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西遊記龍華伝  作者: 小桃
17/23

落とされた猿 参

開かれた扉の先は円形闘技場で、観客席に沢山の神々達が座っていた。


そして、前方には五人の顔を隠した神達が玉座に座っていた。


真ん中の玉座に座っているのが天界の中でも一番位が高い天帝が座っており、右隣には如来ニョライ、左隣には如観音菩が座っていた。


如来の隣に明王ミョウオウ、観音菩薩の隣には天部テンブが座っていた。


座っている神々達は、孫悟空をジッと見つめていた。


「なんだ、この人数の多さは。」


孫悟空が観客席を見ながら呟くと、首輪の鎖を持った兵士が思いっきり鎖を引っ張った。


グラッ!!!


バランスを崩した孫悟空は、勢いよく地面に倒れた。


バタンッ!!!


「「アハハハ!!」」


「彼奴め、何にも無い所で転びおったわ!!」


観客席に座っている神々達が、一斉に笑い出した。


孫悟空が転んだ姿を見て神々達は大笑いしている。


お祭り騒ぎで笑っている訳ではなく、孫悟空を馬鹿にして笑っていたのだった。



そんな神々達を後ろから天蓬と捲簾は見ていた。


「何だよ、この悪趣味な笑いは…」


捲簾は怒りを露わにして呟いた。


「美猿王を寄って集って、馬鹿にしてんな…。抵抗出来ないのを良い事に…」


「中々酷いモンだな」


天蓬と捲簾は、笑い続けている神々達を見て引いていた。



牛魔王と毘沙門天は、一番見えやすい席で孫悟空を見ていた。


垂れ下がった長い赤色の布で、牛魔王と毘沙門天の姿が見えないようになっていた。


「アハハハ!!これは傑作だなぁ…」


「実に愉快です。あぁ、本当に面白い」


牛魔王はそう言って爆笑し、毘沙門天も同じように笑う。


毘沙門天と牛魔王が笑っている姿を見て、黒風は引いていた。


黒風からしたら、仲の良かった牛魔王が美猿王を裏切り、濡れ衣を着せている事が理解出来ていなかった。


『この人達は、どうしてこんなに笑えるんだ?』


と、黒風は心の中で思っていた。


「あ、牛魔王に紹介したい者がいるのですが…。宜しいでしょうか?」


毘沙門天はそう言って、牛魔王に尋ねた。


「俺に?別に構いませんが?」


「ありがとうございます」


牛魔王の返事を聞いた毘沙門天は視線を後ろに向けた。


すると、垂れ下がった長い赤色の布を避けながら

一人の女が現れた。


十六歳程の年齢の女の子で、黒いチャイナドレスを

着た哪吒太子が現れた。


哪吒ナタク。牛魔王に挨拶なさい」


「はい」


そう言って哪吒太子は牛魔王の方に体を向け、牛魔王の前で膝を付いた。


「お会い出来て光栄です」


そう言って、哪吒太子は顔を上げて牛魔王の顔を見つめた。


「こちらこそ、会えて光栄ですよ。毘沙門天の娘か?」


「はい。哪吒は今までで1番出来が良いんですよ。哪吒を大将にした部隊が、もうすぐ出来上がるんです」


哪吒太子と毘沙門天の関係性は、表向きは親子に見せかけ、裏では戦闘道具として使われていた。


毘沙門天は強い戦闘部隊を作るべく、海の深海にある宮殿で研究が行われていた。


今、牛魔王の目の前で膝を付いている哪吒太子は研究が成功した事の証。


「へぇ…、どんな部隊なのか聞きたいな」


「是非、貴方にも協力をお願いしたいと思っていたんですよ」


牛魔王と毘沙門天が話している中、哪吒太子は視線を別の方に向けていた。


向けた視線の方角に孫悟空の姿があった。


「あの人…。あの時の…」


哪吒太子は孫悟空と会った事を覚えていた。


孫悟空の姿があの時から、哪吒太子の頭から離れなかった。


その理由は分からないまま、哪吒太子は日々を過ご

していた。


ただ、孫悟空の姿を黙って見つめていたのだった。


***


孫悟空 十八歳


コイツ等…、俺の事を馬鹿にしてるのか?


俺が転んだら、一斉に笑い出して…。


悪意のある笑いが会場に響き渡り、異様な雰囲気を漂わせている。


「お前が、美猿王か」


不意に声を掛けられ、視線を前に向けた。


顔が見えないが、声からして男だろう。


「だったら?」


俺がそう答えると、首輪に繋がった鎖を持った兵士が俺の背中を踏みつけた。


ドンッ!!


「ヴッ!?」


「無礼な答え方をするな!!!このお方は天帝様であるぞ」


「天帝?」


天帝って確か…、天界の中で一番偉い人だったけ?


