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18歩目 「あっ…おめでとうございます…」

  ほんの少し前──


「いやー、今日も猫めっちゃ見つけられたね!最高だったよ!」


「それは良かった。それよりもさ…気づいてる…?」


 急に桐木君が私の耳元に近づいて小声で話してきた。なんかくすぐったくて恥ずかしい…


「ど、どうしたの急に?なにかあった…?」


「いや、ずっと前から気になってたんだけどさ…あの人誰かな…?」


 そう言うと桐木君は30mくらい後方にある電柱に視線を向けた。そこには帽子とサングラス、マスクをつけた見るからに怪しい不審者の女性がいて……

 いやでもすっごい見覚えある…あれ完全に…


「…多分私の友達です……」


「まぁなんとなくそんな気がしてたよ。良かった不審者じゃなくて」


 不審者ではあると思うよ桐木君。


「ごめん…ちょっと問いただしてくる…」


「うん、いってらっしゃい」


 そんなこんなで現在──


「ちょっとかほちゃん!!?こんなところでなにやってるの!!?」


「ひ、ひとちがいですよ……」


 流石にここから誤魔化すのは無理あるって。


「はぁ…そういうのいいから」


 私は彼女の変装道具と思われる帽子やサングラスを引っぺがした。


「ごきげんよう。かほちゃん」


「ご、ごきげんよう…めぐめぐ…」


 彼女は観念したのか控えめに返事をした。


「それで今日はなんの御用で…」


 いや、聞かなくてもてもわかってる。どうせ私たちの散歩を野次馬しにきてたんだ。


「探偵調査だよ!!でも仕方ないでしょ!めぐめぐ全然あのときのこと話してくれないんだから!!」


 逆ギレだ…まあ確かにそれは悪いとは思ってるよ。電話を手伝ってもらったのは間違いないし、それがきっかけで桐木君の過去を話してもらうことができた。でも私が勝手に話せるわけないから誤魔化すことしかできないんだよ。


