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第19話悪巧み2…アレキサンダー&ライザ視点(性被害表現あり)

「ライザ王女は、こんなに可愛らしい部屋が好みなんだね」

「……ええ、まぁ」


 内密にライザの部屋に通されたアレキサンダーは、女子らしい華やかな部屋を、不躾に見回していた。


 アレキサンダーとは接触しないようにと、父王にも兄二人にも口酸っぱく言われていたライザは、アレキサンダーと対話するのに普通に対話室を使ったり、開けた庭園で散歩をしながら……という訳にもいかず、周りには内緒でアレキサンダーを私室に引き入れていた。


 侍女からアレキサンダーがライザと話したがっていると聞いた時は、最初は二人で話すなんてとんでもないと拒否した。しかし、アレキサンダーがルチアをどうしても国に連れて帰り、王太子妃にしたいんだという話を聞き、さらにはルチアを説得する為にノイアーに内緒でルチアに会いたいので、ライザに仲介を頼みがっているようだと侍女に伝えられ、ライザはなけなしの勇気を振り絞って、苦手な男性に会う決心をした。


「これは、ゴールドフロントの内情にも関わることなので、人払いをお願いしたいのだが」

「でも……」


 部屋にはアレキサンダーを連れて来た侍女が一人控えており、他の侍女達は色々理由をつけて私室からは遠ざけていた。


「私、部屋のすぐ外に控えておりますから」


 侍女は訳知り顔で頷くと、ライザの指示がないのに、気を利かせて部屋の外に出てしまった。

 扉が閉められ、密閉された空間にアレキサンダーと二人になってしまい、ライザは緊張から頬が勝手に赤くなってしまう。


「ああ、見た目は華やかで大人っぽいのに、二人になって頬を染めるなんて、実は可愛らしい人なんだな」


 対面のソファーに座っていたアレキサンダーがサッと立ち上がって、ライザの隣に移動して来た。膝がつくほどに距離をつめられ、ライザは震えながら少しでもアレキサンダーから離れようと位置をずれたが、アレキサンダーはそんなライザの太腿に重ねて置いていた手を掴み、身を乗り出してきた。ライザは恐怖で身動きできなくなりながらも、なんとか声を絞り出す。


「あの……、アレキサンダー様はルチアさんとよりを戻したいんだと聞きましたが」


 よりを戻すもなにも、一度も付き合った記憶がないまま、アレキサンダーはおもむろに頷く。それを見て、ライザはホッとして硬直していた身体の力を抜いた。ルチアに気持ちがあるのならば、まさかアレキサンダーが自分に手を出してくるとは思わなかったのだ。


「僕はルチアを連れて帰るつもりだ。君は、エムナール伯爵を手に入れたいんだろう」

「それは……」


 アレキサンダーの指がライザの顎にかかる。


「僕達は協力できるよね」

「それはまぁ……」


 アレキサンダーの顔がライザに近付き、生暖かい感触がライザの唇を覆った。


「……うっ」


 何が起こっているのかわからなかった。ライザは身動きすることも、悲鳴を上げることもできすに、ただ恐怖に目を瞑ることしかできなかった。


「僕達は良いパートナーになれると思うな」

「……」


 のしかかってくる重みに身体が倒され……。


 ★★★


「じゃあ、ライザがルチアをお茶に呼び出してくれるね。そうだな、第二庭園に生け垣迷路があるだろ。あの奥にある東屋はどうだろう。あそこならば、迷路の入り口を塞げば人払いは簡単だし、屋外だから僕が偶然現れたとしても、そんなにルチアも警戒しないだろう」


 ライザの裸の背中にキスを落としながら、アレキサンダーはルチアを呼び出す方法や場所を提案していく。ライザは流れる涙でソファーを濡らしながら、自分に起こった出来事が信じられずにいた。あんな辱めを受けたことが人に知られたら、もう他の男の元に嫁ぐことは叶わない。それとも、誰にも知らせずに知らないふりをすれば……。


(そうだ、このことは誰にも知られては駄目だ)


 ライザは涙を拭うと、中途半端に脱がされたドレスを自力で整え、乱れた髪の毛をなでつけた。アレキサンダーには背中を向け、震えて掠れる声を振り絞った。


「アレキサンダー様、ルチアさんと二人で話さえできれば、彼女はあなたを選ぶんですね」


 晩餐会の時、ライザはアレキサンダーの座っていた席と一番離れた席にいた為、ルチアがアレキサンダーとの婚約に断りを入れているばかりか、ノイアー以外は眼中にありませんという態度を取っていたことなど知らなかった。


「そりゃそうだろう。雷靂将軍が側にいたから、言いたいことが言えなかっただけで、ルチアはゴールドフロントに帰りたいに決まっている。あいつがプラタニアに来たのだって、ゴールドフロントの、いや、ひいては僕の為に両国を橋渡ししようという自己犠牲からだしな。じゃなきゃ、雷靂将軍と恐れられている男に嫁ごうなどと考える訳がない。今は、かなり無理して演技をしているようだが」


 アレキサンダーは、あれだけ面と向かって拒否されておきながら、いまだにルチアは愛国心から婚約を結んだと信じていた。いずれは自分が王になる国の為……つまりは自分の為、ルチアは自己犠牲を厭わないくらい自分を愛しているんだと勝手に思い込み、晩餐会でノイアーを好きなふりをしたのは、敵を騙すにはまずは味方からと言うからなと、自分の都合の良いように受け取っていた。


「……そうですか。では、ルチアさんを東屋でのお茶会に招待するように手配いたします。詳しい日時は決まり次第、先ほどの侍女を通して伝えますわ。ですから、私とは関わりがないふりを……」

「なるほど、それは秘密の関係を楽しもうということだな」


 アレキサンダーがライザの髪の毛に手を伸ばし、かきわけて首筋をあらわにした。そしてそこに唇を寄せる。その首筋に痕を残すと、アレキサンダーはニヤリと笑った。


「この痕が消える前にもう一度会いに来るから」

「もうお会いすることは……」


 二度と会いたくないと顔色を悪くするライザに、アレキサンダーはその耳元に囁いた。


「この関係を公にしても、僕はかまわないけど」


 アレキサンダーは勘違いをしていた。(常に勘違い、思い込みで生きている王子ではあるが)ライザに心底拒まれているとは思わず、いわゆる駆け引き的なものから拒んでいるふりをしているだけで、嫌よ嫌よも好きのうち、なんだかんだ言って自分を受け入れたじゃないか……と。


 無論、アレキサンダーだって国際問題にしたい訳ではないから、かなり際どいことをしたが、かろうじて今回はライザの花を散らしてはいない。なんなら、この関係を公にして、正々堂々楽しめたらと思って言った軽口だった。


「駄目!……それは」


 それに慌てたのはライザだ。閨の知識に明るくないライザは、自分の純潔はアレキサンダーに奪われたと信じており、婚姻に処女性を重要視するプラタニアにおいて、アレキサンダーとの行為がバレることは、すなわちアレキサンダー以外との婚姻が叶わなくなるということだった。

 そして、それを知った上で、アレキサンダーが自分を脅しているのだと、ライザもまた大きな勘違いをしてしまった。


「なら、またこうして会うよね」


 ライザは頷くしかなかった。


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