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第29話 血意(けつい)

「う、うああ、うあああ、あああああっ、ああああああああああああっ!!!!!」


「黙らせろ」


「うぐっ、えあ、あおっ!! ごば、ぐぅうう」


 口の中に布を突っ込まれ声を封じられる。

 アーシュの頭は割れるようだった。目の前にさらされた二人の身体は原型をわずかに残しボロボロだ。はっきりと死を理解した。眼の前が真っ暗に、真っ白に、そして真っ赤になる。頭がおかしくなりそうだ。


「冒険者アーシュ・サカキ、汝はトリルバ子爵領の村を焼き財を奪った罪で糾弾されている。なにか言うことがあるか?」


 生涯で感じたこともない怒りに支配されたアーシュの脳裏には逆にまっすぐとあの宿での出来事が思い浮かんだ。布を吐き捨て、はっきりと告げる。


「宿に泊まる客を襲い金を奪う様な村を領地にしているとは、貴族様はさぞ立派なご治世をなさっている!!」


「き、貴様!! 言うに事欠いて子爵を侮辱するとは!!

 死刑! 即刻死刑を申し付ける!!」


「……収納」


 アーシュは二人の遺体を収納した。

 眼の前の遺体がアーシュの収納魔道具に吸い込まれて消え、アーシュは二人の死を確認し、覚悟し、激怒した。


「な、何をした貴様!!」


「俺が甘かった……俺のせいだ……人間なんぞに期待をしてしまった……

 どうにか出来る、なんとか出来る、わかってくれる……

 馬鹿だなぁ、本当に馬鹿だ。

 俺は、最低な主人だ……

 メラ、ヤド、もう迷わないよ。

 これからはずっと一緒だ……」


 アーシュは、今までさらすことを避けていた、最高の装具を呼び出した。


「うわっ!!」「何が起きた!!」


 アーシュを押さえつけていた兵士は吹き飛ばされた。

 アーシュはゆっくりと立ち上がる。

 牙龍の鎧、銀狼の兜、山亀の靴、炎凰のマント、氷虎の大剣。

 すべての装備を身に着けたアーシュの心は完全に決めていた。

 もう、一切揺らぐことはない。


「わが名はアーシュ・サカキにあらず。我が名はリョウマ!!

 貴様ら人間を滅ぼし、貴族を殺し、世界に反逆する者!!」


「名などどうでもいい、殺せ」


 リョウマは大剣を振りかぶり、馬車に向かって振り下ろす。

 剣戟は斬撃となり馬車に叩きつけられる。

 呪術によって強化された馬車の窓は割れ、扉は弾け飛んだ。


「トリルバ様!? こ、殺せ!! かかれ!!」


「……狂犬が……其奴を我が前にさらけ出せ!! 俺が殺してやる!!」


「お前がやれよ……」


 リョウマは踵を返し街の奥へと走っていく。


「な、逃げた!! 追え!! 追え!!」


 騎乗兵はすぐにリョウマを追う。

 リョウマは風を切るような速度で街の奥、遺跡へと翔けていく。

 彼の中には、一切の迷いが消えている。

 目的に向かって、燃え上がり、凍りついた思考で走り続けていく。


「死ねぇ!!」


 騎乗兵の攻撃を交わし、叩き落とし、馬を奪う。そのまま遺跡へと侵入していく。


「くっ、遺跡へ、構うものか!! 進め進めぇ!!」


「早く着いてこいよ、置いていくぞ」


 リョウマは敵兵の首を跳ね、足を引きずって血による道を残していく。

 彼の新しい、修羅への道を血で染めていく。

 血がなくなれば次の兵を待って同様に、道を描いていく。


「メラ、ヤド、君たちへの手向けには、美しくないが、捧げるよ」


 一人、また一人、リョウマは兵を殺していく。

 最深部、さらに奥の隠し部屋まで、その道を描いていく。

 彼の野望、その最初の一歩を歩みだすために……


「な、なんだこの部屋は……」


「おい、やつはどこだ!?」


「馬鹿な、隠れるような場所は無いぞ!!」


 敵の兵士が部屋に入ってくる。視覚情報を変化させる魔道具で最奥に腰掛けながらその時を待った。


「……10人と」


 目的の最後の一人が部屋に入ると、リョウマは魔道具を解いた。


「あそこにいるぞ!! 囲め囲め!!」


「呪術師はまだか!!」


「気をつけろ! 何人がやつにやられたか!!」


「囲め、動きを封じたら一斉にやるぞ!!」


「もう、遅いんだよ……」


「何を言っている貴様!!」


「冒険者風情が貴族に逆らうとはなりころ……ら?」


「らんら、からら、しびれれ」


「あう」


 どさっ、どさどさと騎士たちがその場に崩れていく。


「大声出して吸い込むからだよ」


 リョウマは兜の下にマスクをしている。漆黒のマスク、防毒効果もある。


「さて、お望みの生贄を用意した。

 今こそ、世界を、あるべき姿に返す」


 リョウマは呪具を操作していく。部屋全体の呪紋が激しく光りだす。

 地面に伏した人間はもごもごと何かを話しているが、リョウマは一切興味を持たなかった。

 

「さて、血をもらおうか」


「ぐべ」「がぁ」「へあ」「ひょ」「ぎゃ」「ぐわ」「がっ」「ずわ」「べら」「おへ」


 まるで鼻歌を歌いながら散歩でもするように10人の人間を切りつけ、その魂を捧げていく。首から流れ出す血液は呪紋にドクンドクンと吸い込まれていく、呪紋はその手足を騎士たちに伸ばしていく。血を肉を人間の全てを呪術は吸い込んでいく。

 彼らの身につけいた道具だけが部屋に残された。


「収納」


 そして、部屋にはリョウマ一人になる。


「この世界に、叛逆の狼煙をあげる。

 目覚めよ、大精霊王ゼイア=ルーン。

 世界を魔力で満たせ。【起動命令コード・ジェネシス】」


 巨大呪具が叫び声のような唸りをあげて起動する。正確には、起動停止なのだが、この人間によって歪められた世界が、元の世界へと変化する最初の一歩。

 大いなる計画の起動であることは間違いない。


 亜人王リョウマの名が歴史書に乗る最初の事変、フーランジュ崩壊、その序章が幕を開けた……


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