12歩目 観測するまでわからない
「シュレディンガーの猫って知ってる!?桐木君!!」
「いきなりなに!?小山ちゃん!?」
私たちは今日もいつもどおり散歩をしている。
「シュレディンガーの猫ってあれだよね。箱の中身を観測するまで中身の状態はわからない的な思考実験だよね」
桐木君は空に四角い箱を描くように指を動かした。
「まぁそこらへんの詳しい話云々はどうでもいいんだけどさぁ」
「どうでもいい話を振らないでよ…」
桐木君は呆れた目で私を見る。
「大事なのは箱の中身が猫ということだよ!あれ猫である必要性皆無だよね!?かわいそうじゃん!?」
「いや、あくまで思考実験だから」
「だからこそだよ!だからこそ他の生物でも成り立つでしょ!それこそ人間が箱の中にいたっていいわけだし!」
私は熱弁した。この話は人間の傲慢さが詰まっているのだから。
猫じゃなくっていいじゃん!そこらへんのミジンコとかでも成り立つ話だろ!あれ?命に優劣つけてる時点で私も傲慢側の人間か。ははっ、同じ穴の狢というわけだね。なんかこのタイミングで別の動物の名前出すとややこしいか。
なんてどうでもいい話を私は一人で頭の中で展開させていった。
「前から思ってたんだけどさぁ。小山ちゃん」
「なぁに?桐木君」
「小山ちゃんって猫好きだよね」
「当たり前じゃん!むしろ猫嫌いな人って存在するの!?」
私は心外とばかりに声を出した。
「いるとは思うけど…」
「え!?ほんとに!?桐木君は猫嫌いなの?」
「いや俺は好きだけど」
「好きってどれくらい?」
はたして講義と講義の空き時間や電車での移動時間を基本猫のショート動画を観ることで潰してる私の猫愛に勝てるかな!?
「ここら一帯の野良猫生息地を脳内マッピングしてるくらい」
負けた…画面の奥の猫よりリアルの猫…!
「ず、ずるい……」
「え?」
「ずるいよ!!私もリアルにゃんこと仲良くしたいよ!!肉球も触りたいし匂いも嗅ぎたい!!」
私の魂からの叫びに桐木君も面を食らった様子だ。
「別に仲良くしてるわけではないんだけどな…」
「そんなこと言って私に隠れて仲良くやってるんでしょ!?」
「えぇ…じゃあこれから猫いる場所案内しようか?」
「お願いしまーーーす!!!!」
私は今日一でかい声を出した。
◇ ◇ ◇ ◇
そんなこんなで私たちは公園に来た。ちなみに恐竜公園ではなく近所にある小さな公園だ。
「この時間帯なら多分…あっ、いたよ」
そう言って桐木君が指をさした先には…
「ね、猫の集会だ……」
ミケにクロにブチがいる。その光景を見て私は目を輝かした。
こんな近所で集会が行われていたとは…。それにしてもこの子たちもつれないなぁ。呼んでくれれば私もこの集会に参加したのに。え?私の予定?土日なら大体空いてるよ。
「小山ちゃん。あんまり近づくと逃げちゃうよ。それに野良猫はあまり触らないほうがいい、勝手にエサあげるのも駄目だからね」
「わ、わかってるよ。さっきは肉球触りたいとか言ったけど野良に人間が不用意に関わるべきじゃないって…」
野良に餌付けをし続けると無尽蔵に繁殖していってしまう。その増えていった猫たちはいったい誰が面倒を見るのだろうか。覚悟もなく可愛がることはできない。
好きなのに、いや好きだからこそ不用意に関われない。ジレンマってやつだね。
「そういえば小山ちゃんはどんな猫が好きなの?」
「え~迷うな~。シロにクロにミケも好きだけどやっぱり私はでっかい猫が好きだな!メインクーンとかノルウェージャンフォレストキャットとか!」
でっかいもふもふは人類の至宝だ。
「猫に貴賤はないよ」
「そっちが訊いてきたんじゃん!!?」
確かにそうだけど急に突き放してきたな!?
「ちなみに俺はミケが一番好き」
「さっき言った言葉は!?」
「あ、猫たち解散するみたいだね」
「無視!?」
そんなやり取りをしつつ私たちは猫がどこかに帰る様子を眺めていた。
うぅ…もっと見ていたかった。名残惜しいぜ……
「どう小山ちゃん?満足した?」
「最高だったけどまだまだ見ていたかったよ…」
「そっか。じゃあ次いこっか」
「次?」
「言ったでしょ。俺の脳内にはここら一帯の猫の生息地マップがあるって」
桐木君は頭を指でトントンと叩いた。
「フッ…まったく、桐木君ってやつは最高だね!!」
私たちは再び猫を探しに歩き出したのだった。
ふと思うことがある。私たちの関係はなんなのだろうかと。恋人ではない。友達…幼馴染…それらしい言葉はいくつもある。だけど完全にはしっくりとこない。
きっと私たちの関係も箱を開けて観測しないと確定しないのだろう。シュレディンガーの猫のように。なんつって。
第12話 観測するまでわからない




