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14歩目 雨のち曇天のち未定

 雨の日を楽しむというのはいつぶりだろうか。最近ではバスの遅延や電車の遅延、荷物や服が濡れないかどうかといったことばかり考えてしまう。今日はそんなしがらみから解き放たれてただただ歩く。


「桐木君は雨の日もよく歩いてるの?」


「そうだよ。雨の日も風の日も関係なく歩いてた。気づいたら散歩に出かけてる、そんな生活だったからね」


 私はあの日、神社で桐木君が散歩は好きでも嫌いでもなかったと言っていたことを思い出した。桐木君にとって散歩はある種の現実逃避的な行動なのだろう。でも今はそれでいいと思う。いつか前を向けたらそれで。


「そっか。でもこれからは雨とか関係なく私を誘ってよ。水臭いじゃん!雨だけに!」


 本日二度目の雨ジョークだ。今日は冴えわたってるな私。


「でも小山ちゃん。大学とかバイトとかで忙しいでしょ?」


「それでもできるだけ一緒に散歩したいから。それに私、文系だからそこまで忙しくないよ」


「そうなんだ。でも俺、毎日歩いてるからな~」


「うっ…流石に毎日は無理だ…体力的にも…」


 桐木君はこちらを見て笑った。


「フッ。冗談だよ。たまにでも散歩についてくれたら嬉しいよ」


 今のは作り笑いじゃない。なんとなくそう思った。


◇ ◇ ◇ ◇


「おっと、小山ちゃんストップ」


 桐木君は右腕を私の前に出し静止させた。


「どうしたの?」


「ちょっとそのまま待ってて」


 そう言うと桐木君は私の半歩先に出て傘をやや傾けて前に突き出した。

 次の瞬間──


 バシャン!!


 トラックが通った勢いで水溜まりから水しぶきがあがり、それが歩道まで跳ねてきていた。


「危なかったね小山ちゃん」


「おお…ありがとね桐木君。それにしてもよく水が来るってわかったね」


「そりゃあ水溜まりとトラックが見えたら警戒くらいするよ」


 そっか。そういうもんか。ちなみに私は雨の日はよく水しぶきに襲われてびしょ濡れになっている。


「でも今ので傘少し汚れちゃったかも。洗って返すよ」


「それ体育でジャージとかタオル借りたときくらいにしか言わないやつだから」


「へへっ」


 私のツッコミがお気に召したようだ。


 私たちは変わらず他愛のない会話をしながら歩いた。道中紫陽花を見つけ花言葉を勘で予想したり、中学の頃の話をしたり、コンビニに寄って肉まんを食べたりした。


「そーいえば桐木君。あんまんの中身ってマグマくらい熱いって知ってた?」


 私は肉まんを頬張りながらしゃべる。


「肉まんじゃなくてあんまんの話するんだ。俺あんまん食べたことないから知らなかったよ」


「え~!食べたことないの?熱いけど美味しいよ!めっちゃ熱いけど!」


「そんな熱いんだ…今度食べるときは気をつけ…おっと、雨止んだかな?」


「そうみたいだね」


 私たちは傘を閉じて確認した。

 雨は止んだけど相変わらずの曇天だ。漫画や小説みたいに都合よく晴れて虹が出るなんてことはないようだ。


「どうする?もう少し歩く?桐木君」


「そうだなぁ。もう家に近いし傘も荷物になるし今日はこのへんで終わりにしようか」


「わかった。でもそんなこと言ってまた私が帰ったあとも一人で散歩するんじゃないよね」


「今日は本当に真っ直ぐ家に帰るって…」


 まったく、前科何犯だと思ってんだか。

 そんなこんなで私の家まで辿り着いた。


「傘ありがとね。それじゃあまたね小山ちゃん」


「うん。またね桐木君」


 そして桐木君は自宅方向へと歩いて行った。

 私は桐木君の家に入ったことはない。でも場所は知っているし外観もわかる。田舎では珍しくない庭付き二階建ての一軒家だ。今でも桐木君はそこで一人で暮らしている。寂しくない?って訊くのはきっと無粋なんだろう。でも私が君の立場だったら寂しいって思うよ。本当のところ君がどう感じてるかなんてわからないけどさ、私になら話してもいいって思ってくれるまで私は待つよ。


「それでお母さ~ん!?なんで桐木君と知り合いだって黙ってたんだよ!?」


 帰宅した私は早速お母さんを問いただしていた。


「訊かれなかったからよ」


 お母さんは私の問いをバッサリと切り伏せた。


「訊かなくても言ってよ!ていうかなんで知り合いなの!?」


「そりゃあ、あんたの同級生でご近所さんなんだからいくらでも知り合う機会なんてあるでしょうよ。まぁそれはそれとして普通にかえで君の母親と友達だったからなんだけど」


 衝撃の事実である。家族ぐるみの付き合いはないと思ってたけど母親同士の付き合いはあったのかよ…


「かえで君のご家庭の事情も大体把握してるわよ。本当に残念だったわね…私もあの子のことは気にしてるんだけどどうしても壁を作られちゃってね…」


 そう言うと母はお茶を啜った。


「でもあんたは違った。それはあんたが同情でかえで君と関わろうとしたからではなく、単純に好きだから関わろうとしたからじゃないかしらね」


「どぅえぇ!!?なんでいきなり好きとかそんな話に!!?」


「誤魔化さなくってもいいわよ」


 母は再度お茶を啜りにやりと笑った。


「母はなんでも知っている」



    第14話 雨のち曇天のち未定



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