爺さんがそう言ってたような…。


「須菩提祖師が言っていた通りの男だな」


爺さんの名前を聞いて、耳がピクッと動いた。


「爺さんの知り合いなのか!?」


俺は兵士の足を勢いを付けて、背中から退かし立ち上がった。


「あぁ、須菩提祖師とは古くからの仲でな?」


「天帝。それ以上、この下等生物と口を聞くのは辞めて下さい」


天帝と呼ばれた男の右側に座っている男が、太々しい声を出した。


俺が…、下等生物だと?


「如来に怒られてやんのー」


「観音菩薩!!」


観音菩薩と呼ばれた人物は、足を組みながら如来と呼ばれた男を見てケラケラ笑っていた。


明王と観音菩薩が、俺の前で軽い口喧嘩をしていた。


何なんだよ…、一体。


「ニ人共、いい加減にして下さい。そろそろ始めたいのですが?」


観音菩薩の右隣に座っている男が、冷静に言葉を放った。


「天部の言う通りだな。では、罪人美猿王の裁判を始める」


天部と言う男に怒られた如来がそう言うと、笑っていた神々達が一斉に口を閉じた。


裁判?


「罪人って…、俺が?」


「お前しかいないだろう?お前は須菩提祖師と弟子達を殺し、不老不死の術を自分の体に掛けただろう?」


明王の言葉を聞いて、俺は腹がたった。


何故なら、事実と違うからだ。


俺は爺さんを殺していないのに、俺が殺した事になっている。


牛魔王が殺したのに、どうして俺が殺した事になってんだよ…。


そう思った俺は、大声を出した。


「俺が爺さんを殺した?ふざけんな!!爺さんを殺したのは牛魔王だ!!!」


「だ、そうだが?牛魔王よ」


明王がそう言うと、長い赤い布が垂れている所から牛魔王が現れた。


「牛魔王!!テメェふざけんなよ!?」


俺がそう言うと、牛魔王はフッと軽く笑った。


「何を可笑しな事を言ってるんだよ美猿王。お前のした事を俺のした事にするんじゃねぇよ。俺以外にも証人はいるんだぜ?」


そう言うと、牛魔王の隣から毘沙門天が現れた。


「牛魔王の言う通りですよ。我々はこの目で見たのですから。美猿王が須菩提祖師や弟子達を殺した姿を!!」


毘沙門天は俺の方の指を刺しながら叫んだ。


コイツ等!!!


俺に罪を擦り付けようとしてるのか!?


二人して、汚ねぇ真似しやがって!!


「ふなにざけんなよお前等!!お前等が爺さんと才達を…。俺の目の前で殺しただろうが!!何もしてない健水と楚平を殺しただろうが!!!」


俺がそう言うと、神々達がヒソヒソと小声で話し出した。


「美猿王の言っている事は、本当なのか?」


「美猿王のあの慌てようは、一体…」


ザワザワザワ…。


俺の言葉を聞いた神達の疑心暗鬼の声で、会場が一気に騒ついた。


「騙されないで下さい!!!」


「っ!?」


毘沙門天が、一際大きな声で叫んだ。


騒ついていた会議が静まり、毘沙門天は言葉を続ける。


「皆さん騙されてはいけません。この男のして来た事を思い出して下さい。美猿王は自分の山を大きくする為に数々の山猿達を殺し、金金財宝や酒を盗み、私利私欲の為に殺しさえ躊躇しなかったこの男が!!」


毘沙門天は、更に大きな声で演説を続けた。


「美猿王の体に刻まれた刻印こそが!!不老不死の術を自分の体に掛けた証拠ではありませんか!!美猿王の言葉に耳を傾けてはいけませんよ。此奴の放つ言葉は嘘しかありません!!!」


毘沙門天の隣にいる牛魔王が不敵な笑みを浮かべた。


コイツ等!!


嘘をツラツラと並べやがって!!


俺の中の怒りがグツグツと、音を立てながら湧き上がって来た。


「毘沙門天の言葉に、一理ありますな」


「そうでしょう!?明王様。」


明王と呼ばれた男が毘沙門天の言葉に賛同した。


「た、確かに…」


「危うくあの男に騙される所だった…」


「其奴を処刑すべきです!!」


会場にいる神々達が、各々が発言しながら叫んだ。


毘沙門天の言葉で、会議にいる奴等の意思を変えやがった!!?


