさに腕を離した。そして直後後悔することとなる。
なんで離しちゃうかな~私。無視して腕組み続けてればよかったのに。こんな調子で本当に今日告白できるのか?
そんなことを思いながら桐木君の顔を見ると再びきょろきょろと周りを見ている様子だ。
「まだかほちゃんたち探してるの?」
「それもあるけどこう人が多いと気が散ってね。昔からのクセなんだよ。他の人の様子気にしちゃうの」
知ってる。桐木君が周りをよく見ていて困っている人がいたら助けることは。私もそれで助けられたうちの一人だ。
でも…
「疲れない?」
「多少はね。でもこれくらい…」
「だったら……」
せめて今日くらいは──
「今日だけは他の人なんて気にしないで私だけ見てればいいよ!」
第32話 視線独占大一番
◇ ◇ ◇ ◇
暮れゆく喧騒の中佇む男女が一組。
「なんでザキっちはめぐめぐに協力してくれたの?」
「俺は小山さんもだけどどちらかと言えば桐木のためにやってんだ。友達の幸せを願うのは普通だろ?」
「…そうだね。野暮なこと聞いた」




