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第16話戦勝祝賀パーティー2

 パーティー会場に戻ったルチアは、まずノイアーを探した。


「ちょっと、ちょっとすみません。通して……」


 会場まで案内してくれた護衛は、会場についた途端に消えてしまい、会場を大回りするよりもダンスフロアを横切った方が早いだろうと判断したことが、そもそも間違っていたようだ。音楽が止まった瞬間、人々が次の音楽を待ったり、休憩する為にフロアから出ようとした時を見計らってフロアを突っ切ろうとしたのだが、ちょうどフロアの真ん中まで来た時に音楽が始まってしまい、ルチアは踊る人々を避けながら、進まなくてはならなくなった。


「うわっとと、失礼。痛っ、ごめんなさい」


 女性のドレスを踏んでしまいそうになり、慌てて下がったら今度は踊っている人にぶつかってしまった。ルチアは謝りながらなんとかフロアを横断する。


 ノイアーはライザをエスコートしており、周りには女性が沢山いてルチアには気がついていなかった。ルチアもなんとか間を縫ってノイアーに近づこうとしたが、令嬢達のゴテゴテしたドレスに阻まれ、全く近寄ることができなかった。


「エムナール伯爵、ライザ第一王女殿下とダンスをなさったらどうですか?」

「お二人のダンス、見たいですわ。きっとお似合いでしょうね」


 周りの貴族令嬢達は、しきりにノイアー達にダンスをするように勧めていた。


(ファーストダンスは家族か婚約者と踊るものじゃないの!?)


「ノイアー、皆様もこう言ってますし……」


 ライザは、ノイアーと視線は合わせられないものの、袖を引いてダンスフロアに誘う素振りを見せた。


 二人が並んでいる姿はなかなか絵になっており、ルチアの胸がズキリと痛んだ。二人が寄り添って踊る姿なんか見たくないけれど、王族にダンスを申し込まれて、断る貴族はいないだろう。この後、二人でダンスフロアに行ってしまうのかと、ルチアはスカートを握り締めてノイアーの後ろ姿を見つめた。


「婚約者がいる身で、ファーストダンスを家族以外と踊るつもりはない」


 ノイアーは淡々と断っていたが、何故か周りの令嬢達はノイアーとライザが悲劇の恋人であるかのように騒ぎ立てだした。


「さすがエムナール伯爵様、義理堅いですわ。でも、ご本心を偽る必要はもう……ねえ?」

「ええ。伯爵様はライザ王女殿下と婚約間近だったじゃないですか」

「そうですわ。この戦をゴールドフロントに邪魔されない為に、エムナール伯爵が犠牲になって、ゴールドフロントの女性と婚約なさったと聞きました」

「もう、戦争も終わりましたし、ゴールドフロントなど我が国の脅威にもなり得ませんもの。お二人の間を引き裂くものはありませんわ。何も遠慮はいらないんじゃないでしょうか」


(盛り上がり過ぎじゃない?)


 ルチアは段々苛々してきた。わざとらしく騒ぐ令嬢達に、周りにいた貴族達も興味津々聞いており、まるで今話されていることが真実のように伝聞されていく。


「そんな事実はない。王女殿下にも失礼だろう。王女殿下とそんな話は出たこともないし、私も臣下として以上の感情を抱いた記憶もない。第一、ルチアとの婚約は先ほど正式に受理されたもので、この度の戦争は無関係だ」


 ノイアーの低音が広間に響き、騒がしかった会場も静まり返る。


「ミッタマイル、ライザ王女殿下の護衛を頼む。俺はルチアを迎えに行く」


 ノイアーは、人混みの中から副官のミッタマイルを見つけると、呼び寄せてライザの手をミッタマイルに押し付けた。


「ノイアー!」


 このままではまたはぐれてしまうと、ルチアは慌ててノイアーを呼び止めた。ルチアの声に振り向いたノイアーは、ルチアを見つけてその瞳を僅かに緩めた。その覇気が途切れた瞬間を目撃した令嬢達は、驚いたようにノイアーを二度見し、初めてノイアーの顔を直視したことで頬を赤らめていた。


 ノイアーはルチアの前まで来ると、ルチアの手をとった。


「すぐに探しに行けずに悪かった」

「本当よ。王妃様に婚約破棄して国に帰れって言われたんですから」

「は!?」


 ノイアーから殺気が溢れ、周りにいた人達が一斉に後退る。気の弱い令嬢なんかは気絶しそうになっており、それはライザも同様で、取り巻きの令嬢達に支えられていた。


「なんでも、ノイアーを王家に取り込みたいらしいわ。貴族で軍人なら、国の為にそのくらいするのが当たり前みたいなこと言っていらっしゃったけど、ノイアーもそう思う?」

「あり得ん」


(ふん!言いつけてやったわ)


