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宮殿の本当の宝 弐

孫悟空 十四歳


宮殿の裏側に回ると、何故か兵が一人もいなく裏側にあるのは、中に繋がる扉が一つだけ。


武器庫があると言うのに警備が行き届いておらず、正門に警備を回している所為で人が足りていないのか?


「あそこの扉から入るぞ」


「了解」


牛魔王がドアの部に手を伸ばし、ゆっくりと扉を開け、宮殿の中に潜入して行く。


キィィィ…。


扉を開けた先は長い廊下が広がっており、明かりが灯っているだけで人気配がしない。


外だけでなく、宮殿の中の警備もガバガバそうだな。


牛魔王は人がいないのに用心深く周囲に視線を向け、安全を確保してから歩みを進める。


「そこの曲がり角を曲がってから、間取り図を確認しよう。現在地から武器庫までの距離が知りたい」


「お前の判断に任せる」


俺の言葉を聞いた牛魔王は何も言わずに、右側の曲がり角を曲がり、空の木箱が積まれて出来た影に身をひそめるように体勢を低くとった。


牛魔王と同じような体勢を取ると、ズボンのポケットに入れていたであろう間取り図を広げる。


数秒の沈黙が流れ、牛魔王は小声で俺に情報を共有していく。


「武器庫はニ階にあるみたいで…。ここは…、俺達が今いる場所は地下に当たる場所だな」


間取り図を見ながら、牛魔王が周囲を見渡した。


カツカツカツッ。


木箱の影で身を潜めてると、前方から二人分の足音と話し声が聞こえ、俺達は耳を澄ませる。

 

「見回りって怠いよなー」


「何にもないのにな」


足音が二人分だったし、どうやら見回りの警備兵が二人来たらしい。


今頃来たのかって言いたくなるが、このタイミングで来たのは好都合だ。


いずれにせよ、俺達の存在は警備兵にばれる事になるだろうし、今のうちに兵の数を減らしておくのが得策だよな。


「殺して身包みを剥ぐか」


俺がそう言うと、牛魔王はフッと口角を少し上げた。


その反応を見て、牛魔王と俺が同じ考えだったと証明される。


「やり方はいつも通り、お前の好きなように動けばいい。俺がカバーしてやる」


牛魔王の言葉を聞いて黙って頷き、警備兵が俺達の後ろを向いた瞬間、俺は警備兵の首に腕を回し、思いっきり右に曲げた。


ゴキッ!!


「ゔっ!?」


骨の折れる音が静かな廊下に響き渡り、俺の存在に気づいた残りの警備兵を、視線が向けられる前に牛魔王が頭を壁に叩きつける。


ドカッ!!


「ガハッ!?」

 

叩きつけられた衝撃で頭蓋骨が折れ、壁にべっとりと血が付着し、その場に力なく倒れる。


ドサッ!!


牛魔王は殺してもなお、生死確認は怠らない。


現に今も、死んでる事は見て分かるのに、首の動脈がまだ動いているか触れて確認し、動脈は動いない事の確認は取れたようだ。


用心深いと言うのか、警戒心を怠ってないと言うか、何と言うか…、俺とは違う人種って事だけは分かる。


目に見えた事だけで判断せず、何事に対しても慎重に行動する男だと、出会った当初は思いもしなったのだが…。


***


酒を飲んで酔った拍子に、牛魔王は懐かしそうな顔をして語り出す。


「俺が用心深くなったには大昔、幼少期の頃だったかな…。弱かった時の俺を可愛がってくれた人がいて、冷静に周りの状況を分析する姿に憧れたからだ」


「へぇ?お前でもそんな事を思ったりするんだな。他人に興味ない方だと思ってたけど」


「今はお前以外はそうだなぁ、他人に興味はない。けど、あの人が人間じゃなくて妖だったら良かったよ。その人さ?顔が美猿王と似てんだよ。それも結構な?」


「俺に似てる?そうかよ」


 「うわっ、興味なさそうな顔しやがって!」


牛魔王はそう言いながら俺の肩に手を回し、乱暴に頭を撫でてきた。

 

