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西遊記龍華伝  作者: 小桃
23/51

壊れた母親と再会 弐

陳 江流 七歳


女は俺の手を引きゆっくりと、山道を歩いた。


トントントンッ。


優しい小幅と安心する背中。


ボーッと女の背中を見つめていると、女が振り返って来た。


「歩くの早くない?大丈夫かしら?」


「え!?あ、大丈夫」


「そう?なら良かった、名前はなんて言うの?」


「江流」


「江流…ね、私にもね?息子がいるのよ。」


女はそう言って、悲しげな顔をした。


「今は一緒にいないのか?」


俺がそう言うと、女は驚いた顔をした。


「何で、そう思ったの?」


「そう顔に書いてあるから、当たってる?」


俺の問いに女は黙って頷いた。


「生きていたら、私の子供も江流と同じ歳なのよ?」


「生きていたら?それはどう言う事なの?」


「…、私は自分の子供を…。助ける為に川に捨てたのよ」


ドクンッ!!


川に…捨てた?


俺と同じだ。


俺も川に捨てられて、お師匠に拾われた。


この安心感と共通点は、何か繋がりがあるのか?


なんだこの…、妙な感じは。


違和感と言って良いのか分からない。


この女が言っている事と、俺の境遇が似ている。


そんな事を考えていると、女は足を止めた。


「見て、あの先を真っ直ぐ行ったら着くわ」


そう言って、女は視線を前に向けた。


「あの先には私は行けないから、ここまでだけど…。気を付けて行くのよ、江流」


ズキンッ。


女の顔があまりにも、優し過ぎるから胸が痛かった。


「ありがとう」そう、素直に言えれば…。


そんな事を口に出せない俺は、裏腹の言葉を口に出した。


「ここから、早く離れた方が良いよ」


「え?」


「俺は、もう行くから早く行けよ」


「えぇ…、分かったわ」


俺は女が早く、この場からいなくなるように促した。


その理由は他にもあるからだ。


女と山道を歩いてるいる時に、微かだけど妖気を感じていた。


暗くなると妖怪の動きが活発になる。


早く暗くなる前に女を山から、下ろしたかったんだ。


「じゃあな」


俺はそう言って、女に背を向け再び山道を歩き始めた。


少し歩いてから後ろを振り返ると、女の姿はもうなかった。


何だよ、さっさと降りて行ったのかよ。


俺が行った後に山道を下りて行ったか…。


クルッと、俺は前を向き直し歩き出した。


暫く山道を歩いていると、大きな岩に包まれた山が幾つかあるなが見える。


手を伸ばせば、空が届きそうな程に空が近く見えた。


「ここにバイモがあるのか」


こんな岩だらけの中に、薬草なんて生えてるのか?


「…、探すしかないよな」


俺は腰を低くしながら、岩を掻き分けバイモを探し始めた。



探し始めてから数時間後ー


ガリッ!!


指に鈍い痛みが走った。


「っ!!」


指に視線を下ろすと、岩の破片で爪が割れ血が出ていた。


ビュー!!


冷たい風が吹き出した。


山頂は気温の変化が激しく、さっきまで暖かった風も今は冷たくなっていた。


指先も、脈を打つ度に鈍い痛みが走る。


ブルブル震える指を吐息で、温めながら岩を掻き分けた。


「ない…、ない。どこにもないっ」


本当にバイモはここにあるの?


ガリッ、ガリッガリッ。


岩同士がぶつかる音が耳に響く。


寒い、痛い、寒い、痛い。


辛い、帰りたい、帰りたい、辛い。


掴んでいた岩を地面に置いて、俺はその場で蹲った。


「しっかりしろよ!!俺。俺が自分の意思で決めてここにいるんだろ…」


パチンッ!!


俺は自分の頬を思いっきり叩いた。


「うっし!!やってやる!!」


そう言って、近くにあった少し大きな岩を持ち上げた。


すると、そこに黄緑色の花が現れた。


岩の中に咲いていたのに花弁には、傷一つなかった。


バイモは岩と岩の間に咲く薬草だ。


この黄緑色の花はバイモだ。


「あった…、あったぞ!!」


やっと見つけた!!


ブチッ。


俺は優しくバイモを摘み袋に締まった。


ゾワゾワッ!!


背中に寒気が走り、全身に鳥肌が立つ。


この感じは…。


カチャッ!!


