水王-4
水王-4
空を飛んでいる飛竜。彼の名はデボロと言った。彼は円陣を組みだした相手を見て「面倒だな」と呟いた。こうなると時間がかかる。うかつに近づくと、こちらがやられる。しかし、長期戦も、味方を待つのも彼の性には合わない。デボロは地平を眺めた。もう少し行くと帝国の領域内だ。
(相手の領土の民家にちょっかいをかけて、挑発でもしてみるか・・・)
そうデボロが考えている時だった。
ピチャン
どこからともなく水の滴る音が聞こえた。
(空中だぞ、気のせいか・・・)
そう思ったが、
ピチャン、ピチャン、ピチャン
水音が明らかに増えている。
(気のせいじゃない・・・何か・・・いる)
デボロは目を凝らして周りを見渡した。気が付けばいつの間にか、周りを取り囲むように複数の水塊が空中を動いている。さらにその中を何かが泳いでいる。それも速い・・・
デボロが動いている何かを見落とした瞬間だった。「ドン!」という音と共に、自身の後頭部あたりに衝撃が走った。巨大な水隗にぶん殴られたのだ。
「なっ!?」
デボロは痛みで目を細めた、その目でかろうじて動いていた正体を捉えた。
(人魚・・・それも、笑っていやがる・・・)
「国母」となって性格が丸くなって以来、長い年月が経ったためほとんど忘れられているのだが、ミレリアはとても勝気な女性である。かつては権力を巡って皇帝、軍部と熾烈な争いを繰り広げ、「冥府の女王」とまで言われた女だ。彼女が魔術を開発したのも「力で男に劣るというのが我慢ならない」からと言う側面が非常に大きい。
そんな彼女の開発した「魔術」を使って、彼女の領域である「帝国」を脅かしているのだ。テオドロス達の疑問、「なんでそこまでして戦場に出たがるのか」の解答は実にシンプルであった。
「舐めた真似をしてくれたクソガキを、自らの手でぶっ潰す」ためである。
デボロの周りをミレリアが高速で泳ぐ。速いだけではない。水隗の機動力とミレリア自身の機動力という二つの動作軌道を駆使することで、空中であるにも関わらず凄まじいい方向転換を可能としている。これがミレリアがテオドロスに説明していた、ミレリアが自身のために作り上げた戦法であった。
デボロにとってこれは屈辱であった。自身の誇る飛翔能力の分野であるのに、完全に翻弄されているのだ。闇雲に爪を振り回しても当たらないうえに、かすったところで高速で動く水隗に阻まれる。とうとう、水音に交じって笑い声すら聞こえるようになってきた。
「コロス!!!!!!」
デボロはブチ切れた。
デボロは一気に速度を上げてミレリアに突っ込んでいく。最高速度であれば自分の方が上回っているはずだ。等速であれば水の鎧も関係ない。そのまま掴み殺してやる!デボロは限界まで速度を上げた。その時だった。
ピチャン
デボロが追いつく寸前に、ミレリアは目の前の水隗から撥ねた。その水隗は追いかけてきたデボロに向かっていく。
「しまっ・・・!」
デボロが気づいた時には遅すぎた。水隗に頭から突っ込んだデボロの首の骨は折れ、一瞬で意識が断ち切られる。デボロはそのまま落下して、落ちた先の尖った岩に突き刺さって、果てた。




