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第3話 魔獣

 アーシュ・カレルレンは死人、すでに死んだことになっている人間だ。そんな人間が旅をするために都合が良いのが冒険者という立場だ。

 京一もケイイチ・サカキという名前の冒険者として世界中を渡り歩いた。アーシュもまたこの世界を旅して仲間を集め、世界をひっくり返すために冒険者として生きていくことを決めていた。

 まずは街へ向かい冒険者としての立場を手に入れる。この世界では新規開拓の夢を見て村を作り、そこで産まれて公的な照明章がない人間は珍しくない。

 階級的には最底辺になってしまうが、村を起こしその地を治める人間に認められれば一気に階級の上位をめざすという夢がある。さらに上位の階級の人間に認められていけばより上位の階級になれる可能性だってある。

 正攻法で行けばその方法が階級を変化させる手っ取り早い方法だ。自分の実力を認めさせ、上位の階級の人間に引き上げてもらう。

 それは村を作り上納などで認めさせてもいいし、己の力を示しても良い、強い兵を軍隊を持つことは高い地位にいるものにとって非常に重要だからだ。

 それは、同等の階級の相手に戦いを挑み、相手の力を奪うことが認められていることに起因する。


 冒険者もそうだ。実績や実力を積み重ねて上位の階級になることだって出来る。最上位の冒険者は一国の王と対等以上の階級として認められている。


 冒険者ギルド、すべての国に存在する国家を凌駕する組織。そこに所属する冒険者には実績に応じてランクが付けられる。


 最上位の国を治める王族と同等の地位を持つ神話級。


 以下


 大公    幻想級

 公爵    世界級

 侯爵    最超級

 伯爵    超級

 子爵    最特級

 男爵    特級

 騎士    最上級

 子爵    上級

 上位市民  中級

 中位市民  下級

 下位市民  初級

 下民    準初級

 無認定   無級

 奴隷    


 このような階級が存在している。

 一つの村で言えば、領主に認められた村長が上位市民、まとめ役的役割の人間が中位市民、人を使って仕事をしている人間が下位市民、そしてほとんどの村人は下民となる。京一は子爵の子だったので生まれながらにしての圧倒的強者であったが、その立場を強権を振るうことを良しとしなかった……


 話は戻るが、アーシュはまず冒険者として登録することを選んだ。下民より下の無級扱いから始まるが、実績を積めば貴族と同等の力を得られる可能性だってある。

 一応、ギルドとしては同位の一般市民への干渉は出来うる限り避けるようには言われている。貴族達としてもギルドという組織との対立は大きなデメリットになるので冒険者のクラス分けにも一定の配慮はする。

 それを快く思わないものがいるのもまた事実で、冒険者というだけで眉を潜める人間もいる。事実、冒険者のうち下位の者たちはどんな汚れ仕事もするならず者も少なくなく、基本的にはチンピラやごろつき集団のような扱いになってしまっている。

 それでも一発逆転の夢を持っていたり、冒険に憧れや、過去の上位の冒険者の冒険譚などを夢見て冒険者を目指す人間もいる。大概は社会にうまく適合できず、それでいて日銭を稼いで生きていくろくでなしが冒険者になっているという側面は、間違いなく事実であった。


「それでも、俺は冒険者になる……」


 この世界の序列や冒険者ギルドについて書かれたページを閉じてアーシュは再び森を歩き始めた。外道の森に現れる魔物であればアーシュは弓で撃ちそのまま剣や槍で対処できる。武器も京一が集めていた物がたくさんある、この世界においてそれなりの業物も存在している。身につけている鎧も遺跡から手に入れたものだ。

 森の中で注意が必要なのは魔獣と呼ばれる存在だった。

 魔物の中でも特に強力で高い知識を持っている。そして、失われた魔法を使う個体もいる。森の中にも数体確認しており、どれも非常に危険な存在。見つけたらできる限り早く距離を取って逃げるべきだ。不意に遭遇すれば死は免れない。

 

「……運が悪い……おかしいな、領域テリトリーには踏み込んでないはずだけど」

 

 強力な魔獣は魔獣同士で争わないために縄張りを持っている。基本的に縄張りの外に出て他の魔獣を刺激したりはしないものだが、運悪くアーシュはふらふらと領域外へ出てきていた魔獣に近づいてしまった。

 京一の本によるとその魔獣の名は疾風のベルガンティア。狼のような鬣に牛の顔、身体は巨大な狼のようでその造形は人間に本能的な不気味さを感じさせる。魔獣の証である真っ赤な瞳、魔法を使う際は煌々と赤い光を放つ、その瞳を見開き周囲を伺っている。漆黒の体毛はかなりの硬度を持っていて質の低い剣では弾かれるほどらしい。風の魔法を使い、大木も容易く切り倒す風の刃を産み出す。

 アーシュは運悪くベルガンティアの気ままな狩りに遭遇してしまったようだった。


「まだ、気が付かれていない……」


 森を移動する際は木々や草の汁などをたっぷりと付けた外套を身にまとっている。

 保護色にもなっていて視覚的にも見つかりにくくなり、魔物や魔獣、動物の嗅覚からもアーシュの姿を認めにくくしてくれる。

 息を潜め、巨大な魔獣が大地を揺らしながら歩いていく姿を、過ぎ去ることを祈りながら待つしか無い。ここで下手に動いて気が付かれでもしたら、死が待っている。


「くっ……近づいてきている……」


 魔獣がどう動くか、そんなことはアーシュにはどうしようもない。

 手持ちの道具を利用してどのように逃げるかを頭の中でいくつもシュミレーションする。

 ベルガンディアの呼吸の音が聞こえるほど、地面の揺れをはっきりと感じるほどに近づいてきている。背筋を冷たいものが流れ、気を抜けば小便も漏れ出してしまいそうだった。もう、これ以上近づけば逃げることも不可能になる、意を決して走り出そうと決心をしたその時だった。


 ガササッ!!


 すぐ脇の草むらからベルガンディアの恐怖に負けて森ギツネが飛び出した!

 ベルガンディアはにやぁと顔を歪ませ、その狐を追ってかけていく。

 森ギツネは自身のすべてをかけて最速で森の奥へと走り去っていく、その速度はとても人間で追いつけるものではない、ベルガンディアの巨体からは想像できないほどの速度で駆け出す。アーシュが身を隠していた木にベルガンディアの身体が少しかすめただけで、大木がギシリと揺れる。その衝撃に声をあげないように必死に我慢した。

 走り去っていくベルガンディアの姿が森の奥へと消えていくのを視て、アーシュは膝から崩れてしまった。

 見上げれば大木に大きく削られた痕が刻まれていた。

 

「……あれは、死ぬ……」


 アーシュは逃げ出した狐に感謝と無事を祈りつつ、急いでその場を離れるのであった。



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