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第5話 戦い

 アーシュは十分な距離を移動した後に外套を変える。漆黒の外套から派手な真っ赤な外套に変化し、鎧も暗いカラーの革鎧から金属製の鎖帷子、全体的に重厚な装備へと変えることにした。軽装備のスカウト系冒険者から剣士風装備へと換装した。

 街道沿いに少し開けた場所、何台かの馬車も休憩している街道上の休憩場にすっと侵入し端の方で手早く準備をして夜を過ごしていく。

 アーシュはできれば先程絡んだ馬車が来てくれる事を期待していた。女性を襲った謎の黒いマントの男はどこかへと去っていった。自分はもともとここで休んでいた旅の剣士だという形を得たかった。

 そのアーシュの考えのとおりにしばらくすると馬車が休憩場に入ってきた。股間を蹴り上げた男は怒りを顕にしながら他のメンバーに夜を越す準備をするように偉そうに命令をしていた。


「まったく、不愉快な男だ」


 ポツリつぶやきながらアーシュはこれからのために準備をしていく。

 まずは魔道具による収納道具なんて大層な物を持っていることがバレないように冒険者として旅する際に必要な道具を運ぶのに自然な鞄の準備、これは背負うタイプの大きな鞄が一番自然だ。そして、自分自身を知っている者に出会って身バレを防ぐために髪の毛の色を赤毛から少し黒ずんだ色へと染める。4年もすれば顔つきはすっかりと変わっているし、さらに髪色が変われば気が付かれる可能性はグッと減る。

 そして、これから冒険者として生きていく新たな名前、アーシュ・カレルレンは死に、新たにアーシュ・サカキとして生きていく。


「2つの姿を利用するか……」


 剣士の姿は表の冒険者としての姿、漆黒の外套に身を包んだ姿は世界を変える男……アーシュは京一の持っていた道具の中から東方の鬼という魔獣の姿を象った仮面を取り出す……禍々しいその造形は、世界を恨み変える人間によく合っている気がした。それと外見を変化させる魔道具、アーシュは森で過ごした4年間京一がまとめた栄養学と筋力トレーニングの理論を実践しており、彼の身長は180を超えている。この世界の平均男性の身長は170くらいなので、彼はかなり目立つ長身だ。さらにその肉体は自然な日々で鍛えた人間に比べれば的確に筋力トレーニングを行っているために引き締まって入るがマッチョ体型になっている。そこで剣士のときはそのまま恵体の冒険者として、影の姿は160cmほどの小男のイメージをつける。そうすることで二者が同一とは思われにくくなる。

 ここに、アーシュは2つの存在を産み出すことを決意するのであった……


「世界を変える男の名前はリョウマがいい、京一が一番好きな人物の名前らしいしな」


 冒険者アーシュ・サカキ。革命家リョウマ。

 表と裏、アーシュの新たな人生が今歩みだされる。


 夜が明けるとアーシュ以外の人々も慌ただしく出立の準備を始める。アーシュはソロの冒険者風に優雅に朝の準備を進めていく、あえて香草などをふんだんに使って周囲の衆目も集めておいて例の馬鹿を含む集団にもアピールを忘れない。

 そうしてゆったりと荷物をまとめ最初の目的地フォルカナへと向かい歩いていく。

 

 出立して暫く行くと前方から馬車や旅人が慌てた様子で引き返してくる。


「あんた! この先に魔物が出ている、引き換えしたほうが良い!」


「何が出たんだ?」


「グラスウルフが5匹くらいだと聞いている」


 グラスウルフ、肉食の動物で、魔物ほど強力ではないが、戦う力がないものからしたら脅威だ。アーシュは5匹くらいであれば問題なく対応が出来ると判断し、駆け出した。


「あれか!」


 放棄された馬車の荷を漁っているウルフ達の姿を確認する。

 背負った弓を素早く取り出し、弓をつがえて一射で挨拶代わりに一頭のウルフの横腹を撃ち抜く、異変に気がついたウルフたちがアーシュを警戒して半包囲するようにアーシュの回りを歩き出す。

 馬車に繋がれた馬は残念ながらすでにウルフ達の餌食になってしまっている……

 アーシュの意識が馬へとそれた事を敏感に感じたウルフが一気に襲いかかってくる、もちろん意識を切ったりはしていない、飛びかかる一頭を横薙ぎに切って伏せ、足元を狙ってきた一頭に返す剣で薙ぎ払う。

 その後襲いかかる狼を同様にぶった斬って戦いは終わる。あまりにもあっけなく終わるが、決して狼達が弱いわけではない。

 外道の森に現れる魔物や凶暴な動物に比べて、外の敵性生物は可愛いものだ。もちろん中には同等や魔獣並みの存在もいるからアーシュは油断はしない。京一も戦いにおける油断が命を奪う最大の敵だと口を酸っぱくして本に繰り返し記載していた。

 最初に横腹を撃ち抜いた狼は息も絶え絶えだがまだ生きていた。

 

「悪いな、これも自然の習わしだ」


 弱肉強食、相手を襲うなら、命を奪うなら奪われても仕方がない。

 動物に対する慈愛の気持ちは持っているが、命のやり取りしかない相手に容赦はしない。京一もアーシュも動物愛護活動家ではない。意味のない虐待や殺戮に嫌悪を示すが、生きるため、戦いの末の命のやり取りは自ら生きるために時に躊躇なく相手の命を奪うこともある。


「ふう、ちょうどいいからギルドに持っていくか」


 冒険者ギルドでは動物、魔物の素材を買い取ってくれる。

 狼達の足を紐で括って木を利用して血抜きをする、その後ずた布を利用して引いて持ち歩く。重いがいいトレーニングだとアーシュは考えている。

 動物の解体についても京一の本で学んでいる。自分でも完璧に行えるが、今回はギルドに任せることにする。

 すれ違う人々に大きな荷を引きずる長身の剣士がいるとしばらく奇異の目で見られる羽目になった。


 馬車の持ち主はそのうち戻ってくるだろうからわざわざ待って荷を守る気もない。犠牲になった馬にはそっと手を合わせ再び街道を歩き始めた。


「見えた……久しぶりだなフォルカナの街」


 幼い頃親とともに訪れたことがある。遠い記憶だが、防壁と扉に包まれた街はアーシュに望郷の想いを抱かせるのだった。

 


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