追憶 なんてことない日常
「まあ、こんなとこか…」
ペンを置き、ヘッドホンを外す。明日から定期テストが始まる。いや正確には今日だが。俺は最後の追い込みにと机を前に勉強していた。
「そろそろ寝るか…」
そうベッドに横になろうとしたときに違和感を覚えた。
静かすぎる…
田舎の夜は基本静かだ。確かに季節によっては虫やカエル、場合によっては輩のバイク音などで騒がしいこともあるが、この家に限ってはその限りではない。なぜなら夜は隣の住人の生活時間帯だからだ。椅子の軋む音。キーボードのタイプ音。画面の奥の誰かとのしゃべり声。普段は様々な生活音が流れている。だが別にそれはいい。とっくの昔にそれは慣れた。だからこそこの静寂に違和感を覚える。
杞憂なら良いが。そう思い俺はリビングや和室、トイレや風呂場など家のあらゆる場所の様子を見てきた。
ある一室だけを除いて。
人の気配がない。やはりいるとしたらあの部屋か。普段なら決して踏み込むことはない隣の部屋。だけど言いようのない不安を感じて、とてつもなく嫌な予感がして、気づけばノックをしていた。
──返事はない
今度はさっきより強くノックをして声もかけた。
「いる?■■■?いたら返事して!」
──返事はない
「■■■?寝てるの?次返事がなかったら部屋入るよ!」
──返事はない
仕方ない。気は進まないが部屋に入るか。そう思い俺は扉に手をかけた。
「…………!」
倒れた椅子。垂れ下がったロープ。浮かぶ肉体。脳が理解するよりも先に体は動き出していた。
「■■■!?■■■!?」
自分の部屋から持ち出したカッターを使い、■■■を床に降ろした。
震えた指でスマホを触る。父は夜勤で今はいない。俺がなんとかしなくては。
「■■■!?なんで!?■■■!?」
「──なんでっ…!?」
大量の汗と共に起き上がる。見飽きたいつもの部屋。いつもの布団。なんだまたあの夢か。
「いい加減慣れろよ…」
そう自分に吐き捨てて体を起こした。外はまだ暗い。二度寝するには寝汗が酷くて気持ちが悪い。
「シャワー浴びるか…」
なんてことないいつもの日常。朝目覚める。風呂に入る。散歩に出かける。昨日も先週も先月も。だけどこの日はいつもと違った。
この日幼馴染と再会することを俺はまだ知らない──
追憶 なんてことない日常