「それにしても小山ちゃん全然気づいてなかったね」


「うわっ…!」


 桐木君がぬるっと私の後ろから話しかけてきた。

 びっくりするからやめてくれるかな。


「あ、直接会うのははじめましてですね。清水かほです」


「どうも…この前の電話ぶりですね。桐木かえでです」


 二人は礼儀正しく礼をした。

 あ、そこの挨拶は丁寧にやるのね。


「それで桐木君はいつからかほちゃんがいたことに気づいてたの?」


「小山ちゃんの家ついたときから変な人いるなとは思ってたけど」


「「え!!?」」


 そんな前から気づいてたのか。ていうかそんな前からいたのか。


「気づいてたなら早く言ってよ桐木君!?」


「いや歩いてたらそのうち撒けるかなって思ったんだけど、思いのほか…ね」


 素直にしつこいって言っていいんだよ桐木君。


「粘り強いのが取り柄ですから!」


 かほちゃんは得意げな様子で言葉を返した。

 ほんと物は言いようだね。


「いくら私たちのことが気になったからってストーキングするのはどうかと思うけどな」


「ごめんなさーい……」


 申し訳なさそうな顔はしてるけどどこまで本気で悪いと思ってるんだか。


「……………」


 私がかほちゃんを注意している傍らで桐木君はなにやら思案顔をしている。

 やっぱりもっとバチボコに文句言ったほうが良かったかな?友達の友達っていう絶妙な間柄の桐木君だと文句言いづらいだろうし。


「…清水さん。わざわざ来てもらって悪いんだけど少しだけ小山ちゃんと話したいことあるから借りていいかな」


「あ、どうぞ。私のことはお構いなく」


 お構いなくって思うんだったら最初から来ないでほしかったな。それにしても桐木君このタイミングで話したいことってなんだろう。

 私は桐木君に誘導されてかほちゃんには声が届かない位置まで移動していた。


「どうしたの桐木君?」


「小山ちゃん。清水さんには俺がこの前話したこと伝えてないって認識であってる?」


 この前話したことというのは神社で話してもらった桐木君の過去と現在のことだろう。そうであるなら…


「あってる。誰にも話してないよ」


 私は桐木君に信頼してもらったんだ。その信頼を裏切ることはできない。


「そっか。ありがとね。でも…」


 桐木君は一呼吸おいて言葉を続けた。


「話していいよ──」


「え…なんで…桐木君無理してない…?別に今日は適当にあしらって帰ってもらえばいいだけの話だしさ。そんな無理に伝える必要なんて…」


「うん。でもさ、それを続けてると小山ちゃんの友達関係が悪くなっちゃうじゃないかと思って」


 この期に及んで自分より他人を優先するのか…


「この程度じゃかほちゃんとの関係は悪くならないよ。だから…」


「それは良かった。でも他にも話してもらっていいって思った理由があってね」


 桐木君は遠くにいるかほちゃんをちらりと覗いた。


「わざわざこんなところまでついてきたんだよ。いい友達じゃん。小山ちゃんを心配してのことだと思うよ」


「心配?ただ野次馬できただけだと思うけど…」


「そうかな?俺は査定でもされてる気分だったよ」


 査定?いったいどういう意味だ…?


「とにかく、小山ちゃんと小山ちゃんの友達だから信頼できるってことだよ。それに俺は感謝してるんだよ。小山ちゃんに俺のこと話すきっかけがもらえて。でも俺自身で話すのはハードル高いから任せられるかな?」


 信頼…か…。そこまで言われたらこう言うしかないじゃないか。


「わかったよ!全部小山ちゃんに任せなさい!!」


 私は胸を張って声高らかに言った。


「桐木君は先帰ってていいよ。その場にいても気まずいだろうし」


「ありがと。そうさせてもらうよ。それじゃまた明日」


「うん、また明日ね」


 そう。私たちは明日も会う用事があるのだ。


◇ ◇ ◇ ◇


「あれ?桐木君帰っちゃったの?」


「うん。急用ができたみたいでね」


 嘘だがこういったほうが都合がいいだろう。


「それでかほちゃんは私たちの関係が気になってここまできたんだよね?わかったよ話すよ、あの日なにがあったかを」


 私はあの日神社で桐木君が話してくれたことを淡々と話した。かほちゃんはただ黙って真剣に聞いていた。


「──ってことがあの日あったことだよ。これでわかった?私がなかなか話さなかった理由が」


「なるほどねぇ…あー、桐木君には悪いことしちゃったなー…。無理に話させるようなことしちゃって」


 かほちゃんは申し訳なさそうな顔をしている。わかるよ。私も最初桐木君から聞いたとき同じようなことを思ったから。でも…


「いや、桐木君は感謝してたよ。話すきっかけがもらえたって。私も今は聞けてよかったって思ってる」


 本当だ。かほちゃんがいなかったら私はまだ桐木君の過去を知ることもなくのうのうとこの生活を送ってただろう。


「そう思ってもらえるなら良かったよ…。でもだからって私はめぐめぐの好きだという気持ちを隠す必要はないと思うけどな」


 うぇっ…!?またすぐそういう話にしたがるな。この恋愛ジャンキーは。


「だから桐木君はそういうの考えてる余裕ないんだって…!」


「そうかもしれないけど誰かに支えてもらいたいとも思ってるかもしれないよ。それこそ恋人という立場でしか支えられないものもあると思うし」


 まぁ一理あるかもしれない…。でもそれは桐木君が私を好きだということが前提の話だろ。


「ていうか明日めぐめぐの誕生日でしょ!?せっかくなら桐木君とどこか遊びにでも…!」


 かほちゃんは目を輝かせながら提案をしてきた。そういえばまだこのこと言ってなかったな…


「あぁ…明日なんだけどね。桐木君の家で誕生日会することになった……」



 第18話 「あっ…おめでとうございます…」


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