 もしノイアーにその気があれば、この国に見切りをつけて異国にでも行こうかと……って、嘘だ。ここに来たすぐ後だったら、迷わずにそうしたかもしれない。でも、今はノイアーと離れる選択肢は考えられなかった。


★★★


 混み合った会場にも関わらず、ノイアーから発せられる覇気のおかげで、波が引くように周りの人達が避けてくれる中、ルチアは会場のど真ん中でノイアーとダンスを楽しんだ。


「予想外だわ。ノイアーがこんなにダンスが上手だなんて」


 身長差が半端ない為、父親に振り回されながら踊る娘感は否めないが、ノイアーのリードは踊りやすく、元からダンスの得意だったルチアは、ノイアーの大股のステップにもかろうじてついて行くことができた。


「そうか。実は初めてだ」

「初めて?公の場所で踊るのが?」

「いや、ダンス自体がだ」


 なんと!?


 侯爵家にいた時も、ダンスの授業はあったらしいが、ノイアーの覇気に耐えられる講師がいなかったらしい。なので、いつも兄弟が練習しているのを見ているだけだったそうだ。軍人になって侯爵家を出てからも、特にダンスを必要性を感じず、夜会などがあっても王家の護衛として参加するだけだったとか。


「さすがの運動神経よね」

「足さばきは簡単な組み合わせだし、今まで何回か見たからな。そう難しくはない」

「じゃあ、リフトとかはできる?あそこのカップルみたいに持ち上げて半回転するの」


 ノイアーは、ルチアが視線を向けた先のペアを見て、ルチアを腕力だけで持ち上げ、クルクルと数回回って下ろした。周りから感嘆のため息が上がり、ルチアは最後のポーズをとってダンスを終了させた。


 ノイアーは周りが自分達に注目しているのを確認すると、ルチアの肩を抱いて王族が座る場所に歩き出した。国王夫妻の前に立ったノイアーは一礼をとり、王妃に視線を合わせた。


「これはノイアー、素敵なダンスでしたね。ぜひ、次は王女のパートナーをお願いしたいものです」


 アンブローズ王妃は、ノイアーの胸元に視線を下げ、あえて視線は合わせず、しかし顔は背けないというテクニックでノイアーの覇気をやり過ごした。


「残念ですが、婚約者以外と踊るつもりはありませんので。先ほどは、私の婚約者をお気遣いいただき、王妃殿下には御礼申し上げます」

「あら、気にしないで。あなたには第二王子と王女が昔から世話になっていますからね。あなたのことは、家族同様に思っていますもの。ねえ、陛下」

「王妃の言う通りだ。ノイアーよ、本当に恩賞はいらんのか?」


 ノイアーは国王に頭を垂れ、はっきりとした口調で、会場中に響く声で言った。


「では、王家からの祝福を」

「祝福?エムナール伯爵家はもちろん、そなたの実家であるエムナール侯爵家においても、プラタニア王家は恩寵を与えると約束しよう」

「まあ、陛下。口ばかりの恩寵では、戦の最大なる功労者であるエムナール伯爵に失礼だわ。やはりここは祝福の印として王女を……」

「いえ、私が求める祝福とは、私と婚約者であるルチア・シンドルフの婚姻に対する祝福です」


 王妃の言葉を遮って、ノイアーは一言一言区切りながら言った。


「き……今日、婚約誓約書の提出があったというのに、婚姻の祝福とは気が早いのでは?婚約期間は短くても半年、普通は一年はかかるものでしょう?しかも、英雄であるエムナール伯爵ならば、一年半から二年は準備を要すると思いましてよ。それに、プラタニアもこれから躍進の時を迎えます。今まで以上にプラタニア軍大将としての活躍を期待しているんですよ。あなたにはプラタニアの為に……」

「母上、今までもノイアーにおんぶに抱っこで今回の勝利を手にできたというのに、さらに何を彼にお求めになるつもりですか」


 それまで黙っていたサミュエルが口を開いた。


「サミュエル、口が過ぎるぞ。しかし、宿願であった死の砂漠を制覇できたのはノイアーの功績だというのは確かだ。父上、私が代わりにノイアーに祝福を与えてもよろしいですか。しかし、いまだ婚約の身であるから、まずはこの婚約に祝福を与えましょう」


 王妃の横に座っていたアンドレア王太子が立ち上がり、ノイアーの前にやってきた。


「プラタニア王太子アンドレアの名前のもと、ノイアー・エムナールとルチア・シンドルフの婚約に祝福を与える。この婚約が実を結び、さらなるエムナール伯爵家の繁栄の糧になることを期待する。君達が婚姻した暁には、プラタニア王家から祝福を与えると約束しよう」


(つまりは、早く結婚して子作り頑張れよ的な?)


「ありがとうございます。不肖ノイアー・エムナール、末永い忠誠をアンドレア王太子殿下に捧げることを誓いましょう」


 アンドレアは満足気に頷くと、席に戻って行った。ノイアーも一礼すると、ルチアをエスコートして会場を退出した。



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