第2話
商人さんの馬車に揺られること数分。僕らは仲良くおしゃべりをしている。
「でさ~、お母さんってばまだ私のこと1人前って言ってくれないんだ~」
「私のお祖母ちゃんもそうなの......」
「カレンさんも村長さんもすごい人だからね......」
フレンとレナちゃんはそれぞれの弓の師匠、魔法の師匠からの評価がいまいち気に食わないみたい。まぁこの時期って背伸びしたくなるものだよね。僕も弓はカレンさんから教えてもらってるけどまぁ普通って感じかな。
「や、やばい!、馬車が襲われてる!」
「「「え?」」」
御者さんの叫ぶ声がして僕ら3人も一斉に振り向く。
「私助けに行ってくる!」
「私も!」
「え?、ぼ、僕も!」
フレンとレナちゃんの素早い判断に遅れて、僕も馬車から駆け下りて前方の馬車に向かう。
狼の群れに襲われているみたいで、護衛の人が頑張って戦っている。
横からフレンが弓を放ち、レナちゃんが魔法を打ち込んだことで数はどんどん減っていく。
「大丈夫ですか?!」
僕はこそこそ歩き回ってけが人の治療だ。回復魔法の注意点として、体の中に矢じりとかの残留物がある場合は取り除かないといけないけど、今回は噛まれただけだから大丈夫みたい。
「ありがとう、お嬢さん」
「お嬢さんじゃないです......」
「えぇ?!、こ、これは大変な失礼を......」
この世界は男子が珍しいから見知った人ばかりの村を出ると男の子じゃなくて女の子に間違われる。村に来た商人さんとかにも女の子だと思われて謝られることが多い。
「キャイン!」
数が少なくなって劣勢を悟った狼たちは撤退していって、フレンたちに周囲を警戒してもらいながら僕はけが人を治療する。僕の探知魔法にも引っかかるものはないから大丈夫だと思うけどね。
「ありがとう、僕」
「はい!」
今度はちゃんと男の子として扱ってもらって僕は満足だ。
「シオン、けが人は?」
「大丈夫、みんな治ったよ」
「すごいよシオンくん♡」
「2人だってすぐに駆けだして行ってかっこよかった」
「「えへへ♡」」
3人で褒め合っていたら、馬車の中から綺麗な女の人とメイドさんが出てきた。お嬢様っぽい人は薄いグリーンの髪の毛に大きなリボンをつけて、水色のワンピース?ドレス?を着ている。
「ありがとうございます、旅のお方......わたくしはエリーナ。メーリッヒ商会の者ですわ」
「お怪我はありませんか?」
馬車の中にいたから大丈夫だと思うけど、一応治療出来る者として確認しておく。
「大丈夫ですわ。ありがとうございます」
「じゃあ、私たちはこれで......」
レナちゃんの言う通り、護衛の人の怪我も治ったし、僕らも王都に行かなくちゃならないから、元の商人さん馬車に戻る。
「お待ちになって!、お礼をさせてくださいな」
エリーナさんから待ったがかかって、僕らは顔を見合わせて頷く。
「王都までお送りいたしますわ、どうぞお乗りになって♡」
「「「ありがとうございます!」」」
大きな馬車で余裕もあるみたいだし、乗せてもらうことにした。さっきまでの馬車の人にもありがとうをしてからね。
「3人ともお強いんですのね♡」
「「えへへ......♡」」
「僕は戦ってないですから......」
「ふふ♡、ですが高度な回復魔法をお使いになったと聞きましたわ♡」
「えへへ......」
王都の門の検問所をくぐった僕らは一度商館にお邪魔することになった。僕も2人も村から出るのは初めてだから、王都の景色に夢中だ。
石畳の地面にレンガの家。遠くには真っ白なお城もある。まさにヨーロッパ風って感じ。
「ふふ♡、どうぞお食べになって♡」
「「「いただきます!!」」」
僕らはふかふかのソファでジュースとお菓子を頬張る。
「それで......お礼ですが......」
エリーナさんはメイドさんに僕らの前にお金の乗ったトレーを置かせる。コレいくらだろうか......村じゃ見たことないくらいキラキラだし。
「こ、ここ、こんなにいいんですか?!」
レナちゃんの焦り様から察するにたぶんすごい金額なんだろう。
「やったぁ!♡」
「いや、フレン......たぶんだけどもらいすぎなんだよ......」
「そんなことはありませんわ、正当な金額でございます、命に値段はつけられませんから」
「そ、それでも白金貨30枚なんてやりすぎです!」
白金貨って言うと......確か1枚10万くらいの感じだったから......300万?!
「お、多すぎですよ!」
僕もレナちゃんに合わせて一旦遠慮をしておく。さすがにフレンみたいにそのままもらうなんてできない。
しばらく白金貨の押し付け合いをして、「困ったときに手を貸す」と言うことで3分の1の値段になった。
「むぅ......それではシオン様、フレンちゃん、レナちゃん、今日はこのあたりで許してあげます」
なぜか僕だけ様付けなのは治らなかった。エリーナさん曰く「男性様ですから」で頑なに様付けで呼んでくる。
「本日のお宿もすでにご用意しておきましたので」
「すみませんエリーナさん、ありがとうございます」
「ふふ♡、白金貨に比べたら安いものですから♡」
たしかに残りの200万円に比べたら安いよね......
