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2歩目 余裕なんだが!?

「よっ、元気してた桐木(きりき)君。今なにしてるの?」


 桐木君は少し驚いたような戸惑っているような様子だ。私がかけた言葉に対する返答はまだない。しかしなんらかの言葉を紡ごうとしているのは彼の表情から伺えられる。しばしの沈黙。私もそろそろ気まずくなってきたぞといったところでようやく彼の口は開いた。


「・・・散歩ですけど…」


 彼の返答は驚くほどシンプルであった。しかし疑問はいくつも浮かび上がる。なぜそんなシンプルな返答に時間がかかったのかと、なぜこんな何もない場所で散歩をしているのかと。そして何よりも気になったことはなぜ敬語なのだということだ。

 もしかして私のことに気づいてないのか。確かに4年以上顔を合わせてはいなかったけれども仮にも小学校中学校合わせて9年間共にした幼馴染だろ。まあ私も君が桐木君だと確信するまで一週間はかかったけどさ、でも私の場合は君が店の前を通りかかったところを見かけただけだからであって、今回は目の前で君の名前を呼んで話しかけているのだから話は別だろ。

 本当に気づいてないのなら流石にムカつくがと思い、試すように言葉を続けた。


「桐木君、私のこと覚えてる?」


「覚えてるよ…」


 敬語ではなくなった。本当に覚えているのか、いや思い出したのかと思い質問を重ねた。


「じゃあ名前も覚えてる?」


 我ながらめんどくさい質問をしたと思っている。しかし私が君の名前を覚えているなら君も私の名前を覚えていないと不公平じゃないか。


「・・・・・・」


 沈黙。マジか。マジで私の名前覚えてないのか。文句の一つでも言おうかと思った矢先、彼の口は開いた。


小山(おやま)…さん、だよね?」


 正解だ。そう私の名前は小山めぐみだ。しかし…


「なんで“さん”づけなんだよ!!」


 昔は小山ちゃんと呼んでたじゃないか。今更“さん”づけされるのはむずがゆくて仕方がない。


「いや、久しぶりだからさ、どのくらいの距離感で話すのが正解かわからなくて」


「それにしたって他人行儀すぎるんじゃない?」


「ほら、俺あれだから。年度が変わったら人との関係値リセットさせるタイプだから」


 知らんがなそんなタイプ。しかしいつの間にか他人行儀な話し方も変わっている。どうやら私との関係のセーブデータが残っていて無事ロードが終わったようだ。


「それで君はなんで平日の昼間っから散歩しているのかね」


「なんでって、散歩してるのってそんなにおかしいこと?」


「おかしくはないけどここらで散歩している人は珍しいね」


「そんなことないよ。犬を散歩させている人はちょくちょく見かけるし」


 そう犬の散歩ならおかしなことではない。しかし…


「桐木君は犬の散歩じゃないようだけどね」


 彼のそばに犬なんていない。


「そりゃ犬飼ってないからね。でもあれだな。そんなに犬なしでの散歩が不自然なら今度からリードだけでも引きずって歩こうかな」


「完全に不審者だけどそれ。通報されても文句言えないよ。というか私が通報する」


「冗談だから通報はやめてください」


 こうして話していると懐かしさを感じる。そうだ。そういえばこういう男だった。よくわからない冗談をさも当たり前のことを言ってますけど何か?みたいに言う奴だった。


「それで散歩ってどこ歩くつもりなの?」


「うーん。特に考えてなかったけど今日は恐竜公園でも行こうかな」


 恐竜公園。これまた懐かしい名前が出た。恐竜公園はその名の通り恐竜の形のしたでかい遊具のある公園だ。陸上で使われるグラウンドも併設させており、ここらで一番広い公園となっている。


「あそこ歩きで行くにはちょっと遠くない?私も自転車でなら行ったことあるけどさ」


「そう?1時間ちょい歩けば着くけど」


「1時間ちょいって、それって往復で2~3時間かかるってことじゃん」


「そうだよ。近いじゃん」


 え、これ私の感覚がずれてるのか?確かに散歩時間の相場は知らないけどさ。でも少なくとも私の知っている君は超インドア派だったはずだけど。部活にも入らず万年帰宅部だったじゃないか。そうか、人は変わらないところもあれば変わるところもあるということか。


「ちなみに普段もそのくらい歩いてるの?」


「いや、もっと歩いてるよ。一時期ほぼ毎日6~7時間くらい歩いてるときもあったなぁ」


「いやいや流石に盛ってるでしょ。人の身体ってね、そんなに丈夫にできてないんだよ」


 私は諭すようにそう言った。それにしても桐木君も男の子だねぇ。見栄を張りたいからってそんなわかりやすい嘘を言うなんて。


「本当だって、ほら」


 桐木君は不服そうな様子でスマホを取り出し、私に画面を見せてきた。それは歩数計のアプリのようで、確かにそこには…


「7時間…30km…4万歩…」


 私が言葉を失っていると桐木君はしたり顔でこう言った。


「だからさ、片道1時間なんて余裕なんだって。小山ちゃんの体力じゃきついだろうけどね」


 こいつ…完全に煽ってやがる…ここで引き下がったら女が廃るってもんだ。


「はぁあ?私だって余裕なんだが!?というか私だったら24時間歩き倒せるだろうけどね!なんだったら今日の散歩付き合ってあげようか!!」


 こうして彼と私の散歩は始まったのだった──



    第2話 余裕なんだが!?


安い挑発にのる女。それが小山ちゃん。

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