表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西遊記龍華伝  作者: 小桃
38/39

妖怪喰いの猪八戒

天蓬元帥


毛女郎の体を赤い血が染めた。


ポタポタと音を立てながら、血は地面に滴る。


毛女郎に近付くと、体に刺さっていた黒い刃が抜かれた。


ズポッ…。


倒れそうになった毛女郎を慌てて、抱き止める。


「毛女郎!!おい!!しっかりしろ!!」


ペチペチッ!!


俺は青白くなった毛女郎の頬を軽く、叩いた。


「何で…、来たのよ」


「このまま死ぬなんて言うなよ!?黄風を殺して、ゆっくりするんだろ?」


「あははは…、私もここまでみたいね。」


毛女郎はそう言って、俺の頬に手を伸ばした。


「何…言ってんだよ。死ぬみたいな言い方するなよ。俺は、アンタを救えてないんだ。まだ、死ぬなんて許さないからな。 」


「馬鹿ね…、そんな泣きそうな…、顔をしてんじゃないの」


ググググッ…。


黄風の体が大きく膨れ上がって、行くのが目に入った。


「お、おい天蓬!!黄風の体が膨らんでるぞ」


「な、何で妾の体が膨らんでおるんだ!?く、苦しい…」


「フッ」


毛女郎は、膨らんで行く黄風を見て軽く笑った。


「貴様の仕業か…、毛女郎!!!」


パンパンに膨れ上がった黄風は!ミシミシと音を立て

ていた。


「私が何も…、考え無しに銃弾を撃ち込んだと?」


「え?い、いやァァだだぁ!だぁ!だぁ!!」


パァァァァァアン!!!


膨れ上がった黄風の体が膨らみに耐えれず、破裂した。


黄風の血と血肉が雨のように、俺達に降り注いだ。


「毛女郎がやった…、のか?」


「私の銃の弾は破裂弾よ、ゴホッ!!」


悟空の問いを答えた毛女郎は、血を吐き出した。


「毛女郎!!もう喋るな、呪いがやっと解けたんだ…。早く手当をしよう」


俺はそう言って、毛女郎の体を抱き上げようとした瞬

間だった。


毛女郎の足がなかった。


「毛女郎の足が!?ない?」


「馬鹿、よく見て見ろよ天蓬」


悟空は、冷静に毛女郎の足元を指差した。


俺は恐る恐る足元を見ると、毛女郎の足が砂状になっていた。


「お、おい毛女郎!?どうなってんだよこれ!?何で、お前の体が、どんどん砂になって行くんだよ!?」


毛女郎の下半身の半分が砂になって行く。


それに体の砂化は、どんどん早くなって来ていた。


「私はもう死ぬのよ、天蓬」


死ぬ…?


「妖は傷の治りが早くて、長命なんじゃないのかよ!?」


「毛女郎の体はもう、無理なんだよ、天蓬」


「無理…ってなんだよ。悟空、どう言う意味だよ!?」


俺がそう言うと悟空は一瞬だけ、毛女郎の方を見つめ直ぐに俺に視線を戻した。


「毛女郎には口止めされてたけどよ。今、言うわ。お前の体の臓器や心臓は全部、毛女郎の物なんだよ」


俺の心臓が毛女郎の物…?


今、こうして動いている心臓が毛女郎の物?


俺の体の中にある臓器達が、毛女郎の物だと言うのか?


「信じられないなら、聞いてみろよ音を」


悟空に促されながら、毛女郎の胸に耳を当てた。


心臓の音が…しない。


「俺には血だけを与えたんじゃないのかよ!?何で…?何で体の中身までも俺に渡したんだよ!!?」


そんな事したら…、毛女郎が死んじまうだろ?!


