弟子!?
この野郎…。
いつか絶対泣かす!!
頭をそっと触ると何個かコブが出来ていた。
「それで?お前さんは何故、わしを探しておる?」
爺さんさんがそう言って、俺に問いて来た。
「アンタの持ってる不老不死の巻き物を寄越せ」
俺はそう言って、爺さんに如意棒を振り翳した。
ビュンッ!!
だが、如意棒が坊さんに当たる事がなかった。
ジャキジャキンッ!!
同時に俺の体が拘束されているのに気が付いた。
俺は周囲を目だけで追った。
すると、地方八方の木に札が貼られていて、札から光の鎖が出ていた。
光の鎖が俺の体を拘束している。
「っな!?テメェ!!!何しやがる!!」
「それはお前さんだろ。いきなり殴りかかりおって」
「さっきから俺の頭を叩いてたろ!?テメェが言うなジジィ!!」
「誰がジジィじゃ!!この馬鹿モン!!」
体を動かそうとしても、微動だに動かない。
このジジィ…、かなりやるな。
「どうして、不老不死の巻き物が欲しいのじゃ?それと、どこからその情報を?」
そう言って、爺さんが近付いて来た。
「あ?んなもんどこからでも良いだろ。つーかテメェに関係ねーだろ、あ?」
そう言って、俺は爺さんを睨んだ。
牛魔王から聞いた事なんか、こんな爺さんに言う必要がねぇし、言うつもりもねぇ。
兄弟を売る事は絶対にしねぇよ。
爺さんは俺の目を見て何かを察したらしい。
「成る程な。、を裏切る事は出来ない…っと」
見透かしてるような言い方に腹が立っった。
そう思っているなら、最初から聞いてくんな。
「…」
「お前さんか、牛魔王と兄弟になったと言う美猿王は」
「その事を誰から聞いたんだよ」
俺は爺さんを睨み付けながら、問い掛けた。
「そんな睨むでないよ、天帝からお前さん達の噂を聞いていたから、分かってただけだよ、」
「噂?何の噂だジジィ」
神共め、好き勝手に言いふらしやがって。
「誰がじ…って、もういいか。牛魔王と共に様々な悪事を行っていると」
「その天帝とやらが、何で俺達の噂をしてんだよ。」
俺は話をしつつ、如意棒に念じていた。
すると、如意棒が小さくなり光の鎖から外れた。
そして、俺は如意棒を持っている右腕を大きく振り上げた。
ブンッ!!
パリーンッ!!
振り上げた衝撃で光の鎖が解かれ、俺はジャンプをしながら再び坊さんに如意棒を振り翳した。
ブンッ!!
坊さんが如意棒を手で止めようとしていたので俺は、足で坊さんの手を弾き、如意棒を振り落とした。
ブンッ!!
今度こそ落としたと思った時、俺の視界がグラッと
揺れた。
ドサッ!!
坊さんが俺を地面に叩き付けた。
頭を押さえ付けられ背中に坊さんの体重を感じた。
身動きが取れない状態だった。
どうして、この体制になったのか分からなかった。
一瞬の出来事だった。
「っ!!離せ糞野郎!!」
「暴れるでないよ。光の鎖を解くとは…、中々やるな小僧」
爺さんの口調が変わった。
この圧倒的なオーラはなんだ。
何をやってもお前じゃ勝てないぞって、言われている気がした。
小馬鹿にされているような、下に見られているのが分かる。
殺してやる、俺にこんな事をしやがって!!
タダで済むと思うなよ、糞野郎が。
グッと唇を強く噛んだ瞬間、頭を触られた。
ポンポンッ。
頭を優しく撫でられた。
何で、急に頭を撫でたんだ?
「わしには勝てないよ、お前さんじゃ」
「そんなの…、やってみねぇと分からないだろ!!」
「勝てないよ、基礎がなっておらんからな。どうして、お前さんはそんなに不老不死の巻き物を欲しがる?」
「手に入れたいからに決まってんだろ」
「わしからしたら、お前さん自身は巻き物を欲しがっていないように見えるのだが?」
「っ!?」
不意に確信を突かれた。
俺は不老不死なんか興味はない。
「牛魔王の為に、ここまで来たのだろう?こんな遠くまで。」
そう言ってまた、頭をポンポンッと優しく撫でられ
た。
心臓が締め付けられる感覚がした。
それと同時に、胸の苦しくさと目頭が熱くなった。
俺は…、牛魔王の喜ぶ姿が見たかったんだ。
牛魔王と兄弟になれた事が嬉しかった。
俺に気を使わずに気楽に接してくれた。
今まで俺がやってきた事は俺が、牛魔王に何かしてあげたくてやっていた事だった。
俺の意思は関係なかった。
アイツが欲しいものは俺が手に入れてれば、喜ぶからだ。
「美猿王よ、相手を喜ばせる方法は他にも沢山あるんだ。殺しや窃盗をするんじゃなくてな?」
俺は声が出せなかった。
声を出そうとしても、目から涙を出さないように必死だった。
どうして、こんなにジジィの言葉が胸に刺さる。
情けない。
こんなジジィに一歩も歯が立たない事。
こんなジジィに確信を突かれた事。
どうやっても、巻き物を奪える事は出来なさそうだな。
俺もここまでか。
ここで、さっきの奴等みたいに跡形もなく消されるだけ。
「さっさと殺せよ」
俺は、そう言って瞼を閉じた。
すると、背中の重さが無くなった。
「美猿王を殺す理由がない。それにお前さんを気に入ったんだよ、わしは」
「は?」
驚いて瞼を開けると、網代笠を取った爺さんの姿が目に入った。
長い白髪の髪は後ろで一本に結ばれていて、優しい目の下にはシワが数本入っていた。
「わしの弟子になれ、美猿王」
「は?自分が何を言ったか分かってんのか、ジジィ」
「お前さんに弟子になれと言った事か?」
「俺なんか側に置いたら色々マズイだろうが」
俺はそう言って、立ち上がった。
「気にしてくれてるのか?」
「は、はぁ!?ふざけんなよジジィ!!寝ぼけた事言ってんじゃねーぞ!!」
「美猿王、お前さんが知らない事、この世界には沢山ある。世界を知りなさい美猿王」
俺の知らない世界だと?
