第33話 波紋
フーランジュの崩壊は世界に小さくない波を立てた。
アーシュ・サカキ及びリョウマは冒険者ギルドの名の下に賞金首として世界中から追われることになる。
フーランシュにおける鉱石産出は世界中に影響を与えるために再びその体制を整えるためにドワーフ狩りなども行われたが、リョウマ達がそれを見過ごすわけがなかった。
「信じてくれ、リョウマ様といれば呪術に怯え、人間に怯えなくても済む!」
「俺達は体験したんだ、呪術が消える様を」
「無理強いはしない、まだ我々には力はない、ただ、意思だけで動いている。
リスクだって当然ある。俺は俺自身のために世界を変えるたいだけでそこにドワーフへの慈悲や温情があるわけじゃない」
「酒が飲めるぞ」
その言葉にその場にいたドワーフ全員の目つきが一気に変化した。
「リョウマ様は酒をくださる。仕事に支障がなければいつでも飲んで良いんだぞ」
「ば、馬鹿な……そんなこと」
「事実だ」
一人のドワーフが懐から酒瓶を取り出す。真鍮のコップを出すとそこに酒をついでいく。ドワーフの視線は注がれる酒に集中する。そして、そのドワーフがぐいっと飲み干すと同時に全員の喉がゴクリと音を立てた。
「俺は決めた。ついていく」
「ずるいぞ! 俺もだ!」
「俺も俺もだ!!」
こうして、周囲のドワーフたちは皆リョウマ達一団と合流し、地域のドワーフはいくら狩ろうにも見つかることはなかった。
リョウマ達は大所帯になったが、初めに仲間になったのがドワーフであったことは幸運だった。
「蒸気、機関……なんだこれは……考えた奴は天才か?」
「どうだ、作れるか?」
「ああ、作ることは造作もないが、作業しようにも鍛冶場も素材も……」
「大丈夫だ、全て《《持ってきた》》」
ずらりと並ぶ鍛冶場、それに大量の物資にドワーフ達は目を回した。
各地を転々としながら製造を続け、ついに自走する馬車、自動車を作り上げ、リョウマ団は機動力を手に入れた。
ドワーフの技術力はこれだけにとどまらない、生活用品から武具まで、彼らの力がもたらす恩恵は計り知れない。
「この力を一方的に搾取するなんて、いくら感謝しても足りないだろう……」
「そんなこと、言われたこともないから、戸惑うが、礼を言われて嫌な気持ちはしないな……しかし、リョウマ様、その、大丈夫なのですか?」
「……大丈夫だ、これも力を得た代償だろう……」
リョウマは、強力な魔法の力を手に入れた影響で、不眠に悩まされている。巨大な力が体内を流れ、収納の指輪を中心に常に火に焼かれているような熱さに苦しめられている。戦闘などの時は良いが、日常いかなる時でもその熱は彼を苦しめ消耗させたが、これが人間の罰、そして、メラとヤドを失った自分への罪だとリョウマは痛みがあるから自らの罪を刻みつけられると精力的に働き続けている。精神的にはきついが、肉体的には魔力のお陰で圧倒的な力を維持しつつ疲労を感じることもないことは不幸中の幸いだった。その影響なのか、異様に食欲が増大していた。
「リョウマ様、次の目的地は?」
「海底遺跡、ラクッシスに向かう」
「西端の半島ですな」
「そこにも魔法の鍵が存在している。もうギルドに頼る必要もない、こっそりと侵入して調べてくる。その間にドワーフのみんなには仲間の勧誘とか生活のための道具生産をしてもらいたいから……一時的な拠点を人里離れた場所に作りたいな……」
「若いのに探らせておきます」
「だったらこれ使って、認識を変える指輪、呪術で見られなければ人間に見える」
「そ、そんな物が」
「いずれは魔道具も作れるようになるはずだから、その時は頼むよ」
「ものづくりで期待されるのはドワーフとして最高の誉れ!」
「呪術に対して抵抗できれば、みんなの安全もぐっと守れるんだけど、今は俺しかいないからなぁ……」
「魔力……あっしらにも分かれば良かったのですが……」
リョウマは色々と自分の見えている魔力をドワーフ達に伝えようとしてみたが、未だにそれを成せていなかった。世界にはびこる呪力と魔力を知覚できるのは、今この世界にリョウマ一人しかいない。
自動車を駆りリョウマ一行は西を目指す。メインとなる街道を避けて多少悪路であっても人目につきにくい進路を選んで進んでいくが、都度都度自動車にドワーフ族の血が騒ぐのか改良が加えられていく。
外観をできる限り馬車の荷車っぽく偽装して、馬がついていれば目立たない工夫もつぎつぎと考えられていく。
人とすれ違う時はドワーフに引かせればまずバレることがない出来になっていく。
「可変構造までつけて偽装するのか……」
「京一様のアイデアは素晴らしいですな!! もっと色々と作っていきますぞ!!」
京一の書から多くのアイデアをドワーフに提供した。ドワーフ達は楽しそうに四苦八苦してそれらを作り上げていく。
自由な発想とものづくり、そして酒。ドワーフの欲求を満たす喜びは彼らをどんどん本来の姿へと変えていく。自分たちのモノ作りに誇りをもった力強い種族としての姿を……
ラクッシスのある海岸線の平地に入る前に険しい山道が続いていた。渓谷が切り立っており非常に危険な道になっている。先人たちの過去の努力によって馬車がすれ違える程度の道が作られているが、それでも底の見えない谷は恐ろしい、この下には激しい濁流が渦巻いており、落下すれば助からない。
「リョウマ様、ちょっと調べてきていいですか?」
「だ、大丈夫なのか?」
「問題ありません、うまく行けば最高の隠れ場所を見つけられるかもしれません」
「気をつけろよ」
しかし、ドワーフたちの技術力の向上はリョウマの遥か上を行っていた。
すでに彼らはエンジンによる一人乗りのヘリコプターを作り上げていて、谷底に悠々と降りて調査を進めていく。
そして、調査の結果街道からは絶対に見えない位置に取っ掛かりとなる洞窟を発見し、あれよあれよいという間に拠点の足場を構築していく。
地に足をつける拠点を手に入れて、リョウマ達ドワーフはさらなる飛躍を遂げる。




