第37話 火山の街ゾメタキデサ
「……暑いな……」
火山地帯は想像を超えて過酷な状況だった。
森は幾度も火災を経ているのか群生しておらずまばら、山岳地帯にも突然マグマが流れている場所があったり、普通に旅をするのも危険、よほどの理由がなければわざわざ近づくことはないだろう、理由はおもに2つ、非常に希少な鉱物や宝石が出ること、そして、火山地帯に広がる広大な遺跡が存在することだ。生態系も独特で火炎耐性のある魔物が多いし、炎熱系の対策をしっかりしておかないと戦いは厳しい。
「ここが、ゾメタキデサ……」
切り出した火山岩を積み上げた城壁は漆黒で威圧感がある。
比較的涼しい場所に街が作られているが、特に壁の内と外で温度が異なる。
壁を超えて街に入ると過ごしやすい温度になっている。
そして、この街に来て見かけるようになるのが竜人の奴隷だ。
竜人は亜人の中でも力も強く、熱にも強く、強靭な鱗によって素の防御力も高い。
寡黙な人種だが優しく穏やかで、それでいて信念を持って戦う時は誰よりも頼もしい仲間となる。心を通わせれば最高の友人足り得る存在であると京一のノートに記されていた。この地に来たもう一つの目的は竜人の解放だ。
「……くっ!」
この街での竜人の扱いはそれはもう酷いものだった。頑丈な身体を良いことにむち打ちは当たり前、過酷な労働を強いられながらも全ての竜人達はガリガリにやせ細っている。そんなやせ細った竜人だが人間では考えられないような荷物を引いている。その姿にリョウマは拳を震わせ怒りを煮えたぎらせていた。
うまく街に入り込んだリョウマは活動を開始する。
すでに魔力による操作は熟成されてきている。
遺跡の調査と並行して奴隷たちの支援と魔力によるマーキングもお手の物だ。
竜人たちの怪我や病を治し、いくばくかの食料などの支援をコツコツと続けていく。
「刻が来るのを待て」
今は我慢をしてもらうしか無いことを悔しく思いながらも、遺跡の探索を続けていく。外の火山地帯の影響を受けているのか遺跡の内部にもマグマが流れていたり、その熱エネルギーを利用したギミックなどが多く、広く複雑で今までの遺跡と比べると探索に時間がかかっている。それでもリョウマは京一の本の情報を頼りに遺跡の最奥へとたどり着いた。
「……今なら、わかるな」
隠された部屋に張り巡らされた呪紋の意図が魔力に完全に目覚めているリョウマには理解が出来た。破壊の方法も。京一が残したメモと照らし合わせながらその中央に封印された炎と再生の神獣であるフェニックスの解放の方法を探っていく。
「たぶん、こうすれば……」
今までは全ての呪紋を破壊してから意思疎通を計っていたが、呪術の仕組みがわかってくれば開放前から《《繋ぐ》》事ができる。
【懐かしい魔力の波動……人間が何のつもりだ?】
「私は亜人の解放と魔法の解放を目指している者です」
【……滑稽なと一笑に付すところだが、お主からは懐かしい気配がする】
「精霊王に偉大なる海の主もお救いしました」
【そうか、我が悠久の時間においては些事だが、如何せん飽きもした。
いいだろう我もヌシと行こうではないか】
「よろしいのですか? 貴方様であれば本来の身体を取り戻すのは簡単なことでは?」
【良い良い、懐かしき友との語らいを楽しみつつ、復活の手伝いでもして貸しの一つでもつけてやるのも一興】
「わかりました。今は人の奴隷となっている竜人の解放を成した後また来ます。
たぶん、街はマグマに飲まれるでしょうから……」
【それには及ばぬ、この地の火の力は開放とともにいただいていく】
「わかりました。それではすぐに解放いたします」
リョウマは竜人たちの奴隷紋を破壊する。そして同時にフェニックスを呪術の楔から解き放つ。
【リョウマ、だな。感謝する】
神獣が羽を伸ばすと周囲のマグマから炎が翼に吸い込まれていく。
膨大な熱エネルギーをその一身に取り込んで神々しい神獣の姿が蘇っていく。
【まぁ、これくらいあれば足りるだろ、しばし邪魔するぞ】
フェニックスはその身を光に変えて指輪に取り込まれていく。
ドクン、とリョウマの身に激しい力が流れ込む。
「ぐぅ……あ、熱い……」
力だけではない、彼の中にこの世界に共にいたはずの精霊の知識が流れ込んでくる。それと同時に、この地を中心に世界を飲み込んでいた呪術が崩壊する。
「おお……!!」
魔力をまとったリョウマの瞳に、多くの小精霊たちが嬉しそうに舞っている姿が映っている。精霊の王を見に宿しているリョウマのそばにはいつの間にか多くの精霊たちが集っていた。その存在は巨大な呪術で封じられており、それがいま知覚化出来るようになった……
赤く脈打っていたマグマが静まり返った遺跡、仕組みが動かなくなったので、一部は破壊して外へと脱出すると、街は大混乱だった。
熱エネルギーを利用した多くの道具が使用できなくなり、そして竜人たちがみな一斉に街から姿を消したからだ。
「さぁ、約束の地へと向かおう」
リョウマは竜人たちと交わした約束の場所へと向かう。
そこではリョウマの部下たちが竜人と合流し、出発の時を待っているだろう。
亜人達は、精霊の声を聞き、魔法を取り戻した。
世界が、元の姿を取り戻しつつあった。