俺は札とお師匠から、貰った霊魂銃を構えた。


気持ち悪い寒気は…、妖気だ。


俺のいる場所に妖気が集まって来てる…。


ザザザザザザッ!!!


何人かの足音が聞こえる、囲まれたか?


木の影から現れたのは、やはり妖だった。


妖の数は…、ザッと十人程か。


「あのガキが"例"の?」


「あぁ、毘沙門天様の言っていたガキだ」


妖怪達が俺を見て、ヒソヒソと小声で話していた。


毘沙門天?


例のガキ?


一体…、何の話をしているだコイツ等…。


会話の内容からして、俺の事を狙っているのが分かる。


「っ!?」


後ろにいた妖怪の一人がさっきまで、一緒にいた女の

髪を乱暴に掴んでいた。


もしかして、さっき別れた時に妖に捕まった…のか?


だとしたら、俺の責任だ。


俺がちゃんと、あの時に断っておけば良かったんだ。


カチャッ。


俺は妖達に霊魂銃を向けた。


「おいガキ、何向けテンダァ?あ?」


妖の一人が俺に睨みを効かせながら、近付いて来た。


俺はすぐさま、霊魂銃の引き金を引いた。


パァァァァン!!!


ズシャッ!!!


妖怪の体に大きな穴が開いた。


大きな穴からはポタポタと、音を立てながら血が垂れている。


ドサッ。


俺に近付いて来た妖が地面に倒れた。


「お、おい。あのガキが持っているのは霊魂銃か!?」


「そんな情報なかったぞ!?」


俺が持っている霊魂銃を見た妖怪達に焦りが見えた。


もしかして…、妖達の狙いは俺なのか?


何で、俺を狙って来た?


理由は分からないけど、最優先は妖達を倒す事!!


「その人を離せ。関係ない人を巻き込むな。」


そう言うと、妖達が怒り出した。


「こんのガキ!!調子に乗りやがって!!」


鬼の妖怪が叫びながら、俺に飛び掛かって来た。


怒りに身を任せた妖怪程、動きが団長になる。


俺は素早く指を動かし、札を地面に貼り付けた。


ダンッ!!


音爆螺旋オンバクラセン


チャリンッ。


地面に貼り付けた札から、光の鎖が現れ鬼の妖怪の体

を拘束した。


上から鳥の妖怪が、クチバシを尖らせながら俺の背後に飛んで来た。


「背中がガラ空きなんだよ、小僧!!」


「それは俺の台詞だよ」


チャリンッ、チャリンッ。


俺がそう言うと、鳥の妖怪の体を光の鎖が縛り上げた。


「なっ!?ど、どうなってるんだよ!?」


鳥の妖怪が驚きながら俺に尋ねて来た。


「俺が札を1枚だけ使ったと思ったの?そこまで馬鹿じゃないよ。」


鬼の妖怪と鳥の妖怪が動く度に光の鎖が体を縛り上げる。


「何してんだよ、お前等!!」


「俺達を助けろよ!!」


鬼の妖怪と鳥の妖怪が仲間の妖怪達に向かって叫んだ。


「あ、あぁ!!」


「一斉に、飛び掛かるぞ!!」


ビュンッ!!!


仲間の妖怪達が、俺に一斉に飛び掛かって来た。


俺は素早く指を動かして札を地面に、もう一度貼り付けた。


ダンッ!!


「音爆螺旋」


光の鎖が妖怪達の体を拘束し、素早く俺は霊魂銃の弾を妖怪達の頭に向かって引き金を引いた。


バンバンバンバンッ!!


飛び散る血の中にらさっきの女が目に入った。


女の背後から、金髪のふわふわな髪を靡かせた女が、歩いて来た。  


ガシッ!!


「いや、いやっ!!やめて!!!ヴッ!?」


金髪の女が黒髪女の髪を乱暴に掴まれ、何かを無理矢理飲ませていた。


ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ…。


「ギャアアアアア!!」


飲まされた瞬間、女が悲鳴を上げた。


な、何が起きてるんだ?!


ボキ、ボキボキボキボキ!!!


ブシャ、ブシャ!!


女の体から骨の折れる音が響き渡り、地面に血が飛び散る。


金髪の女の姿がいつの間にかなかった。


「だ、大丈夫!?」


俺は慌て女に近付いが、女は背中を押さえたまま地面に蹲っていた。


相当、背中が痛いのだろう。


俺が女の背中に手を伸ばそうとした時だった。


グサッ!!