***


少し前の出来事を思い出していると、牛魔王が警備兵の制服を脱がしながら言葉を吐く。


「うしっ。コイツ等の服を脱がして、制服に着替えぞ」


「それは良いけど、転がってる死体は何処に隠すんだ?ここに置いとく訳にはいかねーだろ」


「それなら心配いらない」


クチャク、チャッ。


牛魔王がそう言うと、咀嚼音(そしゃくおん)が後ろから聞こえてきた。


振り返って視線を向けると、牛魔王の影が化け物の姿になって、二人の警備兵の死体を食べているのが見えた。


「お、お前の影って…、人とか食べるんだな…」


「何でも食べるぞー」


牛魔王は服を脱ぎながら、得意げに話しをしながら着ていた上着を脱ぐ。


何故、自信満々に答えるのだろうか。


そんな事を思いながら、黙々と警備兵の服に着替える。


普通は鎧を着ているだけだと思ったが…、思ったよりラフな服装だった。


宮殿の警備兵の服は黒の襟が大きめの長いジャケットに、右袖には沢山のベルトが巻き付ける。


中々、カッコイイデザインで、腰に刀を下げれば警備兵の出来上がりだ。


「これで動きやすいな」


「着替えも済んだことだし、いよいよ二階に向かうぞ」


「了解」


俺達は二階に向かう為、長い階段を慎重に登り始める。


二階に向かう途中に何人かの警備兵と鉢合わせたが、俺達に敬礼をして去って行った。


案外警備兵の奴等は、お互いの顔を覚えていないのかも知れないな。


一階を無事に進め、目的の二階に着くと、またしても警備兵は誰一人いなく、すんなりと武器庫に侵入出来た。


少し分厚い扉を慎重に明けて中に入ると、剣や盾に斧と鎧などが沢山あり、武器庫の武器達には鱗が付いており、武器も魚がモチーフになって、デザインされているようだ。


そう思いながら、武器庫の武器達に視線を送る。


「へー、結構あるならどうやって持って帰んの?」


「ん?そりゃあ…、俺の影をこうやって…」


牛魔王がそう言うと、影の化け物が大きな口を開けて剣と盾を飲み込んだ。


ゴックンッ!!


「おいおい!飲み込んでいいのか!?」


「大丈夫♪自由自在に操れるって言っただろ?食べるのも食べないのも操れんの。武器を影の中に閉まっただけー。美猿王もどれか武器を選んで持って来いよ」


「あぁ」


牛魔王は楽しげに、武器達に目を向け物色を始める。


そう言われて周囲を見渡すとふと、一つの棒が目に入った。


俺はその棒に近付き手に取り、ジッと見つめる。


赤い色の棒に黒い彼岸花の模様があしらわれていて、両端には金箍(かなたが)が付いている棒。


「美猿王それ、如意棒(にょいぼう)じゃね?」


「如意棒?なんだそれ」


「自分の意思で自由自在に伸縮する棒だよ。試しに念じてみたらどうだ?」


「ふーん、念じるねぇ…」


俺はクルクルッと、如意棒を回し伸びろと念じてみると、物凄い勢いで如意棒が伸びた。


「あ、伸びた」


「お、やっぱ噂の通りじゃん。便利そうだし、持ってけば?」


「おー、そうするわ…」


カチッ。


「「ん?」」


にょい棒が伸びた拍子に、壁に備えられた何かのスイッチを押したようだった。


その瞬間、大きな音と赤いライトが点滅を始める。


これだけで、事態が大事になっているのが見てわかった。


ビービービービービービービー!!!


「侵入者!!侵入者!!」


どうやら、警報スイッチを押してしまったらしい。


あ、ヤッベ…。


「あ、悪り」


「まさか、警報スイッチだったとは…」


牛魔王に謝っていると、武器庫の外から足音が聞こえた。


バタバタバタバタ!!


バンッ!!


