13歩目 傘は二つ。
今日はあいにくの雨模様だ。本来なら桐木君と散歩をする予定だったがニャインにて今日はやめておこうという話になった。
私は「桐木君との散歩を邪魔しやがって雨め」といった具合に窓から外を眺め、雨を睨めつけていた。すると見慣れた姿の男性が外を歩いているのが見える。
いや、見慣れたっていうかあれ完全に…
私は急いで階段を降り、傘を持って外に出ていた。
「ちょ…待っ…桐木君……!」
「あれ?小山ちゃん。なにやってるの?」
「完っ全に、こっちのセリフですけど!?こんなところでなにやってるの!?」
「なにって、俺はただ散歩をしているだけだが」
なに異世界転生者みたいなこと言ってんだよ。
「いや、今日は散歩やめとこうって話に…」
「そうだね。でも雨に俺の散歩は止めることはできなかったようだ。ざまぁないね」
なんでこの子は天に喧嘩売ってるんだ…
「あとなんで傘差してないの…」
彼の両の手は空いている。そしてずぶ濡れ上等とばかりに突っ立っている。
この今私だけが傘差してる構図すごい気まずいんだけど…
「俺傘差さない派なんだよね」
そんな派はない。
「マスタング大佐気分味わえるからさ」
「それ桐木君が言うと絶妙に笑えないんだけど」
「笑っていいよ。あと真面目に言うと小雨だから傘いらないかなって」
「今は小雨でもこれから本降りになってくるよ。それにすでに髪は結構濡れてるよ桐木君」
桐木君の前髪が雨で濡れて目にかかっている。
ふーん。ちょっといい感じじゃん。水も滴るいい男ってか。
「今日は水も滴るいい男でやってくから」
自分で言うのは違くないか。
「そんなもんやらなくていいからわたしんち来て。拭いてあげるから」
「え~。悪いからいいって」
「強制連行です。私との約束無視して勝手に散歩した罪で」
桐木君を無理矢理私の差してる傘に入れて誘導した。桐木君はしぶしぶといった様子でついてきた。
私の中のかほちゃんが「いま相合傘になってますよ!!気づいて!!」って叫んでるけどそれは一旦無視しておこう。
「はい。今タオル持ってくるから桐木君は玄関で待ってて」
「はーい」
私は脱衣所からタオルを持ってくるため廊下を歩いた。道中リビングでお母さんがニヤニヤしながらこっちを見ていた気がするけどそれも一旦無視することにした。
「はい拭いてあげるからちょっと屈んで」
「いや流石に自分で拭けるって」
「いいからいいから」
私はタオル越しに桐木君の頭を押さえて半ば強引に頭を拭く。
……なんか冷静に考えるとこの状況結構恥ずかしいかも!?ああ、また私の中のかほちゃんが「いま完全に頭撫でてますよ!!気づいて!!」って言ってきた。気づいちゃったじゃん。でも仕方ないじゃん!あのまま放っておいたら桐木君風邪引いちゃうかもしれないし。これは救命作業っていうか…
「小山ちゃん?小山ちゃーん?流石にもういいんじゃない?」
桐木君が上目遣いで訴えかけてきた。
屈んでるから仕方ないとはいえそういうのずるいと思うんですよ。
「えっ…!ああ!うん…そうだね!でも一応上着も拭いとこっか!」
私は照れを隠すように桐木君の上着を拭いた。
「ありがとね小山ちゃん。じゃあそろそろ俺散歩いってくるから」
そう言って彼は玄関を出ようとする。
「いやいやいや、ちょっと待って。また濡れにいく気!?」
「だって俺いま傘持ってないし…」
「傘くらい貸すから!ていうか私も散歩ついていくから!」
「雨の日に散歩って、小山ちゃん変わってるねぇ」
「どの口が言ってんだか」
私はそうツッコミながら靴を履いた。
まったく、私を置いて散歩に行こうだなんてつれないんだから。
「散歩するのはいいけど気をつけるのよ~!」
リビングから母親の声が聞こえた。
「わかってるって~!」
お母さんも散歩くらいで心配性だな。
「かえで君も気を付けるのよ~!」
「あ、はい。わかりました。ちさとさん」
そうして私たちは外へ出て傘を差した。雨は先ほどよりやや強くなっただろうか。だが傘を差していれば支障のない範囲だ。
「……て、あれ!?桐木君、私のお母さんと知り合いだったの!?」
うっかり流しそうになってしまった。雨だけに。
「まあ、少しね。ていうかやっぱり小山ちゃん聞いてなかったんだね」
「完全に初耳だよ!」
お母さんめ。なぜこんな重要なことを黙ってたんだ。
「そっか。まあ詳しいことはちさとさんに訊いてよ。俺が話すの面倒だから」
「わかった…そうするよ…」
釈然としないが今は散歩が目的だ。あまり深く考えないようにしよう。
雨音が傘に響き心地よい音色を奏でている。雨の日の散歩というのもこれまた乙だ。
傘は二つ。心も二つ。雨の中彷徨う。
第13話 傘は二つ。