商館から歩いてお宿に向かって、チェックインをする。しかも部屋にはなんとお風呂。お風呂がある。
この世界ではお風呂は珍しい。村でも村長の家にしかついてなかった。まぁ僕は魔法で自分の家に露天風呂作ったけどね。
「シオン♡、お風呂ついてるよ♡」
「一緒には入らないよ」
「むぅ!、ケチ!!」
フレンが誘ってくるけれど、僕はひらりと躱す。昔はフレンとレナちゃんと、ここにはいないユナちゃんとも村長さんのお家でお風呂に入らせてもらったけど、今はもう僕らはそんな歳じゃない。
「こ、こんな上等なお宿いいのかな......」
「ね、いくらするんだろう......」
「もう2人とも!、いいしゃんか!、せっかくエリーナさんがおごってくれたんだから!、そろそろ失礼だよ!」
こればっかりはフレンの言う通りかも。さすがにそろそろ遠慮も失礼かな。
「じゃあ、僕はお風呂入るね」
「むっほ!、私も......」
「結婚するまではダメって言ったでしょ」
「むぅ!」
「約束守れない人なんかとは結婚ナシかもな~!」
僕はわざとらしく不機嫌になったアピールをする。フレンにはこれが効果抜群なのだ。
「うぅ......でもこんないいとこのお風呂......」
ありゃ、珍しく今回は食い下がってくる。確かにこんないいお風呂はそう簡単には入れないか。
「結婚したらお金稼いで泊めてくれるでしょ?」
「!♡、うん!、じゃあ今日は我慢する!」
「うん、じゃあ、レナちゃんと待ってて......ちゅ」
「にへへ♡、うん!♡」
フレンのご機嫌を取って、ほっぺにちゅ~をしたら、僕はお風呂に入る。
「ふぅ~......」
やっぱり日本人としてはこういうのがもう癖というか業?だよね。
お湯が出る魔法が刻まれた魔道具でシャワーも浴びたら、タオルで体を拭いて、ラフな服装に着替える。
「上がったよフレン、レナちゃん」
「「は~い」」
「じゃあ、レナ、2人で入ろ♡」
「うん♡」
なんだかんだライバルな2人だけど、仲は良くて、一緒にお風呂にも入れる。
「シオン♡、覗いてもいいんだよ?♡」
「ダメ。僕もちゃんと我慢するの」
「んも~♡、シオンのそういうところ好き♡、ちゅ♡」
フレンからもほっぺたにちゅ~をもらって、お風呂に送り出す。僕は明日の試験に向けて最終確認だ。
「レナまたおっきくなったね~♡」
「きゃぁん♡」
2人がじゃれあう声が聞こえてきて、混ざりたくなるけど我慢だ。それにレナちゃんとは別に結婚の約束とかはしていないし。
この世界の地理や歴史は完全にこの十数年の勉強の成果でしかないからね。勉強、勉強だ。
「シオン~♡、上がった♡」
「おかえり」
フレンたちもゆったりした格好に着替えて、フレンなんてもう早速ベッドにダイブしている。
「フレンちゃんもお勉強しなくていいの?」
「いいの~♡、どうせ受かるもん♡」
「まぁフレンの言う通りたぶん大丈夫だから......」
「それもそっか......じゃあ、シオンくん♡、今日の魔力合わせを......♡」
「私もする~♡」
3人で両手を繋いでお互いに魔力を流して、魔法の練習をする。
「「んん♡、あん♡、ああぁ♡」」
2人から甘い声が聞こえてくるけど、気にせずに精神統一だ。最近は2人の体もどんどんエッチに成長してきて、僕もムラムラするけど、ぐっと我慢だ。
「やっぱりシオンの魔力はあったかいね~♡」
「うん♡、それに操るのが上手♡」
「ありがと」
3人でゆっくり過ごしたら、僕らは夕食を食べて、明日に備えて早めに眠る準備をする。
「シオン♡、私のベッドに入ってもいいんだよ?♡」
「入らないよ。それも我慢って言ったでしょ」
「ぶぅ!、あ~あ!、早く試験終わんないかな~!」
なぜフレンが試験が終わるのを望むかと言えば、フレンとの結婚は2人で合格できたらって条件付きなのだ。
「......」
「ふふ♡、レナ~?♡、シオンに言うことあるんじゃな~い?♡」
「うぅぐっ......な、ないよ?」
レナちゃんはこの期に及んでまだ僕に告白してくれないみたい。ずっと子供のころから一緒で、僕はレナちゃんの事大好きだけど、この世界では告白は女の子のものだから。
僕からシちゃったらレナちゃんが「男に告白させた小心者」って扱いを受けちゃうのだ。
「ふ~ん♡、あっそ♡、私はシオンの事大大大だ~い好き♡」
「うん、僕も好きだよフレン」
「にへへ♡」
「......」
「じゃあ、寝よっか明日は試験だし」
「「うん!♡、おやすみなさい♡」」
3人でベッドに並んで、僕らは明日に備えて眠るのだった。