どうして、俺に心臓と臓器を…っ。


「毛女郎が見つけた時には、お前の臓器やら心臓が牛魔王の毒で、溶かされてたんだと」


「だ、だからって、そこまでするか…?」


「毛女郎は、お前を助けたくて仕方がなかったんだよ。そんな事はお前が痛い程、よく分かってるんだろ天蓬」


悟空の言葉は、痛いくらいに俺の心に刺さった。


分かってる。


分かってるよ。


毛女郎が俺を助けたかったんだって気持ちは、俺が

一番よく分かってるよ。


分かってる…。


だけど、だけど死ぬなんて…。


ポタッ。


毛女郎の頬に、涙が落ちた。


その涙は、俺の涙だ。


「馬鹿…、良い男が台無しじゃないか…」


俺の頬に触れていた手が、砂化していた。


サラサラと、俺の手から砂が溢れ落ちる。


「アンタは悟空と、共にここを出ておいき」


「毛女郎…。毛女郎、俺の為になんでここまで出来るんだよ…。お前が辛いだけだったじゃねーか。それなのに俺は…、何も返せてない」


あの日から、俺は毛女郎に命を救われた日から、守られてばかりだ。


毛女郎の体が、どんどん老いていた事に気が付がなかった。


黄風の呪いの所為で、毛女郎の体が苦しんでいると思っていたからだ。


呪いもあったけど、一番の原因は俺に、心臓や臓器やらを渡した所為だ。


「惚れた男の為に死ねるなんて、これ以上の幸せはないよ。天蓬…、牛魔王を絶対に倒すんだよ。それが、私の最後の願いだ」


「牛魔王…?」


「悟空」


毛女郎は、悟空の方を見て話し掛けた。


「天蓬を頼んだよ」


そう言って、毛女郎は砂になった。


砂になった毛女郎は夜空と共に消えて行った。


俺は声を出して、泣き喚くしか出来ない。


「毛女郎…っ、毛女郎!!!あ、ああああ!!!」


「お前、毛女郎の事を好きだったんだな。そんなに泣くくらいなんだから、好きだったんだろ?」


俺は悟空の言葉を聞いて、目を丸くしてしまった。


俺…、毛女郎の事を好きだったのか。


そうか…。


このどうしようもなく悲しい気持ちは、好きだったからか。


破裂した黄風の体から狐が現れた。


「お、おい。アレって黄風じゃないか?」


悟空が指を指すと、黄風は短い悲鳴を上げた。


俺と悟空を見た黄風は逃げ出したのだ。


この期に及んでまだ、逃げるのか!?


毛女郎は死んでまで、お前を殺そうとしたのに。


「あの糞女!!!」


怒りが体を支配して行くのが分かる。


今すぐ、あの糞女を殺したい。


グチャグチャにして、二度と産まれて来たいって思わせないように、壊したい。


「お、おい?天蓬…、どうした?」


悟空は不思議そうな顔をして、俺の顔を覗き込んで来た。


「…す」


「は?」


「殺す!!!!」


俺はそう言って、黄風を追い掛けた。


***


悟空は天蓬の姿を見て、驚いていた。


天蓬の姿は猪のような、豚のような姿に変化していた。


ドロドロとした獣の醜い姿に変化していたのだ。


悟空にも何故、この状況になったのか理解出来ていなかった。


怒りで我を忘れた天蓬は、姿までも妖に変化していたのだった。


天蓬は物凄い速さで、逃げ出した黄風の頭を掴んだ。


ガシッ!!!


「いや、いやあぁぁぁぁ!!!やめて、やめてぇぇ!!」


黄風は泣きながら喚き散らかす。


黄風の言葉を無視して天蓬は、黄風の右腕に噛み付いた。


ガブッ!!!


「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」


ブチッ!!


ブチブチブチブチッ!!


何かが切れる音が、悟空の耳に届いた。


天蓬は黄風の体を噛み千切る。


手、足、胴体、頭、次々に噛み千切り、その後は体をむさぼり始めた。


天蓬は死んだ黄風を尚、バラバラにした後に食べ始めていた。


その光景を見た悟空は、ある事を思っていたのだった。


***


孫悟空ー


「おいおい…!?嘘っだろ!?」


天蓬がグチャグチャ言いながら、黄風を喰ってるぞ。


妖怪が妖怪を喰ってるわ…。


あれ?確か妖って、妖を喰って良かったっけ?