手のひらに激痛が走った。


俺は恐る恐る自分の手のひらに視線を向けると、骨のような尖った物体が手のひらを貫いていた。


ほ、骨?


どうして骨が?


女の背中から、大きな羽の形をした骨の羽が生えていた。


「ギャァァァァァ!!!」


ボキボキボキボキ!! 


ブシャッ、ブシャ、ブシャ!!


女は再び悲鳴を上げると、女の体から沢山の骨が生えて来た。


右肩から男の頭が生えていた。


もはや、人の形を留めていなかった。


俺の目の前にいるのは化け物で、異様な存在そのもの。


何なんだよ、あれ…っ。


ヤバイ…。


こんな化け物を俺は見た事がない!!


急いで手のひらに刺さった骨を抜かないと!!


俺は手のひらに刺さった骨を掴んだ。


グラッ!!


手のひらに刺さった骨が動き出した。


ゴンッ!!


俺の体が浮き上がり、地面に思いっ切り叩き付けられた。


「ヴッ!!オェ!!」


胃から込み上げて来た物を吐き出す。


ビチャァァ!!


胃液と血液が混ざった物が吐き出された。


肺と胃が押し潰されたのか、めちゃくちゃ痛い。


呼吸をするだけでも、すごく苦しい。


「はぁ…、はぁ…!!」


何なんだよ…、あの女…。


もしかして妖だったのか?


いや、だとしたら女と会った時に妖気を感じた筈だ。


女と会った時には感じなかった。


間違いなく人間だった。


「ヴ…。温嬌…。私の…子供は…だ?」


右肩に生えている男の頭が喋り出した。


温嬌?


温嬌って誰の事を言っているんだ?


ゾワゾワゾワゾワッ!!


そんな事を考えていると再び背中に寒気を感じた。


さっきの妖気とは比べ物にならない妖気だ。


何だよ…、この感じは!!


感じた事のない妖気だ。


さっきの妖怪達よりも、もっと恐ろしい何かが来る!!


コツ、コツコツ…。


俺の後ろから足音が聞こえて来た。


「温嬌って言うのは、その女の事さ。」


俺は恐る恐る後ろを振り返ると、そこにいたのは…。


孫悟空の本に描かれていた通りの男だった。


絵と全く同じの男…。


嘘だろ?


何で…、何で。


「牛…魔王」


そこにいたのは、恐ろしい妖気を放った牛魔王だった。


「久しぶりだなぁ?金蝉。あー、今は江流だった

か?嬉しいだろ?お前の母親が目の前に現れてさー」


牛魔王はそう言って、俺の横にしゃがみ肩を組んで来た。


母親…?


この人が?


俺の母親?


「う、嘘だ。嘘だ!!」


俺は女から目線を逸らしながら呟いた。


「しっかり見ろよ。」


ガシッ!!


牛魔王は俺の顎を掴んで女の方に向けた。


「あの右肩の男はお前の父親なんだよ。背中やあちこちに生えてる骨はお前の父親の物なんだぜ?後は妖怪の死骸から取った骨とかくっ付いてるんだっけ?」


「な、何を言って…」


「死んだ親に会えてどんな気分?」


「死んだ?」


「あー、知らなかったの?」


俺の両親が死んだ?


死んだ親と会えて嬉しい?


もう、これ以上聞きたくない…。


「俺が、お前の親を殺したんだよ」


俺の耳元で、信じられない言葉を牛魔王が囁いた。


殺した…?


牛魔王が俺の両親を殺した?


「ギャァァァァァ!!!」


女が再び、大きな悲鳴を上げた。


叫ぶ女の姿は、血に飢えた獣ものように暴れ回る。


体の至る所の肌が破け、動く度に血が噴き出す。


「ほら、お前の母ちゃんも喜んでるぞ?ホラホラ、よーく見てやれよ?」


ガシッ!!


牛魔王はそう言って、俺の髪の毛を乱暴に掴んで、左右に揺らした。


「坊さんなら、妖怪は退治しねぇとな?」


「え?」


牛魔王は俺の服の首元を掴み、女の目の前に投げた。


ドサッ!!


地面に強く叩き付けられた。


「ホラホラ、見ててやるからやれよ。妖怪退治」


そう言って、牛魔王は不敵に笑った。


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