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第39話 解放

 奴隷解放運動は急速な広がりを見せていた。

 リョウマ達の集団は榊、神の宿る木として太古の物語からユグドラシルと呼ばれるようになっていた。

 ユグドラシルのメンバーは魔法を使い呪術と対抗し、奴隷を解放し戦力へと加えていく。呪術によって虐げられていたが、本来は人間よりも優れた能力を持つものも多い亜人達は、さらに魔力という力、魔法という武器を得ることで人間たちを圧倒した。

 それでも首領であるリョウマの指示の元できる限り正面からの戦いは避けていたが、奴隷という都合の良い労働力を生活の基盤として組み込んでいる人間生活はあっという間に崩壊していく。

 人間たちはその生活の維持ができなくなり他国へと避難していく、そして、ユグドラシル軍は国を超えて奴隷を解放し、奴隷たちはユグドラシル旗のもとに集結していく。こうして、亜人国家ユグドラシルは急速にその勢力を伸ばしていく。


「リョウマ様、ご報告したいことが……」


「どうした?」


「……一部のものが、人間を、その、奴隷化して使役しているようです……」


「なっ!? ……魔法でか」


「はい」


「やられたことを、やり返している。……はぁ、しまったな、当然の帰結で考えなければいけないことだったのに……各種族の長を集めてくれ」


「わかりました」


 亜人たちからすれば、当然思うことだ。

 自分たちを利用していた人間のように、今度は自分たちが人間を利用してやる。

 そこに、人道的な考えや、良心の呵責が働きづらい土壌がすでにある、いや、積極的に人間たちに懲罰を与えるという意識があることはもっと考慮しなければいけなかったのかもしれない。リョウマに与えられた仕事は膨大で、そこへのケアが遅れたことは責めることは出来ないが、すでに動き出した奴隷化の動きは、今まで秘められた恨みの厚みのせいで加速度的に進んでしまい、ただ禁止するのでは収まらない状態になっていることを、情報収集したリョウマは知り。頭を悩ませることになった。


「これで俺が奴隷禁止を唄えば、人間だからと避難され、奴隷禁止を言わなければ人間側からその自己矛盾を責められるな」


「リョウマ様を人間だからと判断するような輩は極刑に処すべきです」


「いや、止めてくれ。俺自信がそのことを自戒として持っているんだ。

 そして、それは永遠に失われることはない……」


「リョウマ様……」


「俺は聖人になるつもりはない、俺自身の野望のために亜人を結果として救っているに過ぎないんだ……」


 本当に救いたかった者たちは、救えなかった。リョウマは今でも自分を責め続けている。


「できれば、奴隷を苛烈に扱うことはしてほしくはない。自分たちがやれていたから当然と思うものがいることも理解は出来るが、我々は獣に堕ちる必要はないだろう……」


 リョウマが奴隷について発言したのはそこまでであった。

 リョウマを崇拝する者たちはその言葉を汲んだ。しかし、リョウマから距離のある亜人達は、必ずしもそうではなかった。


「自業自得……しかし、結局また今の行動のツケを未来の自分たちが払うことになる、永遠に終わることのない鎖環に囚われ続けるのか……」


 そして、リョウマの期待も虚しく、人間との戦いは激しさを増していき、ついに大規模な軍隊との戦闘が発生する。

 ユグドラシル軍が支配する都市エジラースに2万の兵が都市奪還に動いた。


「……都市の放棄はもう無理だな」


「はい、すでに生活の拠点として機能しており、民間人の退去等は困難を極めます」


 街へと急ぐ車の中でリョウマは初めての大規模戦闘を前に入念に情報を精査していく。


「呪術師は200名、やはり国を相手にすると凄まじいな。こちらは50名が限度だというのに」


「呪術師自体は少ないとは言え、人間は数が多いですからな」


「さぁ、そろそろ、出るぞ」


 圧倒的に数で劣るユグドラシル軍は街に籠もり防衛戦で戦うのが定石だろう。

 

「守戦は呪術師と魔法使いの数の差で押し込まれるからな……」


 呪術によって作られた呪紋や直接のデバフなどは魔法で打ち消すことは可能だが、呪術由来の炎や風の刃などを魔力によって打ち消すことは難しい。同等以上の質の魔法で対抗しなければいけない。魔法もまた呪術によって打ち消すことが出来ることはすでに実証されている。圧倒的に優位に立ったわけではなく、一方的な力に抵抗できる力を我々も手に入れたに過ぎないのだ……


「始まった」


 街への攻撃が開始される。

 人間側の攻城投石や呪術の炎が降り注ぐ。

 ユグドラシル軍はドワーフ製の大砲やまだまだ原始的ではあるが、鉄砲で反撃している。運用コストが高いので、まだまだ主力は弓矢だが、弓矢も魔力で強化した亜人が用いれば人間の放つそれとは別世界の威力へと変貌する。

 それでも人間たちの軍はじりじりと街へと接近していく。破城槌がすでに至近まで接近しており、門に取りつかれるのも時間の問題だった。

 人間の兵士たちは密集陣形で分厚い盾で攻城兵器を守っている。呪術で強化された盾によって強力な弓による攻撃も防がれてしまっている。

 戦闘全体は少しづつ人間側に傾きつつ合った。正門を抜かれれば、大量の人間たちが街になだれ込み、亜人達を数の暴力でなぶり殺していく。

 人間たちも亜人たちへの恨みが積もっている、飼い犬に手を噛まれたという感覚だが、自分たちよりも下の存在が逆らうことは、この世界で最も人間を怒らせる。

 

「呪術師の位置は特定した。

 街側からの計測からも間違いないだろう……」


 リョウマ達は今、大群の背後に潜んでいた。事前の予想していた呪術師たちの配置と実際の戦闘によって判明した場所を照らし合わせ、奇襲のタイミングを計っているのだ。戦闘中でも遠距離での通信が可能なリョウマ達は街からの情報を下に奇襲の目標地点を正確に把握した。

 リョウマと精鋭30名。このあまりにも少ない小部隊が、この戦争の勝敗を分ける重要な駒となる。

 そして、精霊から必要な情報が全て届いた。今、動く刻。


「行くぞ!!」


 決死の作戦が開始される!


 


 


  

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