確か…爺さんが昔、言っていたような…。


俺は目を瞑った。



「悟空、良いか?妖はな、同類喰いをしない生き物なんじゃ」


「同類喰いをしない?え、アイツ等は妖を喰わないの?何で?」


「説明をするから待っとれ!!妖は匂いで食べれる物と食べられない物を判断しておるんじゃよ、本能的にな。それに、妖を妖が食べたら完全に堕ちるのじゃ」


爺さんはそう言って、一本指を出した。


「そうなった妖はもう自我を保てなくなる。意思がない人形になった妖は、空腹を満たすだけの妖になる」


「堕ちた妖はどうすりゃ良いの?殺せば良い訳だろ?」


「もし悟空に妖の友達が出来て、その友達が妖を食べてしまったら同じ事が出来るのか?」


その時の俺は、爺さんが何故この質問をしたのか分からなかった。


「そうなったら、其奴にまとっとる邪気を祓ったれば良いんじゃよ。そうすれば、元の姿に戻るんじゃ」


「は、はぁ?俺にそんな祓う力なんかねーぞ」


「そんな事は知っとる。祓える奴が祓えば、良い話じゃよ。ま、その内そうなるさ」



確か…、祓える奴に祓えさせば良いって、言ってたな。


三蔵しかいねーよな。


三蔵の野郎を、こう言う時に使えねーな。


三蔵が来るまで時間を稼ぐしかない。


俺は如意棒を伸ばし、天蓬の脇腹部分を叩き、黄風から引き剥がした。


ドカッ!!!


ガシャーンッ!!!


近付くにあった建物に天蓬を投げ飛ばした。


天蓬を堕とす訳にはいかねー。


毛女郎だって、天蓬にこうなって欲しかった訳じゃない。


天蓬に助かって欲しくて、毛女郎は死んでまでアイツを守ったんだ。


「しっかりしろよ天蓬!!黄風はもう死んだんだ!!」


「ガルルルルッ…」


天蓬の姿は豚のような姿で、四つん這いになって唸っていた。



俺の顔を殺意に満ち溢れた瞳で見て来た。


コイツ…、自我がないのか?


いや毛女郎の死を目の前で見て、気に触れたのかもしれない。


「お前がそうなる気持ちは分かるよ天蓬。俺だって目の前で爺さんが殺された時、お前と同じようになった」


唸る猪八戒を見ながら、言葉を続ける。


「だけど、爺さんが俺を俺でいさせた。毛女郎だって、お前にこうなって欲しくて、死んだんじゃねーぞ!!」


俺はそう言って、如意棒を構えた。


「来いよ、天蓬。特別に俺が、お前の八つ当たりの相手をしてやる」


「ガルルルルッ!!!ガウッ!!!」


ドドドドドドドッ!!


天蓬が俺に向かって、突進して来た。


長い二本の角を俺に突き刺そうと、頭を引くくさせていた。


「ハッ!!」


ブンッ!!!


ドカッ!!!


俺は如意棒を回し、二本の角を砕いた。


バキバキバキッ!!!


「グギギギギギッ!!!」


角は音を立てながら砕け、天蓬は苦痛の声を上げた。


「さっさと戻って来い天蓬。お前のあだ名が.豚野郎になっちまうっぞ!!」


そう言って俺は、天蓬の首元に如意棒を強く叩き付け

た。


ドゴォォォーン!!!


ゴキッ!!


「ギュイッ!?」


「お?効いてるみてーだな、天蓬」


ギュウウッ!!


腕が締め付けられる感覚がした。


腕を見ると三蔵が着けた金色の腕輪が、手首を締め付けていた。


この感覚がするって事は…。


タタタタタタタッ!!!


屋根から飛び降りて来た三蔵は、長い数珠と手を九字に切った。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・《りん・びょう・とう・しゃ・かい・じん・れつ・ざい・ぜん)》!!!」


三蔵がそう言うと、天蓬の体の動きを止め体を締め付けた。


バラバラバラバラ!!


そのまま三蔵は、天蓬の周りに数枚の札を配置させ、

指を素早く動かした。


札からは白い雷が現れ、天蓬の体に雷を落とした。


ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!


「急急如律令!!!」


ドゴォォォーン!!


