第43話 大戦
帝国の崩壊は人間たちに大きな衝撃を与えた。
軍事力において一つ頭が抜けていた帝国が亜人の軍団に敗れ、しかも大量の奴隷となって亜人達の発展に寄与している。
これは人間たちにとって耐え難いことだった。
こうして人間たちはお互いの戦いを止め、亜人という共通の敵を討つために手を取り合うことになった。そして同時に、人間の生活圏にいる亜人達には酷い未来が待っていることが確定した。
「大連合か……奴隷の救出と亜人の非難を急がせろ」
「すでに、多くの同胞が……」
「我らを非難する声もあがっています」
「だろうな」
「愚かな、一生人間の下で生きていくつもりか」
「騒ぐな、リョウマ様がいなければ私達もその道を受け入れていたではないか」
「ぬぐっ……」
「議論している時間はない、人間たちが一つになって襲いかかってくる。
この戦いで全てが決まる。今までのような奇襲は通用しない、これからは防衛がかなめとなる。計画を急ぐぞ」
ユグドラシル軍は魔法によって国の周囲に防壁を形成していく。
土を隆起させ壁として、その土をとった場を掘りとなしていく。
ドワーフたちを中心とした土木舞台が土壁を防壁へと変えていく、門を作り橋を渡し国への侵入を塞ぐ壁を作り出していく。
リョウマも最前線で土木作業に強大な魔法で協力していく。
長大な堀に河川から水を流し込むことで急流とし敵を阻む一手とする。
こういった作業の途中でも人間の連合軍は妨害と侵攻を止めることはなく、リョウマを始めとした戦士たちは各地を転々としながら戦闘を繰り返していく。
「ば、ばかな!? あんな巨大な呪術、いや、魔術……化け物か!!」
敵軍を飲み込む炎の嵐、風の刃、氷河の牙、リョウマの振るう魔法は敵の呪術を丸ごとの見込み敵軍を引き裂いていく。
「はぁはぁ……」
「リョウマ様、お控えください、このところ戦い漬けです! 顔色も酷い、ここはお任せいただきお下がりください!」
周りの声を無視してリョウマは最前線で戦い続けていたが、本人も限界を感じ一時前線を離れた。最低限の食事、身の回りの世話を行いベッドに倒れ込むとすぐに意識を失った。
そして気絶状態の意識下でリョウマの前に精霊王が現れるのであった。
「久しぶりだなリョウマ」
「精霊王様、お久しぶりです……私は死んだのですか?」
「まだ死んでいない。まだな。リョウマ、あの魔法の使い方を今すぐやめろ。
精霊が苦しんでいるし、お前の命を燃やす」
「……やはり、精霊は苦しんでいましたか……」
「気がついていただろう? お前の魔法は穢を生む、このまま続ければ世界が滅びる」
「私の命ではなく、世界が……」
「穢は闇を産む。闇は生を憎む。闇は呪術とは比べ物にならないほど強大だ。
我らが除いた闇を産み出すことは看過できない」
「呪術に対応するためにも、魔法は必要です」
「このまま進めば人間も呪術をさらに高めてしまい、同じように闇を産む。
呪術も魔法も根源は同じ、プラスとマイナスのようなものだ。しかし、闇の力、反転した力はこの世界には呼び込んではならない」
「魔法も呪術も根源は同じ?」
「そうだ。だがリョウマが行使してる強制の魔法はマナを穢す。
そしてそれを行使する魂も、今すぐ使用をやめろ」
「……マナは精霊の力の源、いや、精霊そのものか」
「我と共にある者たちもそうだ」
「もし、世界からマナが消えれば魔法も呪術もなくなる」
「そんなことになれば精霊も我らも消えることになる」
「別の世界へとマナを移動させればいいのでは?」
「我らの世界を産み出す、そんなことは神の力だ」
「別の世界は存在する。それは京一が示してくれている。
世界を変えなくても空には宇宙があり、宇宙には無数の星星がありこの世界と同じような広大な世界が広がっている……」
「リョウマ、何を考えている」
「……魔法はできる限り使わないようにする。俺は、この世界を救いたい。
魔法も呪術も人を豊かにするのではなく戦いの武器にされるのなら、精霊も救いたい。もちろん、精霊王様たちも……」
「リョウマ……」
「ご忠告感謝いたします」
「何をするつもりか知らないが、リョウマもこの世界の一部なのだぞ」
「ありがとうございます」
リョウマは目を覚ますと幾分からだの状態が回復しているのを感じていた。
じっと指輪を見つめ、何かを決意した表情で自室を後にする。
「リョウマ様、戦士たちが帰ってきました」
「皆無事か?」
「はい、今回も大勝利です」
「そうか、戦いの後に済まないが、皆を集めてくれないか」
「かしこまりました」
獣人の男は深々と頭を下げて王の間を出ていく。
数刻もすればこの国を動かしている中枢のメンバーがリョウマの前に揃う。
「皆、此度の戦いもご苦労であった。
防戦の備えはそれなりに整ってきた。
しかし、このまま戦が続けば国の規模の差、数の差で我が国は負けるだろう」
リョウマの言葉に皆が少しざわついたが、手をかざし言葉を続ける。
「私はこの世界で不当に虐げられているあえてそう呼ぶが、亜人達を救うために立ち上がり戦っている。この世界で我々がまともに生きていく方法は、人間と相互理解を深め共生していく」
無理だ、人間たちにそんなことは出来ない、受け入れられない。各人から声が上がる。
「もしくは人間を滅ぼすか」
そうだそうだ! 人間を滅ぼせ! また別の声も上がる。
「別の居場所を求めるか」
どこにそんな場所が……、また逃走の日々か。
「……我々は人間よりも強い」
そうだそうだ!
「しかし、ある力が我らの邪魔をする」
呪術だ!! しかし我らには魔法がある!
「そこで私はこの世界から呪術をなくそうと思う」
おおっ!! リョウマ様!!
そのような方法が?
「皆、私に協力してくれるか?」
「うおおおおっ!! リョウマ様万歳!!」
亜人達は興奮していた。自分たちの信じているリョウマが、今、明確な自分たちの未来を描いてくれたからだ。
一方リョウマの表情は固く、しかしその瞳には強い決意が現れていた。
その描く未来を正確に理解しているのは、この場にリョウマ一人であった。




