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22歩目 「昔から変わらないね」

「小山ちゃん麦茶飲む?」


「うん ありがと。そこ置いといて」


 誕生日会を経て私は、

 桐木君ちに入り浸っていた。


「それにしてもほんと最近俺んちよく来るよね」


「課題する場所としてちょうどいいんだよ。家だとベッドの誘惑とかあるし」


 私は持ち込んだノートPCをカタカタと叩きながら返事をした。


「大学の図書室とかはどうなの?」


「あそこねー。いい場所ではあるんだけどこの時期になると利用する人多くなって気が散るんだよねぇ」


 夏休みが近づき教授たちから出される課題も多くなってきた。当然の流れとして学生たちは勉強場所を求め図書室へと吸い込まれていく。それはもう夏の夜に光に吸い寄せられる虫が如く。私はその因果から一抜けしたというわけさ!


「そうなんだ。まあ俺んち来るなとは思ってないし課題頑張ってて偉いねとも思ってるんですけども…」


 桐木君はソファから立ち上がり私に近づいてきた。


「小山ちゃんがいるあいだ散歩にいけないのだけは困ってるんですよ」


 圧だ。圧をかけてきた。

 しかし私は顔を近づけて圧をかけてきた桐木君を押しのけて指を向けて言い放つ。


「それに関しては前から言いたかったことがあるんだよ。桐木君、歩きすぎ」


「小山ちゃん。散歩ってね、体にいいんだよ。歩きすぎとかないから」


「あるよ!桐木君、私が大学でいないときもがっつり歩いてるんでしょ!?週に何回散歩してるの!?」


「6…7…8?」


 8はおかしいだろ。いや6でも7でも歩きすぎだとは思うけど。


「それで一日何時間歩いてるの?」


「ご、5時間くらい…?」


 目を逸らして控えめな声で言ってるけどやっぱり自分でも歩きすぎの自覚あるだろ。その分だとそれも過少申告の可能性もあるな。


「歩きすぎです。よくそれで足ぶっ壊れないね」


「たまにぶっ壊れてるよ。ただぶっ壊れた足を引きずりながら歩いてるだけで」


 …流石の私もドン引きです。


「ストーーーップッ!!!小山ちゃんからのドクターストップ入ります!!!」


 私は頭上に両腕で大きくバツを描いた。


「いつ医師免許取ったの?」


「いま!!」


「でもドクター。俺気づいたら外出てるんすよ」


 随分健康的な中毒者だな。だけど薬も過ぎれば毒となるだよ。


「はぁ…家にいて暇なら私が話し相手になってあげるからさ」


「それはありがたいけど課題は大丈夫なの?さっきから手が止まってるようだけど」


「ふっ、それならおかげさまであらかた終わったよ」


 私は渾身のドヤ顔で桐木君にノートPCの画面を見せた。


「いや見せられてもわかんないけど捗ったなら良かったよ」


 そうかわからないか。私のこの努力の結晶が。


「それで話し相手になってくれるってことだけど一体どんなおもしろい話をしてくれるのかな?」


 おいおい、随分と無茶な振りをしてきたな。


「おもしろい話がしたいなら桐木君もなにか考えてよ。こういうのってチームプレイじゃん!」


「俺チームスポーツやったことないからわかりませんなぁ」


 私もだが。うーん…なにか話題話題……

 私はなにかいい話題はないかとあたりをきょろきょろと見渡した。


「そうだっ!この家いつ来てもきれいだけど桐木君掃除好きなの?」


「好きってわけではないかな。ただ一度掃除しようって決めたらとことんやらないと気が済まないというか」


 そういえば桐木君は小学のころも中学のころも掃除の時間は淡々と掃除してた覚えがある。そういうところは昔から変わってないようだ。


「へえ。私は自分の部屋掃除するだけでも億劫だよ」


「だろうね」


 だろうねってなんだよ。私から言い出したことだけどそんなにズボラに見えるか。


「掃除のコツとかってあるの?桐木君」


「コツかぁ。あんまり考えたことないけどしいて言うなら心を無にすることかな」


「無に?どういうこと?」


「掃除しようって思ったあと心を無にするでしょ?そしたらあとは勝手に体が動いてオートモードで掃除するから気づいたらきれいになってる」


「オートモードで掃除ってそれもうほとんどルンバじゃん」


「どうも超高性能型ルンバです」


 話聞いといてなんだけど参考にならなかったな。私が心を無にしたら布団に吸い込まれるのがオチに決まっている。


「掃除の話で思い出したんだけどさぁ」


 今度は桐木君から話題を提供してくるようだ。私の話が呼び水になったようで良かった。


「中学のころ小山ちゃんと掃除の班一緒になって廊下二人で掃除してた時期あったじゃん?」


「あったあった」


 懐かしい。なんか学生のときくらいにしか使わないT字型の謎ぼうきの存在思い出したな。


「あのときほうきで集めたゴミ入れるのにどっちかがちりとり抑える必要あるからどっちが抑える係やるか毎日じゃんけんで決めてたよね?」


「そ…そうだっけ……?」


 いや本当は覚えている。確かにじゃんけんで負けたほうがちりとりを抑えていたということを。そしてじゃんけんで決めようと言い出したのは私だということも。なんなら次に桐木君が言うこともわかってる。


「あのじゃんけん小山ちゃんクソザコだったよね。マジで1回も負けた記憶ないんだけど」


「いっ、1回くらいはあった気がするけどね!!!」


 そう、私は桐木君にじゃんけんでまともに勝てたためしがない。

 でもそれおかしいんだよ!毎回ちゃんと出す手は変えてたはずだしそもそも他の子とのじゃんけんはそんなに負けることもなかった!!


「正直いまやっても負ける気がしないね」


「おいおい流石に舐めすぎだよ桐木君。あれはたまたま偶然奇跡的なことが重なった結果であって私の実力はあんなものじゃないからね」


「へえ。じゃあ久しぶりにやりますか」


「やってやんよ!!」


 ここで引き下がる私ではない。


「最初はグーからね」


 桐木君が確認してきた。


「わかったよ。じゃあいくよ!」


 私たちは腕を大きく振りかぶった。


「「最初はグー!!」」


「「じゃんけん…!」」


「「ぽん!!!」」


 く、くそぅ……

 桐木君は私の顔を見て勝ち誇ったような顔して言ってきた。


「ほんと小山ちゃん…」



    第22話 「昔から変わらないね」



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