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3歩目 恋をしている

「なんだったら今日の散歩付き合ってあげようか!!」


 そう啖呵を切り、私は桐木君の顔にグイっと近づいた。


「そんな無理しなくてもいいのに…今日の予定とか他にあるんじゃないの?というか顔近いです…」


 そう言いながら桐木君は1歩後ろに下がる。


「今日のバイトは終わったから特に予定はないよ。なに?私がついてったら何か不都合なことでもあるわけ!?」


 彼が下がったぶんだけ私はさらに近づく。強引に迫っている自覚はある。彼は押したら引いてくるタイプだ。だがこちらが引いたからといって近寄ってくるタイプでもない。だから押して押して押しまくって壁際まで追い込むくらいがちょうどいい彼との付き合い方だ。私は昔そう結論づけたのを覚えている。


「わかった。わかったから落ち着いてって」


 フッ、これで言質はとった。男に二言はないだろ桐木君!


「ついてくるのはいいけどさ。せめて靴は履き替えた方がいいんじゃない?小山ちゃん」


 そう言うと桐木君は私の足元を指さした。


「わかってるって。これからスニーカーに履き替えてくるから。すぐ戻るから。逃げるなよ。絶対に逃げるなよぉ~!!!」


 私の家は和菓子屋のすぐ隣にある。急いで玄関まで駆け込み靴箱の中を覗き込む。


「えぇ~とっ、確か高校のとき使ってたスニーカーがあるはず…あった!!」


 今履いているローファーを脱ぎさりスニーカーへと履き替える。

うん、サイズも問題なさそうだ。靴紐が途中でほどけないようにちゃんと結んでっと。これで完璧。

 私は小走りで桐木君のもとへ戻っていった。


「ハァ…逃げずに待っていたことは…褒めてあげるよっ」


「誰目線の言葉それ。ていうかすでに息上がってますけど」


「息上がってないし。ただため息ついただけだし」


「はいはい」


 私は大きく深呼吸をし、息を整えた。


「それじゃ、いこっか!」


「はーい。車には注意して歩くんだよ小山ちゃん。あと足元も気を付けてね」


「こども扱いすんなし」


 かくして私たちの散歩はスタートした。空は快晴。気温もちょうどよく、やわらかな春風が頬を撫でる。

 最高の散歩日和じゃないですか。これには小山ちゃんもにっこり。はなまるあげちゃいます。


◇ ◇ ◇ ◇


「いやー、この道さ、車とか自転車では何千回も通ってるけどさ、歩きでってなるとまた新鮮に感じるね」


「あー、その感覚少しわかるかも。俺はここらへんの道は大体歩き慣れたけど散歩はじめたてのころはこの道ってこんなんだったけってよくなってた」


 桐木君もおんなじこと思ってたんだ。同じ感覚を共有できるってのはなんだか嬉しい。


「ところでさ、小山ちゃん」


「なぁに?桐木君」


「ここの信号、そこの押ボタン押さないと青にならないのって気づいてる?」


「…!!気づいてるが!!」


 そう言うと私は急いでボタンを押した。

 いや、知ってたし、桐木君疲れてるじゃないかな~って休ませる時間与えてただけだし。というか気づいてるなら自分でボタン押せばよかっただろ。


「フッ…」


「鼻で笑うな!!」


 完全にからかわれてる。そうこうしているうちに信号が青に変わる。


「大丈夫?小山ちゃん。手上げて渡ったほうがいいんじゃない?」


「だからこども扱いすんなし!」


 こうして軽口を言い合いながら再び歩を進める。足取りは良好。なんだよ私もまだまだ体力あるじゃん。そう思っていると彼の視線が私の足元をチラッと覗いていることに気が付いた。


