20歩目 酒はぬるく
「「いただきます」」
私たちは手を合わせてピザを食べ始めた。
うん。やっぱりマルゲリータは間違いないね。王道が王道たる所以だよ。プルコギのほうは初めて食べたけどこっちもなかなかいけるね。甘辛い味付けで玉ねぎの触感のアクセントも悪くない。
私たちはしばしのあいだ談笑をしながら食事を続けた。
少し喉が渇いたなと思いコップに手をかける。しかしとっくにコップの中の麦茶はカラになっていて無常にも氷のカランとした音だけが鳴り響いた。私はここでふと思いつく。
「そうだ桐木君!せっかくだしお酒呑まない?ていうか桐木君お酒呑んだことある?」
「ないよ。前も言ったけど気づいたら誕生日過ぎてたし完全に呑むタイミング見失ってたというか」
「じゃあちょうどいいじゃん!呑もうよ」
「ん~、まあ少しだけだよ?」
そう言って桐木君は冷蔵庫からお酒を2本持ってきた。一つは私が持ってきたシャンパンでもう一つは桐木君が用意したであろう赤ワインだ。
「どっち呑む?小山ちゃん」
「私ワイン!!それ桐木君からのプレゼントでしょ?」
「そうだよ。じゃあ俺はシャンパン呑むか。ちゃんとしたグラスないから適当なグラスに入れるけどいいよね?」
「うん!」
初めてのお酒、楽しみだ。そう思いながら私はグラスにとくとくと注がれるお酒を眺めていた。
「はいどうぞ」
「ありがと!」
私は桐木君から渡されたワインをじろじろと観察する。
ふーん、特に色は普通のぶどうジュースと変わりないね。まあ問題は味か。
そう思い私は恐る恐るそれを口につけた。
あ、これは思いのほか吞みやすい…!ぶどうジュースと違って甘さは控えめだけどその代わりコクというか良い意味でえぐみがあるというか。これはピザに合いそうな味だ!
「これ美味しいよ!!桐木君!!そっちはどう?」
「なんか…しゅわしゅわする……」
語彙力どうした!?いつもはもっとキレのある言葉選びするじゃん!?
私はまさかと思い桐木君の顔を覗く。なんかさっきより頬赤い気がするし目元もとろんとしている気がする。これはまさか、いやまさかしなくても……
「桐木君…酔ってる?」
「よってないよ…」
そう言って桐木君はシャンパンを呷る。
「いやいやいや、絶対酔ってるからもう呑むのやめなって!」
「なんで?おいしいのに?そんなひと口ふた口でよう人いないからだいじょぶだって…」
それが目の前にいるんだって!!大丈夫な要素ないから!!
「はい終わり!強制終了です」
「え~、けち。それおれのだよ…」
桐木君は名残惜しそうにグラスに残ったシャンパンを見つめている。
それにしても桐木君がここまでアルコールに弱かったとはね。プレゼントにお酒を選んだのは失敗だったか…
「まぁ小山ちゃんの言うことならきくよ…」
意外と物分かりいいな。
「ちょっと水のんでくる」
そう言って桐木君は立ち上がった。しかし彼の足元は明らかにふらついている。
「ちょっ…いま歩くのは…」
私は桐木君を追いかけるように立ち上がった。すると私の声に反応したのだろうか。桐木君はこちらに振り向くと、それと同時に体勢を崩していた。
「あうっ…桐木君…!大丈夫?」
桐木君と私は正面衝突し後ろに倒れていた。幸いにも私たちの後ろにはソファがあり大きな衝撃は感じなかった。しかし問題は現在桐木君が私にもたれかかっているような状況にあることだ。
やばいやばいやばい顔近い…!!心臓の音やばい!!早くどいてもらわないと…!
「あの…桐木君?動けるならどいてもらえると……」
「あのね小山ちゃん…」
桐木君は私の耳元で囁く。
「きょうは楽しかったよ…だれかといっしょにごはん食べるのひさしぶりだった…から……」
桐木君の体重が私にのしかかる。
え…あ…これ寝た!?桐木君この状況で寝たな!!?おいおいこれどうすればいいんだよ誰か助けてぇ~!!
一体どうしたものかとあたふたしていると桐木君からスゥースゥーと寝息が聞こえてきた。
…まあでもそうだよね。桐木君も寂しいって思ってたってことだよね。仕方ないから今日はもう少し一緒にいてあげるよ。
私は桐木君の頭を私の膝に移動させて頭を撫でた。
ふふっ。いつもは私のほうが子ども扱いされてたけど今は桐木君のほうが子ども見たいだ。…でも…なんか桐木君の寝顔見てたら私も眠くなってきた…かも……
夜は更ける。ふたりの寝息と共に。酒はとっくにぬるくなっていた──
第20話 酒はぬるく




