15歩目 あふれ出す
「急にごめんね桐木君。わざわざ手伝いに来てくれて」
桐木君は今日、小山家に来ていた。
「いつも暇してるから気にしなくていいよ。それより大変だね。小山ちゃんのお父さんぎっくり腰になるなんて」
「あれくらいでぎゃーぎゃー騒いで情けないのよ。かえで君はああはなっちゃ駄目よ」
我が母ながら随分と辛辣なことを言う。私はなったことないからわかんないけどぎっくり腰って結構キツイって聞いたけど。ほら桐木君も苦笑しちゃってるじゃん。
「それで桐木君、このお米運べそう?30kgあるけど」
そう、今日桐木君に来てもらった理由はお米を無人コイン精米所まで運ぶのを手伝ってもらうためだ。普段は父がやっていたがぎっくり腰でできなくなったので急遽桐木君にヘルプを送ったというわけだ。
「余裕だね。なんだったら300まではいける」
それは流石に嘘だろ。
「無理はしなくていいのよ。もしあれだったらバカ旦那に無理矢理運ばせるだけだし」
「大丈夫ですよ。最近こそ運んでないですけど昔は俺も30kgの米、精米所まで持ってくの手伝ってましたんで」
そう言うと桐木君は腕まくりをして30kgの米袋を持ち上げた。
「いよっ…と…」
「おぉ、見事なもんだね」
私は桐木君の腕を見ていた。
いやー、いいね!腕!重いものを持って少し強張った腕っていうのも趣があって。
「あのー、小山ちゃん?見てないでどこに運べばいいか案内してもらえると助かるんだけど…」
「ああ…!ごめんごめん!私の車のトランクに乗せるからこっちきて」
「了解」
無事米袋をトランクまで運んでもらうことができた。
途中桐木君の腕がぷるぷると少し震えていたが、それには触れないでおいてあげた。
「ふぅ…それで小山ちゃんが運転してくの?」
桐木君がなにか言いたげな目でこっちを見てきた。
なんだぁ…?そんなに運転が下手そうに見えるか。
「そうだよ。なにか文句はありますか」
「いえ ないです。安全運転でよろしくお願いします」
わかればよろしい。
「二人とも~!気を付けていくのよ~!」
私たちは母の言葉に返事をして車に乗り込んだ。私は桐木君がシートベルトをつけたのを確認してからエンジンをかける。
「俺も一応免許証持ってきたからいつでも交代できるよ」
「大丈夫大丈夫。片道5分くらいだし。それじゃ、出発しんこ~!」
「おー」
桐木君は気だるげに掛け声をあげた。
◇ ◇ ◇ ◇
「小山ちゃん意外と運転上手いね」
「でしょ?てか本当に下手だと思ってたか」
「ごめんって。でも正直助かるよ。俺、運転するの苦手だからさ」
「へ~、意外。桐木君って普段運転するの?」
「買い出しにいくときか病院にいくときくらいかな。運転できないってわけじゃないんだけど集中力もってかれる感じが嫌でね」
私は少し前、桐木君と橋の近くを歩いていたときに考えることが少なくて楽だと桐木君が言っていたことを思い出した。周りがよく見える彼だからこそ周りをよく見ざるを得ない運転という行為にストレスを感じるのかもしれない。
「言ってくれればいつでも代わりに運転してあげるよ~」
「流石に悪いって。それに車は田舎の生命線だからね、ある程度運転して慣れとかないといざというとき困る」
「それもそうか。おっ、そろそろつくよ」
私はウインカーを出し車をコイン精米所の近くに寄せた。
「んじゃ降りますか」
「はいよ。ここからはまた俺の出番だね」
桐木君がトランクから米袋を出して運ぶのを私は精米所の扉を開けて待った。
「よし。小山ちゃんもうお金入れていいよ」
「コイン精米所あるある言いま~す!」
「突然だね!?」
そりゃ突然言いたくなったからね。
「夏場はサウナみたいになっててクソ暑い」
「おお、浅あるあるだ…」
「なんだと!?じゃあ桐木君は深あるある言えるのか」
「えぇ…じゃあ、精米中クソうるさすぎて周りの声聞こえない」
「うーん。浅あるあるかな」
私の判定は甘くない。
「そんなこといいからそろそろ始めよう。他に人来ちゃうかもしれないし」
「わかったよ」
私がお金を入れると精米機の投入口が開いた。そこに桐木君が玄米を入れると精米機はガタガタと大きな音を立てる。
うーん、いつ来てもクソうるさい。これってやっぱり今しゃべっても桐木君には聞こえないのかな?
ふと私は思い立ち桐木君に話しかけることにした。
「な ん か た の し い ね」
桐木君は聴こえないといった表情で首を傾げた。
へへっ。やっぱり聴こえないか。それじゃあ──
「す き だ よ」
念のため小声で言ったこの言葉。情緒もへったくれもないこの状況。私の気持ちはあふれ出ていた。
第15話 あふれ出す