「わしの弟子になれ美猿王」
そう言って、俺に手を差し出して来た。
ブワァッ!!
暖かい風が俺と坊さんを包み込む感触が、全身を駆け巡る。
俺の知らない事がこの世界には沢山ある。
どうして、人間は優しくするのか。
どうして、人間は優しい言葉を使えるのか。
どうして…、俺はこの世に産まれたのか。
あぁ…、そうか。
俺は世界を知る必要があるのか。
「後悔すんなよジジィ、俺と出会った事にな」
ガシッ。
そう言って、俺は差し出された手を掴んだ。
この時、俺は牛魔王の事が頭から消えていたのだ。
「今からお前さんはわしの弟子になった訳だ。ジジィと呼ぶのはやめなさい」
「は?じゃあ何て呼べば良いんだよ」
「須菩提祖師殿じゃ」
ドヤ顔で何言ってんだ、このジジィは。
「長いから却下、それになんかキモイ。爺さんで良いだろ」
「爺さん!?それにキモイ!?ま、まぁ良いだろう。さっ行くぞ、美猿王」
そう言って?爺さんは自分の荷物を俺に渡して来たのだ。
「は?」
「は?じゃない。ほれ、荷物を持て」
「何で」
「わしの弟子だから」
爺さんはニコッと笑って歩き出す。
この…、糞野郎!!
俺を一丁前に、荷物持ちさせようってか!?
「はぁ…」
俺は渋々、爺さんの後に付いて行った。
小さな街を二つ渡り、三日掛かって霊台方寸山に到着した。
「さ、この山の中にわしの寺がある。予定より早く着いて良かった良かった!!」
そう言って、爺さんはケラケラッと笑った。
「そりゃあ良かったな」
「それにしても、お前さんは沢山の荷物を持って歩いているのに息切れ1つもしないのぉ」
「あ?別に疲れてねーもん」
「ほぉ…、凄まじい体力じゃなあ」
そんな話をしていると「須菩提祖師殿!!」っと呼ぶ声がした。
霊台方寸山の入り口に目を向けると、坊主頭の少年が三人立っていた。
「須菩提祖師殿、ご無事で何よりです」
「お帰りなさい、須菩提祖師殿」
3人の少年は爺さんに近付き、目をキラキラさせていた。
へぇ、かなり慕われてるみたいだな。
三人のうち、一人の少年が俺の存在に気が付いた。
「須菩提祖師殿、このお方は…?」
「あぁ、皆に紹介するよ。こちら美猿王。今日からわしの弟子になった」
爺さんがそう言うと、三人は驚いた顔をし「えぇぇ!?」と声を出した。
「び、美猿王って牛魔王と兄弟盃を交わした…あの!?」
「どう言う事ですか須菩提祖師殿!!」
「説明して下さい!!」
そう言って三人は、ギャアギャアと騒ぎ出した。
うるせーな…。
黙らしてやるか?
そう思って、如意棒を手にしようとした時だった。
「三人共、落ち着きなさい。わしが美猿王を気に入って弟子にしたのじゃ」
「で、ですが妖を弟子にするのは…」
いち人の少年が怪訝な視線を俺に向けた。
こんな視線を浴びるのは初めてだ。
こう言う視線も中々新鮮で面白いな。
そんな事を考えているとパシンッ!!と、何かを叩いた音がした。
音のした方に視線を向けると、俺に怪訝な視線を向けてきた少年の頬を爺さんが平手打ちしていた。
「は?」
状況が理解出来ず、間抜けな声が出てしまった。
何で爺さんが少年に平手打ちしたんだ?
意味が分からん。
「そんな目を向けるのはいけません。差別のような視線をするのは心が悪に染まってしまうよ。何もされていないのに相手を差別するような事をするのはおやめなさい」
爺さんがこんな事を言うとは、思わなかったから驚いた。
俺を庇うなんて…。
何なんだよ、この爺さん。
爺さんに怒られた少年が俺に頭を下げて来た。
「す、すみませんでした」
少年の体がカタカタッと小刻みに震えていた。
おいおい…、ビビり過ぎだろ。
俺なんもしてねぇよな?
何か…、可哀想だな。
「いや、気にしてねぇから。それに俺って怪訝な視線とか浴びた事ねぇから貴重な体験が出来たわ」
俺がそう言うと、爺さんは大声で笑った。
「アッハッハ!!美猿王の心の広さはお前達も見習わないといけないぞ?」
「「「はい!!」」」
3人の少年は声を揃えて返事をした。
「な、何だ?」
「美猿王さん!!荷物持ちますよ!!」
「私にも荷物を持たせて下さい!!」
そう言って、三人の少年は俺の持っていた大量の荷物を持ち始めた。
「美猿王は悪い事をしなくても人を惹きつける魅力があるんだぞ?」
「は?」
「まぁ、そのうち分かる事じゃ。さぁ、三星洞に向かうぞ、」
そう言って爺さんは山道を歩き出す。
爺さんの後を急いで3人の少年は付いて行った。
俺は爺さんの言葉が理解出来ないまま、後を付いて言った。