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


大きな雷が天蓬の体に落ちると、少し焼けた人間の姿をした天蓬が地面に倒れ込んだ。


バタンッ。


「はぁ、はぁ…、間に合って良かった」


「テメェ、三蔵!!お前どこにいやがった!?」


俺は三蔵を怒鳴り付けた。


「ちょ、ちょっと待てって。そんなに怒らなくたって良いだろ?!」


「怒るに決まってんだろうが、この馬鹿が!!」


「馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ、馬鹿!!」


俺達が言い合いをしていると、誰かがこちらに向かって歩いてくるのが分かった。


「あ?誰だあれ?」


「お、来た来た」


「来たって誰が?」


俺がそう言うと、三蔵が歩いて来る人物に近寄り手

を引いてこっちに向かって来た。


手を引かれて現れたのは、黒風だった。


「黒風?!何で、お前が…?」


ハッと我に帰った俺は、黒風に向かって如意棒を振り

かざそうとしたが、三蔵が黒風の前に立った。


「何してんだ、三蔵」


「待てよ悟空!!俺の話を聞いてくれ!!」


「あ?」


「っ!!」


三蔵は俺の顔を見て、ビクッと体が揺れた。


***


源蔵三蔵 十九歳


こんな冷たい顔を見た事がなかった。


内に殺気を秘めているけど、静かな瞳。


黒風が牛魔王の仲間だから、こんな顔をしてるんだ。


それに俺が止めたのも、悟空は理解出来てないだろう。


それは当然な事だ。


悟空は、黒風がここに来た理由を知らないんだから。


黒風の事だけは、誤解を解いてやりたい。


「黒風はお前を助けにここに来たんだ!!牛魔王の目を盗んで、ここまで来たんだ」


「俺を助けに?お前、何か企んでるじゃねーだろうな、黒風」


俺の話を聞いた悟空は、後ろにいる黒風を睨み付けた。


「どうしたら信じてくれる?ご、悟空さん」


黒風は目に涙を浮かべながら、悟空に懇願した。


悟空は冷たい顔のまま口を開いた。


「なら、今ここで自分の指を折れよ」


「なっ!?ご、悟空!!いくらなんでも、それは酷いだろ!?」


ガッ!!!


俺がそう言うと、悟空は胸ぐらを掴んで来た。


「甘ったれな事言ってんじゃねーぞ三蔵。今、俺は苛々してるのが分かるよな?黒風が本気で、俺の事を助けに来たって、保証はどこにもねーんだよ」


「そ、それは、そうだけど…」


「なら、奴が本気で俺を助けに来たなら折れるよな?妖なんだから、折れてもすぐ再生すんだろ。」


悟空の言ってる事は、ごもっともだ。


確かに黒風が、嘘をついてる可能性はある。


「だけど、あの目を見たら、嘘なんか付いてないって思ったんだよ」


「演技なら誰でも、出来るだろ」


悟空は乱暴に、俺の服の胸元から手を離した。


そのまま少し大きめの石を拾った悟空は、しゃがみ込んでいる黒風の前に転がした。


「ほら、拾って来てやったから、さっさとしろ」


「こ、これをしたら信じてくれますか…?」


「さぁな、それはお前次第だろ」


悟空がそう言うと黒風は石を持ち上げ、自分の指に叩き付けた。


ゴンッ!!


痛そうな音が耳に届く。


黒風は苦痛の声を出しながらもう一度、指を叩き付けた。


「おい!!ご…」


俺が悟空に声を掛けてると、悟空は黒風の前まで歩いていた。


そして黒風は再び、指に石をぶつけようとしたのを悟空が止めた。


パシッ。


黒風の指がボンボンに腫れ上がり、指の方向が少しおかしな方に向いていた。


涙を流しながら、黒風は悟空の顔を見上げた。


「ご、悟空さん…?」


「悪かったな、黒風。お前の事を試すような事を言って」


悟空はそう言って、黒風の指に自分の指を噛み切り、血を指に垂らした。


すると、指の傷が見る見る内に治って行った。


「俺の事、まだ好きでいてくれたんだな黒風。ここまで来てくれて、ありがとうな黒風」


悟空がそう言うと、黒風は泣き崩れた。


その光景から目が離せなかった。


悟空は黒風を疑ってなんかなかったんだ。


黒風がどこまで本気なのかを測ったんだ。


例え、やり方が汚いとしても悟空は確かな感情を確かめたかったんだ。


黒風が自分に対して抱いている好意を。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