第8話 冒険者アーシュ・サカキ
フォルカナでのアーシュの冒険者としての生活が始まった。
冒険者としての仕事は多岐にわたる。いわゆる何でも屋。
人探し、物探し、商人の護衛、場合によっては建築現場の手伝いや犯罪者の確保、賞金首狙い、そして魔物や魔獣退治など、本当にいろいろな依頼がある。
アーシュはあえて人気のない薬草採取や力仕事の手伝いを中心に依頼を受けてこなしていく。ギルドでたむろして日銭稼ぎをしているような冒険者からは良い子ちゃんのアーシュなどと揶揄されていたが、ギルドや街の住人からの評判はどんどん良くなっていた。
「アーシュ君、このまま行けば最年少下級合格も近いってギルドで話題になっているよ?」
「ミキナさん、それはありがたいですね」
「溜まってた依頼もほぼ消化できて、マスターも上機嫌で私達も感謝してるのよー」
「俺も金が稼げてちょうどいい」
アーシュは他の冒険者から極端にヘイトを受けないように面倒くさくて皆が受けない依頼を受けるようにしている。薬草集めや重労働系を受けている。結果として不人気でありながら需要のある仕事が消化されていくことになっていく。悔しいから陰口を叩いている冒険者達も、アーシュの活動を通して冒険者に対する風当たりの変化を感じており、ほんの少しだけアーシュに感謝をしていたりしていなかったり。
アーシュが順調に街での評判をあげているが、やはり街で生活をしていると不愉快な光景を見かけることは珍しくなかった。奴隷をモノ扱いする人々、いたずらに動物を傷つける人々、それらはこの世界で当たり前の光景で、アーシュ以外の人は何ら疑問にも感じていない。
リョウマとしての活動は、本当にほそぼそとしたものだ。夜の闇に紛れて奴隷たちが夜風に震えていれば布や温かなスープをそっと置いておいたり、傷ついた動物を治療したり、あまり派手に動いて話題になってしまえばまだなんの力もないリョウマの活動を邪魔してしまうことに繋がりかねない。今は、まだ、耐える時だった。
具体的にどうすればいいのか、アーシュはまだ悩んでいたが答えは見つからなかった。京一のように再び亜人たちを集めて力を持っても、過去と同じように呪術を保つ人間たちによって粛清されてしまう。
高いの可能性は、過去の文明時代に存在した魔法の復活……
そのためのパーツがまだ、何も集まっていない……
「あら、珍しいわね討伐依頼?」
「ええ、ここ数日ずっと残っていたので」
「ああ、ゴブリンだからね、それに報酬も結構渋い……本当にやってくれるなら嬉しいけど」
「良いですよ」
「さすがアーシュ君、依頼日は……結構前ね、最悪もう……」
「もう?」
「依頼してきた村はもうだめかも知れない、もしそうだったら報告だけはお願い。
ほんとゴブリンは……臭いし群れるし……」
「生態は知っている、なるべく早く向かうことにする」
「気をつけてね」
アーシュは宿泊先にもしかしたら数日戻らないかもしれない旨を伝えてから依頼の村へと向かい出発する。
「さて、ここなら平気だろ」
街からある程度距離を取ると街道から外れ周囲の人目が無いことを確認する。荷物や鎧などをすべて収納してそこからは走り出す。依頼の村までは普通に荷物を抱えて移動すれば数日かかってしまう。嫌な予感もあるし、アーシュはできる限り急いで村へと駆けつけた。
「はぁはぁ、そろそろ、ってやはりやばい状況か!」
素早く荷物と鎧を身に着けて煙の上がっている村に破壊された木柵を飛び越えて飛び込んだ。
「誰かいるか!?」
襲いかかってきた緑色で1メートルほどの背の小人、ゴブリンを袈裟斬りにしながら叫ぶ、戦いの気配、人の悲鳴、とにかく駆けつける。
「う、うわああ!!」
「ぎゃっぎゃ!!」
農耕用の鍬を振り回し必死にゴブリンと対峙している老人、そして木製のクラブを構えてその鍬を叩きつけている二匹のゴブリン、背後から首を切り落とす。
「おらぁ!」
「だ、誰ですか!?」
「冒険者ギルドの者だ、歩けるならできる限り着いてきてくれ近くにいれば守れる」
「す、すまない!」
身体は痛そうだがなんとか歩けそうだった。
「キャー!」
「行くぞ!」
そこら中にゴブリンが暴れまわっている。アーシュは村人を保護しながらゴブリンを片付けていく。
「ちいっ、間に合わん!」
素早く弓を構えて速射する、今にも村人に襲いかかるゴブリンの首筋を撃ち抜く、アーシュは一人で村の内部に侵入したゴブリンを殲滅し生き残っていた村人を救出することに成功した。ゴブリンの粗末な武器が幸いし、骨折などの重症者はいるものの死者はいなかった。アーシュはそのまま薬草などを利用して治療を施し村の壊れた防備に応急処置を施す。この時点で、大赤字の依頼になっていた。
「本当に、なんとお礼を言えばいいか」
「遅くなってしまった」
「いえいえ、そもそも依頼を受けてもらえるとは……」
「すまんな、それに、まだゴブリンはいるんだろ?」
「たぶん、やはりこの村は捨てるしか無いですね。森の奥にたぶんゴブリンが巣食ってしまったのでしょう、この数ですから」
「わかった、とりあえず怪しい場所を教えてくれ様子を見て、可能なら潰してくる」
「本当ですか!? し、しかし、あの依頼以上の礼は……」
「いや、俺はゴブリンのこの匂いが大嫌いなんだ。減らせるなら減らしたほうが良い」
ゴブリンの討伐の証である耳が入った悪臭を放つ袋を掲げ軽口を放つ。村人も声を上げて笑って、そしてがっしりとアーシュの手を握る。
「お願いします」
「ああ」
そして、村の防衛依頼はゴブリンの巣の壊滅へと変わる。
早朝に到着できたのでまだ時間的な余裕はある、アーシュはそのまま森へと侵入していく。
久しぶりの森林に少し懐かしいと思う自分に苦笑しながら敵の探索に入る。
それほど知能の高くないゴブリンの痕跡を見つけることは難しいことではなく、程なくして敵の巣を発見した。