「桐木君、もしかして私の歩くペースに合わせてくれてる?」


「なんのことやら」


「そうじゃなかったらただ定期的に私の足元を見る変態ということになるんだけど」


「変態言うな。そうだよ。小山ちゃんのペースに合わせてたんだよ。そうじゃなかったらあっという間に置いてって、小山ちゃん迷子にさせちゃうからね」


「流石に地元で迷子になることはないが」


 まったく。素直に礼くらい言わせてくれればいいのに。他人に興味ありませんみたいな空気は出してるけど人一倍周りのことをよく見ている。そういうところは本当昔から変わらないよね。


「あれ、この道真っ直ぐじゃないの?」


「あー、確かに真っ直ぐ行ったほうが若干近いけどその道これから歩道狭くなるんだよね。車通りも多いし、少し遠回りになるけどこの道曲がって歩こうか」


「ふーん。そうなんだ。まあそこらへんは散歩博士に任せるよ」


「散歩博士言うな」


 桐木君の言うことに従って道を曲がって歩く。確かにここは歩道が広くて歩きやすい。街路樹がいくつもそびえたっており、若葉が生い茂っている。まさに春といった感じだ。足取りも弾む。

 弾んでたはずなんだけさぁ…やっぱり歩いて行くには遠くない?恐竜公園。少し疲れてきたんだけど。いや、まだまだ歩けるけどね。でも疲れているのが気取られたら煽られそうだ。決してバレないようにしなくては。

 そう思っていると桐木君はこちらをちらりと見て口を開く。


「小山ちゃん疲れてきてるでしょ」


 速攻でバレたが。だがここで素直に はい という私ではない。


「え、全然余裕だけど。なんなら走っていけるけど」


「まあまあ、強がらなくていいから。そこにベンチあるからちょっと座っといて」


 そう言うと桐木君は小走りで私から離れていった。流石に私を置いて逃げたわけじゃないのはわかる。まあここは素直にベンチに座って待っているかと思っていたら彼はすぐに戻ってきた。彼の右手には一つのペットボトルが持たれている。


「はいこれ、飲むでしょ?」


そうして彼が渡してきたのはピーチティーだ。


「…私がこれ好きなのよく覚えてたね」


「そうだっけ?まあたまたまだよ」


 フフッ、桐木君も嘘が下手だなぁ


「ありがとね、そうだお金。現金、は今持ってないからネコpayの送金でいい?」


「いいよ別に。俺ネコpay、というか電子マネー全般つかってないし」


 マジか。今どき完全現金派とかいたのか。


「じゃあせめて私もなにか飲み物おごるよ」


「いや、今のど乾いてないから大丈夫」


 本当に強情だな。昔から君は当たり前のように人に優しくするくせに人の優しさは素直に受け取ろうとしない。だけど私はそんな君が気になって、つい目で追ってしまって、そして私は君に──


「小山ちゃん。そろそろ歩ける?」


「余裕余裕。というか休まなくても全然歩けたし」


「そっか。ならいいんだけどさ」


 この想いは伏せなけばいけない。桐木君は誰に対しても一定の距離をとっていて、自分の内面を見せてこようとしない。あのときもそうだった。私は君を困らせたいわけじゃない。4年ぶりに再会してつい高ぶってしまっているけど、ただまた友達として付き合えたらそれだけで──


「危ないっ──」


 桐木君の声と共に車のブレーキ音が鳴り響く。私は桐木君に手を掴まれ引き寄せられていた。車はそのまま立ち去った。


「ここ見通し悪くて危ないんだよね。ごめんね、先に言っておけばよかった」


 桐木君は慌てて私の手を放す。


「あ、怪我とかしてない?急に引っ張ってごめんね」


「──大丈夫…怪我はしてない…」


 ダメだ。彼の顔を見れない。この気持ちは隠さなければいけないのに…友達としていられるだけで、ただそれだけでいいのに…でも気づいてしまった。4年たってもまだこの想いは変わっていなかった。

 そうだ。私はずっと前から君に──



    第3話 恋をしている



小山ちゃんの身長は153cm。桐木君169cmのイメージです。

桐木君は身長を訊かれたら見得張って170cmと答えたいと思っているけど歯を食いしばりながら素直に169cmと答える。そんな男です。

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