乱暴に武器庫の扉が開けられ、入ってきた警備兵の数はザッと二十人程、警報を聞きつけて集まってきたようだ。


「侵入者を確保せよ!!」


「コイツ等、武器を持って行く気だ!!」


前方の警備兵十人が、武器を構えながら俺達を取り押さえようとした。


俺は如意棒を構え"伸びろ"と念じながら、警部兵に向かって振り回す。


如意棒が元の長さよりも長く伸び、警備兵の一人の脇腹に当たり、残りの警備兵九人を振り飛ばした。


「うわぁぁ!!」


「ガハッ!!」


「ヒュー!!やるねぇ!!」


牛魔王は口笛を吹きながら、振り飛ばされた警備兵を牛魔王の影の化け物がパクッと口に入る。


クチャクチャと音を立てながら食べていた。


「コイツ!!影の中から化け物が出て来たぞ!?」


「何だよコイツ等!!」


残り十人の警備兵達が怯えながら、各々が武器を構え直し体勢を整える。


「道を開けてもらおうかな?」


牛魔王はそう言って、パチンッと指を鳴らした。


シュシュシュシュッ!!


牛魔王の影が残り十人の警備兵達の足元に移動し、影が沢山の長い棘に変わって行く。


グサグサグサグサ!!


沢山の棘が体や足を貫き、赤い血飛沫が上がり、叫び声が武器庫の中に響き渡る。


「ギャアアアアア!!」


「痛い!!痛い痛い!!」


棘が刺さっている為、警備兵達が体を動かそうとしても更に棘が刺さり動けない状態になった。


「今のうちにここから出るぞ!!」


「了解!!」


俺達は金庫室を出て急いで、さっき入った出入り口に向かおうとした時だった。


出た瞬間、牛魔王に一人の男が素早い動きで斬り掛かる。


シュンッ!!


キーンッ!!


牛魔王は咄嗟に腰に下げていた剣を抜き、攻撃を止めた。


俺は牛魔王に斬りかかった男に視線を向けると、薄ピンク色のサラサラしたヘアーに、所々に編み込みがあり、色白の肌に紫色の瞳が目に入った。


女のような顔立ちと体付きの割に、力はあるようで、俺達と同じ軍服を来ている。


剣捌きから見て、こいつかなりやるな。


牛魔王の剣捌きに付いてこれているし、対応まで出来ている。


こいつ、男か?


天蓬元帥(てんぽうげんすい)!!」


棘に串刺しになっている警備兵の一人が叫んだ。


「困るんだよねぇー。こう言う事されると、俺の仕事が増えるじゃん?」


そう言いながら、後ろに下がり牛魔王から距離を取り、俺達に視線を向ける。


警備兵達が呼んだ名前に聞き覚えがあるらしく、こんな時に牛魔王は考え込んでしまった。


「天蓬元帥?何か聞いた事あるな…」


「牛魔王!!平気か?」


俺は顎に手を添えている牛魔王に近寄った。


「あ?平気平気。それよりも…」


タタタタタタタッ!!


「天蓬元帥!!ご無事ですか!?」


天蓬元帥と呼ばれる男の後ろから、三十人ほどの警備兵が集まった。


牛魔王はブツブツ言いながら、何か考え事をしていた。


「おい牛魔王!!かなりの人数が集まって来たぞ!?」


「あ?大丈夫だろ。俺とお前だし。もう思い出せねーからいいや」


「おいおい…、大丈夫か?」


本当に牛魔王は、お気楽と言うかなんと言うか…。


「お前等さ、ちゃんと見回りしろって俺言ったよな?」


天蓬元帥と言う男が言葉を放つと、空気が一瞬で冷たくなった。


張り詰めた空気が重苦しい、警備兵達は一気に顔に覇気がなくなった。


きっと天蓬元帥と言う男の背中から、圧を感じているのだろう。


警備兵達の顔をじっくりと見てみていると、あれは完全にビビッてる顔だ。


俺達猿と同じで、上下関係がハッキリしてんだろうな。


警備兵の一人が慌てて、天蓬と言う男に頭を下げる。


「も、申し訳ありません!!し、しっかり見回りしたつもりなんですが…。」


「言い訳を聞いてんじゃないんだよ。したつもりじゃなくて、しましたって言えない時点で出来てねぇんだ」


「す、すみません天蓬元帥…」


「ったく、おーいそこの妖怪二人。大人しく捕まってくんないかな?」


警備兵達と会話をした後、天蓬が俺達に剣を向けて来た。


「俺達は捕まる気は一切ないよ。天蓬元帥殿?」


牛魔王が挑発するように影を操り遊んで見せる。


「言ってくれるねぇ。俺より強いって言いたい訳ね?そう言うの嫌いじゃないよ?」


牛魔王は操っていた影を両側の壁に鋭い棘を反射させ、天蓬の後ろに居た警備兵達を貫き始めた。


ブジャァァァァ!!