ここにいる奴等は、俺自身がどうなっても良いんだ。


確かに、牛魔王が爺さんを殺した姿をこの目で見たのは俺しかいない。


俺しか知らない真実を、この場で説明しようが信じられないだろう。


毘沙門天が、そう言う空気を作り出したからだ。


俺が何を言っても、嘘だと聞こえるように。


毘沙門天が健水と楚平を殺した姿を見たのも俺しかいない。


爺さんは初めて会った時から、俺の言葉を疑いもしなかった。


爺さん…。


頭の中に爺さんが、俺に不老不死の術を掛けた光景が蘇った。


「斉天大聖になりなさい。悟空…、この世界を変えてくれ」


爺さんの言葉を思い出した。


爺さんは分かっていたんだな、表向きは美しい神々達の裏の顔を…。


この世の美しい部分と汚い部分が存在する事を。


今、目の前にいる神達の方が化け物だ。


爺さん、俺はコイツ等を許せねぇよ。


「お前等の方が化け物だ!!神なら些細な言葉でも聞くべきだろうが!!真実さえ見えてないお前等は、神じゃねぇ!!」


そう言って、目の前に座っている天帝を睨み付けた。


***


その光景を天蓬と捲簾は、睨みを効かせながら見つめていた。


天蓬と捲簾は孫悟空の話している表情を見て、本心を言っていると分かっていた。


「何で、誰も美猿王を信じてやらないんだよ。こんなのおかしいだろ!!」


ドンッ!!!


捲簾はそう言って、近くにあった柱を叩いた。


「毘沙門天がこの空気を作ったんだ。美猿王が何を言っても通じなくなってる。凝った芝居をしやがるよ、毘沙門天は」


天蓬と捲簾がそんな話をしていると、美猿王の声が会場中に響いた。


「お前等の方が化け物だ!!神なら些細な言葉でも聞くべきだろうが!!真実さえ見えてないお前等は神じゃきにぇ!!」


シーン…。


美猿王の言葉が会場を再び静けさを戻した。


天蓬と捲簾は、美猿王の言葉を聞いて体が震えて上がった。


「アハハハ!!アイツやるな!!天帝の目の前で正論を言いやがった!!」


そう言って天蓬は笑いながら、観客席に座っている神々達の前に立った。


捲簾と笑いを堪えながら、天蓬の隣に立った。


「天蓬元帥と捲簾大将!?」


「な、なんで前に出たんだ!?」


突然現れた天蓬と捲簾の姿を見たの神々達は、驚き再び騒ついた。


ザワザワザワ…。


「もっと言ってやれ!!!お前の言葉を俺は信じる!!」


捲簾はそう言って、美猿王を見つめた。


「俺も信じるぜ美猿王!!お前の言葉を聞いて俺達の心は震えたぜ!!」


捲簾と天蓬はある意味、大きな賭けに出たのだ。


何故なら、美猿王の言葉とあの男の存在があったからだ。


「な、なんだ?あのニ人?」


美猿王はポカーンッとした顔で、捲簾と天蓬を見つめた。


この時、美猿王は状況を飲み込めていなかった。


何故なら、美猿王の放った言葉はもう一人の人物の

心と行動を奮い立たせたのだ。


***


一人の男が円形闘技場に続く長い廊下を走っていた。


「お、お待ち下さい!!!」


「待たねーよ!!美猿王の事をほっとける訳ないだろ!!それより、どうして、今日の事を黙ってた。」


追い掛けくる使用人に向かって男は足、を止めて言葉を放った。


「そ、それは…」


「どうせ、毘沙門天の仕業だろ。お前、金貨に眩んだんだろ」


男が使用人にそう冷たく言い放つと、使用人の顔色が見る見るうちに青く染まった。


男は使用人を無視して、円形闘技場の入り口の扉を開けた。



***



孫悟空 十八歳


あのニ人は何なんだ?


俺の…味方をしてくれたのか?


青髪の隣にいるピンク髪の男は…確か、宮殿の時の?!


「天蓬元帥!!捲簾大将!!」


毘沙門天が汗をかきながらニ人の名前を呼んだ。


あの、毘沙門天が焦りを見せている?


ニ人は恐らくだが、この中でも権力がある人間だ。


そんな二人がいきなり、俺の肩を持つような発言をしたから焦っているのか?


バンッ!!


左側のドアが勢いよく開いた。


俺は開かれた扉に視線を向けると、男が立っていた。


そこに立っていた男は、襟足の長い黒髪に少し長めの前髪から深海のような深い青い瞳を覗かせ、左耳には煌びやかな耳飾りが沢山付いていた。


ん?


アイツ、俺の方を見てるな…。


どこかで会った事があるような…。


「美猿王は…、孫悟空は、本当の事を言ってるぞ毘沙門天!!!」


男がそう言うと、毘沙門天は苦虫を噛み締めた顔をした。


金蝉童子コンゼンドウシ!!お待ち下さい!!」


金蝉と呼ばれた男の後ろから、使用人が慌てて出て来た。


「このような場面でそのような発言は…。」


使用人はそう言って金蝉を円形闘技場から出そうとしていた時、使用人の行動を止めるような言葉をある人物が放った。


「遅かったかな金蝉。お前の救いたい男なのだろう?」


そう言ったのは、観音菩薩だった。

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