「ギャアアアアア!」


「な、何だコレ!!」


飛び散る血の中、影を避けようとしても両側の壁に影が反射し、避ける事が出来ない様子だった。


天蓬は素早い動きで牛魔王に斬りかかろうとした。


ブンッ!!


キィィィン!!


すぐさま、俺が如意棒を使って剣の攻撃を止め、天蓬の脇腹に回し蹴りを入れた。


ドカッ!!


フワッと天蓬の体が浮いたのを確認した牛魔王は、すかさず壁に影を反射させる。


反射した影で天蓬の体を貫こうとしたが、天蓬は素早く体勢を整え影を剣で真っ二つ斬った。


ジャキッ!!


「天蓬元帥!!」


「流石です!!」


警備兵達は天蓬の姿を見て歓喜の声を上げる。


身内からしてみれば、天蓬元帥と呼ばれた男の動きは賞賛に値するもの。


「ハッ!!」


空中で一回転した天蓬が俺に斬りかかって来た。


俺の動きが少し遅かったようで、天蓬の剣の先が俺の肩に掠った。


グシャッ!!


「ッチ、痛ってぇなこの野郎!!」


ズキズキと鋭い痛みが肩全体に広がり、思わず痛みで顔が歪む。


「中々いい蹴りだったぞ。さ、お前のお連れは怪我したみたいだし、後はお前だけだな」


天蓬はそう言って、剣先を牛魔王に向けた。


この男、俺が今まで戦ってきた奴らより強いな。


クソッ、油断しちまった。


「悪りぃ、牛魔王」


俺がそう言うと、牛魔王は俺に耳打ちした。


「アイツは俺が引き受けるから、お前はあの雑魚をやれ。俺達が水中で息が出来るのに、タイムリミットがある。日の出が登る前に、ここを脱出しないといけねぇ」


「つまり、二手に分かれてここを脱出し、地上で落ち合うって事で良いのか?」


「正解。話が早くて助かる。行けるよな?兄弟」


その言葉を聞いて、さっきまで痛かった肩が痛くなくなった。


心臓が昂った。


あぁ、俺はコイツに期待されてる。 


牛魔王の期待に答えたい。


そう思い、俺は如意棒を構え直した。


「誰に言ってんだ兄弟」


「フッ、行くぞ!!」


俺は天蓬の後ろにいる警備兵達に向かって行き、如意棒を伸ばしながら振り回した。


ビュンッ!!


ブンッ!!


俺を止めようとする天蓬を牛魔王が影を操り、俺に近寄れないようにしていた。


「オラオラ!!」


「こんの妖怪共が!!」


俺は如意棒を振り回しながら警備兵の一人の剣の攻撃を止める。


左から来た警備兵の頭を鷲掴みし地面に叩き付けた。


グチャァ…。


警備兵の数はザッと十五人ちょいか。


一人一人相手にしてても拉致があかない、ここは牛魔王達から距離を引き離すか。


そう思いながら、俺は牛魔王達とは逆方向に走り出した。


「待て!!」


「追いかけろ!!」


タタタタタタタッ!!


俺の後を警備兵達が追い掛けて来たる、いつもならもっと早く走れるのに、今はうまく足が上がらない。


「はぁ…、はぁ…」


息が上がる。


いつもは息が上がらないのに何でだ?


ズキンッ!!


そんな事を考えていると、斬られた肩に痛みが走る。


ッチ!!


怪我しただけでこんなに息が上がるもんか?


俺は曲がり角を利用し、目に入った部屋に素早く入った。


バタン!!


扉の向こうで、走って行く足音が小さくなった事を確認してから座り込んだ。

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